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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【20】決戦 その1

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 いつかのコロシアムの既視感ありありに、中央でにらみ合った二人は動かなかった。
 互いに隙がない。上空に浮かび戦いを見守るアルタナ女神の少し後ろで、イライラを見せ始めたアンドルに進歩がねぇな……とコウジは思う。

 というか、また俺がやらなきゃいけないのかよ? と内心でため息を一つ。ここで自分が戦いの火蓋を切って落とす声など出せば、いよいよ世界の命運よりおじさんを賭けた勇者と魔王の戦いのようではないか? 
 愛のために戦え! とかこれが美しいヒロインならともかく、おじさんだぞ。ヒロインがおじさん、ねぇだろう。

 とはいえ、いつまでもにらみ合ったままでは話が進まない。

「ほら、よーいドン!」

 世紀の決戦に緊張感もなにもないかけ声だが、コウジはパン! と手を叩くと、彫像のように動かなかった二人が、その黒い聖剣グラフマンデと、赤い魔剣をたたき合わせる。

 コウジは同時に煙草をくゆらせて結界をはる。コロシアムは広く、観客席に移動したこちらからは、かなり離れてはいるが、それでも勇者と魔王の決戦だ。油断など出来ない。
 実際、二人の剣が重なる度に、周囲には雷光がひらめき、闇色の閃光と相殺しあう。衝撃波だけでもすさまじく、コウジの張った煙の結界にびりびりと当たり震わせる。

「魔王は当然だが、ジーク・ロゥの戦いぶりもすさまじいな。初めて見たが」

 フィルナンド王がじっと二人の攻防を見る。周囲に放たれる魔力もそうだが、剣技もまたすさまじい。その斬撃は常人の目には見えない速さだ。
 そもそもに周りに飛び交う雷光と黒い閃光に目をやられて、二人の動きなど並の人間では追えないだろう。
 しかし、フィルナンド王もまた、魔法少女とパートナーを組む王子でなくとも、優れた魔法騎士でもあった人だ。

 ひときわ大きくまたたく雷光にそれを横に分断するように走った黒い筋。そして、二人は大きく跳躍して、交差しあう。
 着地したとたん、ジークが片側にかけていたマントが、すっぱり切られてはらりと床に落ちる。それにシオンとマイアは目を見開くが。「あっちもだ」とコウジが言う。
 そう同時に魔王の背の表は黒、裏側は緋色のマントもまた半分に分断されていた。それをうるさいとばかりフィラースは自分の背よりマントを抜き去る。ジークもまた肩から己のマントを落とした。

「衣といえど、今まで私に傷を負わせたものなど、強力な魔族といえど居なかったというのにな。
 さすが勇者だな。褒めてやろう」

 フィラースの言葉にジークは無言だ。彼の手元の黒い聖剣はぶわりと形を変えて、剛弓となる。フィラースの赤い魔剣もおなじく魔弓へと。
 雷光をまとった矢と闇の閃光をまとった矢が、ぶつかり合う。特大級のそれが相殺しあい、光と闇が入り交じった爆発が起こる。

 コウジは追加とばかり煙草を投げて結界を強化する。それでもいままで最大級のびりびりとした振動が結界全体を揺るがせた。
 コロシアムの床にも大穴が空いて、下の王宮の景色が見えるほどだった。それは「修復しなさい」という女神アルタナの言葉にアンドルがうなずいて、たちまち塞がったが。

 「すさまじいな」とフィルナンド王はつぶやき。「勇者だから魔王と対等に戦えるとみるべきか。それとも、君がパートナーであることも関係しているかね? コウジ」
 「さあ、そっちは神様の領域なんで、さっぱり」とコウジはごまかした。いや、まさか自分の背中に見えない翼がありますって……それ、なんのポエムだよ。しかも、無精髭のくたびれたおじさんの背中にあるのはめるふぇん過ぎる。

 「だから、あの魔王が君を欲しがるのだと思うのだけどね」とフィルナンド王。さすが鋭い。
 とはいえ、コウジはいまだに自分がそれほどの価値があるとは思えないのだが。彼からすれば「単なる意地の張り合いでしょう」ということになる。

「たまたま、手を伸ばしたおもちゃが同じだった、ガキが取っ組み合いのケンカをしてるようなもんで」
「やれやれ、君の手にかかると世界の命運をかけた聖戦も、子供のケンカかい?」
「男同士のガチンコの殴り合いなんて、だいたいそんなもんでしょ? どっちが上か下か、それとも認め合う同格の相手なのか。単細胞なもんだ」

 「そうかもしれぬな」とフィルナンド王は楽しそうに微笑む。
 コウジは二人の戦いから目を離さず見つめ続ける。今度は弓から、槍へと獲物の形を変えて、双方ぶつかり合う。別に相談してわけでもないだろうに、本当にあの二人は考え方が似ている。そもそも、勇者から魔王となる者の資質が同じなのか。

 そうだ。同じだ。鮮烈な光のカリスマ、能力をもって生まれながら、最後にはその栄光の光が生み出した影に呑み込まれるように非業の死を遂げる。いや、ジークは死んではいないし死なせやしないが。

 だが、ジークもまだその心に陰を背負っているのは事実だ。宮廷中から憎まれた公式愛妾だった母の存在。彼女の早逝からジークは保護を失い、謀略の海に放り出された。命を狙われる毎日に成長しても正統な評価はされずに不遇な日々は続いた。
 普通ならもっとひねくれて、王国転覆を考えるような危険人物になったって仕方ない可能性もあった。

 ジークがそうならなかったのは幼い頃にただ一度会った、コウジとの再会を信じ待ち続けたからだ。
 愛ゆえに闇に堕ちなかった……など、照れくさいがそうなるのだろう。





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