96 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【17】みちしるべ※ その2
しおりを挟む背中に羽があるから……ってわけじゃない。別の異世界の人間には翼がある奴もいるだろうし。魔王城で世話になったリンベイの背は透ける羽が四枚あった。彼女はやはり魔族ではなく、併合された世界の他の種族だと言っていた。たしかエルフィ……だったか。
だから、なにが人間か? なんてその世界でコロコロ変わるものだろう。魔族だって魔界に暮らしているヒトってことになるだろうし。
だが、コウジはそのどこにも属していない。魂は地球の日本で生まれたものだ。だけど、それ以外を形作る身体も記憶も経験も、神が創り上げたもの。
さらにはコウジは、コウジの世界の神曰く“進化”したという。
進化とは良い意味に捉えるべきなのだろうが、それはより、ヒトというものから離れたと言えないか?
“御使い”とフィラースはコウジのことを呼んだ。自分がそんな大層なものだとは思わない、思いたくない。
コウジの世界の神は独り言のように「まさか神代のはるか昔ならともかく、ここにきて新たな八咫烏が生まれるなんてね」と言っていた。カラス、カラス、まあ羽は黒いけどよ。
「あなたはあなただ」
ジークがそう言って、窓の外を見つめるコウジを後ろから抱きしめる。
それだけで揺らいでいた自分という存在が、すとんと両足をついたような感じになるから、単純なものだと己を笑ってしまう。
自分をこの地上に繋ぎ止めるように包みこんでくれる力強い腕。こてんと広い胸に頭を預けて、コウジはふふ……と笑う。
「お前は俺の道標だな」
「私が?」
「うん、どんなに高く飛んで離れたとしてもさ……」
それは距離か、ヒトというものなのか、両方だろう。
「俺は俺だとお前が見てくれる限り、俺はここに戻ってこれる」
抱きしめる腕にぎゅっと力がこもる。「苦しいぞ」とたいして苦しくもないが、ぽんぽんと腕を叩くと、ふわりと身体が浮いて抱きあげられていた。いつものごとく腕に尻をのせられて、軽々と子供抱きだ。
おい、いくら細くても俺は成人男子だぞと思わないでもない。子供じゃないぞ。いや、おじさんだけどと自分にツッコミながら、ジークの形のよい唇に自分の唇を押しつける。
何度も何度も小鳥の挨拶みたいに、唇だけを押しつけ合って、それだけではやっぱり満足など出来なくて、舌を絡ませあい、互いの口中を貪るように。
身体の熱が緩やかにあがっていく。とさりとベッドにおろされて、着ていたガウンのなかに入りこむ大きな手。いつもより性急ではなく、ゆるゆると撫でるそれに、コウジは「くすぐってぇ」とくすくす笑う。
「なに? ちょっと落ち込んだおじさんに優しくしてくれるの?」
「私はいつもあなたを大切にしているつもりだが」
「そのわりにいつもおじさんをヒィヒィ啼かせてない?」
肌をすべる大きな手も指も、唇も舌も、やはりいつもより穏やかで大切な宝ものだと言われているようで、くすぐったい気分になる。いつもからすればもどかしい、もっと強くと思うこともあったが、口にはしなかった。
今は確かにこんな風に包みこまれるようにされたかった。この年下の男に思いきり甘やかされようと思う。
いつものような激しさではなく、身体の熱がゆるゆるとあがっていく。コウジのヒトとして形をたどっていく手と唇に、じわじわとともされる熱にたしかに自分はここに肉をもってあると思う。
だからもっと確かめたいのだと焦れて「欲しい、くれよ……」とねだれば、望みのものが与えられる。じぶんのうちに男の熱と形を感じて、ほうっと息をつく。
しばらく抱き合って動かずにいて、コウジが「も、動け」と言えば、ゆるゆる赤ん坊をあやすみたいに揺らされて、そのくせ、奥の奥まで入りこんで突き上げてくるそれに、しなやかにのけぞりもはや言葉にならない、うわごとみたいな声をあげた。
「もっと」「もっと……」なんて言っていたと思う。
もっと、お前も俺も確かめさせてくれ……と。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
そんな風に抱き合って、朝になったんだか、夜になったんだがわからず、ベッドの中に閉じこもっていた。風呂にもはいったが身体を綺麗にしたとたん、結局盛り上がって抱き合っているんだから、意味なんてない。結局、ぼんやりしたコウジをまたジークが世話してくれたのだが。
腹がすいたな~と食事もベッドで、こんな自堕落な……とは思わない。いきなりの女神様の召喚からこっちの騒動と逃避行を思えば、しばらくは休んだって文句は言われないだろう。
が、それも、たった一日で終わることになる。時間も忘れていたから、結構お籠もりしていたつもりで短かったらしい。
「……意外と早かったな」
「軍を早く動かせるというのは、優秀な将の証だ」
気に食わない相手でも、その良きところは認める。潔い王子様にコウジはクスリと笑う。
「にしても、お城ごとやってくるとはな」
王宮のバルコニー。見上げた王都の上空には、その言葉どおり黒く大きな小山のような固まりが浮かんでいた。
魔王城だ。
161
作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。

【同一作者の作品】
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
【完結】長い物語の終わりはハッピーエンドで
https://twitter.com/sima_yuki
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
【同一作者の作品】
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
【完結】長い物語の終わりはハッピーエンドで
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。