どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【20】決戦 その2

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 相変わらず、双方一歩も譲らず、攻防はめまぐるしく移り変わる。コロシアムを縦横無尽に駆け、宙へと飛ぶ。上空で槍と槍の獲物が交わる。雷光と闇の閃光が衝突した爆発が起こり、二人ともがその衝撃で跳ね飛ばされてコロシアムの壁に激突した。
 それにシオンとマイアが息を呑んでジークを見つめるが、コウジは涼しい顔で壁にめり込んだ双方を眺める。けろりとした顔で二人とも飛び出して石畳の床に着地すると、槍を今度は剣にもどして再び戦い始めた。

「ダイヤモンドより硬い結界の鎧を双方まとっているんだ。あの程度へいちゃらだよ」

 青くなってるお嬢ちゃん二人に解説でもないが、コウジは話す。
 逆にヤバいのは壁に二つ穴の空いたコロシアムをこれまた一瞬で修復したアンドルだろう。肩で息をしている彼にアルタナ女神が、ちらりと冷ややかな視線を向ける。これぐらいでへたばっているの? と言いたいのだろう。

 だが、コロシアムに修復出来ない大穴が開く前に決着はつくだろうとと、コウジは見ていた。
 相変わらず目にも止まらぬ剣戟を繰り広げる勇者と魔王の攻防は平行線に見える。が、コウジにはわかっていた。

 わずかにジークの光の力が、フィラースの闇を上回り始めている。

 始めに光があったのか闇があったのか。光があるからその影として闇があるのか……なんて中二病の文句だが、なるほど光の勇者に魔王は必ず敗北するはずだと思う。
 なぜなら光は闇を切り裂くが、闇は光を覆い隠すことは出来ない。ならばどれほど魔王の力が強かろうと、勇者の光は魔王を最後には必ず貫く。

 その強大な勇者の光が魔王を倒した瞬間に、内包する絶望を思い出して一気に暗転して闇へと変わると……そこまで企んだそのときの神の考えの底意地悪さには腹が立つが……それはそれとして。
 フィラースも自身の闇が、ジークの光に少しずつ圧され始めたことに気がついたのだろう。その剣の筋にわずかな焦りが出た。

 そして、それを逃すジークではない。
 黒い聖剣が深紅の魔剣を弾き飛ばし、フィラースのそののど元に、切っ先が突きつけられる。

 激しい勝負は一瞬にしてついた。一瞬、時が止まったようになったコロシアムに、フィラースの声が響く。

「どうした? トドメを刺さないのか?」

 勇者たるジークが魔王であるフィラースを倒せば、今度はジークが次の魔王となるための、長い眠りにつく。
 次の魔王の眠りとともに、魔界はこの世界を離れて次元の海を漂う。次の世界に巡りつくのはまた百年以上の月日がいるだろう。
 そこでまた召喚された勇者に魔王は倒される。

「勇者が魔王を倒し、勇者が魔王となる。その堂々巡りの繰り返しを俺達はするつもりはねぇよ」

 無言でフィラースに剣を向けるジークに変わって、コウジが口を開く。

「それで、一騎打ちに負けた私に大人しく、この世界から手を引けと?」
「そう願いたいものだけどなぁ」

 のど元に剣を突きつけられてなお、余裕で微笑むフィラースに、コウジもまた煙草をくゆらせて、口の片端をつり上げる。その顔をじっと見つめてフィラースが口を開こうとした、そのとき。

 上空に浮かぶ魔王城から、ギラリと何かが光った。

 あれは……と思う。モルガナの大神殿を一瞬にして炎に包んだ魔道兵器だ。いきなり上空に現れた黒い城から放たれたそれは一撃で国の中枢たる宮殿や大神殿を破壊してきたのだろう。
 モルガナの神殿の最後を聞いたフィルナンド王はだから王都から人々を避難させたわけだが。

 さすがにフィラースを巻き込むわけにはいかないのだろう。砲撃の規模は小さいがコロシアムの半分は吹っ飛ぶだろうとコウジは瞬時に計算した。
 ジークのみならず後ろの観客席にいるフィルナンド王達に直撃だ。その彼らを守ろうと、フィラースが跳んで離れたように、ジークもまた同時に跳んでフィルナンド王達の前に立つ。己のまとう鎧の結界で、この砲撃の直撃を耐えようというのだろう。

 が、そのジークの前に“飛んで”飛び出したのはコウジだ。あの魔王城の玉座の間と同じく、両手を広げて自分の身体で砲撃から、後ろの彼らを守ろうとする。

「コウジ!」

 ジークが叫んでその“浮かぶ”コウジの腹に手を回す。抱きしめる。
 直後、業火の砲撃が彼らを襲う。深紅の炎が二人を一瞬包むが、それは光と闇の螺旋が渦巻く柱によって拡散する。その渦が天を貫く。

 あまりのまばゆい閃光に、後ろにかばわれたフィルナンド王達は目を思わず細めて、そして光が消えたその一瞬後。

「ジーク・ロゥ! コウジ……?」

 フィルナンド王の呼びかけの語尾が疑問形になったのは仕方ない。

 自分達に背を向けるジークに後ろから抱かれたコウジの背には、漆黒の翼があった。黒でありながら、キラキラと黄金の光を放つ。
 そして、振り返ったコウジは。

「は、恥ずかしい!」

 背中の翼をばさばさ言わせながら、コウジは叫び、ジークの胸にぐりぐりと頭を押しつけながら。

「こんなおじさんの背中に翼があるだなんて、秘密がみんなにバレちまった!」
「大丈夫だ。あなたも翼も綺麗だ」
「それが慰めになるか! それに俺に関してお前の目は節穴どころか、鍋に空いた大穴だからな!」

 「お前は俺がミジンコだっていいんだから!」コロシアムに響き渡る痴話ゲンカ? の声。緊迫した決戦から一転してのこの空気に、フィルナンド王以下の者達のみならず、少し離れた場所で見ている魔王フィラースも呆然としているようだった。

「えーと、お取り込み中、申し訳ないんだけどね」

 そこに間延びした声が上空から響いた。
 いつものごとくの重役机に社長の椅子に腰掛けて、顔が見えない。やっぱりこの神様はこれがワンセットなのか? の。

「ああ、どうも。“御使い”コウジのやってきた世界の神です」

 神様はとっても軽く自己紹介した。





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