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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【17】みちしるべ※ その1

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「ちゃんとフォートリオンに帰してあげるよ」

 と神は言った。
 しかし、王宮の大噴水の上はないだろう? 

 当然二人で落下して派手にあがる水しぶきに、すわ一大事と衛兵が駆けつけ、それがジークとコウジだとわかるとさらに大騒ぎとなった。
 担がれるようにして王宮に運びこまれて、フィルナンド王にそのそばにいるようになった準妃ロジェスティラ、それにコンラッドにピート、シオンにマイアとの感激の再会となった。

 当然のごとく、シオンは泣き出すし、マイアだってもちろん泣く。ピートまで泣いたのには驚いた。思わず口にしたら「僕だって泣きますよ! ジーク・ロゥ兄様とコウジさんに、また会えてうれしいんですから!」と言われた。すまん、ただの腹黒王子ではなかったのだな。

 コンラッドは泣きはしなかった。ただ、ジークの顔を見て「この馬鹿者」と言ったのは、彼らしい裏返しの親愛の表現だった。
 コウジを見て「自己犠牲の精神は尊いが、あなたが動けば、横の男も道連れだということを忘れないように」と説教された。「わかっちゃいるけど、自然に身体が動くんでな」とへらりと笑ったら、にらまれた。うん、すまん。

 そのあとシオンにも「そうよ! いつも勝手に飛び出していくんだから!」と、マイアにも「これからはわたし達に相談してくださいね!」と言われたが、いや、相談する間もないのが危急の時だしな~と思う。

 ジークはジークで相変わらずの鉄面皮で「私はお前と別れるとき、序列とそれにともなう王位継承権を放棄したはずだが」とコンラッドに確認している。
 なるほど王子の立場も、それに伴うすべての義務や権利も放棄して、コウジを助けに来たとはまったくジークらしい。

 それをくそ真面目に確認するのもだ。

 ちなみにここは王宮の帝王の間とよばれる大広間で、フィルナンド王やコンラッドにピート、シオンにマイアだけではない。行方不明で生存も危ぶまれていたジークとコウジが帰ってきたということで、元老院議員などの宮廷貴族達も集っていた。
 その彼らがざわりとざわめいたのは、コンラッドと同格の序列第2位だったジークが、その権利をすべて放棄したという発言にだ。

 その顔にはあきらかな期待と喜色を浮かべている面々をチラリとコウジは見て、生臭いねぇ……と思う。

 国の英雄と呼ばれ、災厄を倒した上に、さらにはモルガナ国の聖女も退けた。これによってジークの人気は国民だけでなく、軍での兵士、将校達の間ではうなぎ登りだが、一部の血統主義の貴族達はそれでも認めたくないらしい。
 平民の愛妾の息子のあわよくばの失脚を願う彼らからすると、今のジークの言質をとって王族としてのすべての権利の剥奪を……と考えたのだろうが。

 「馬鹿なことを口にするな」とフィルナンド王がひと言。

「混乱時の公式文書にも残っていない“たわごと”を余やコンラッドが本気にするとでも? 
 だいたい、お前を家臣の身分におとしてみろ。あのうるさい新聞屋どもは、英雄の失脚の裏には王宮に蠢く陰謀だのなんだの書き立てるであろうし、下手をすれば民が大挙して王宮や“その犯人”とされる者の屋敷に押しかけてくるぞ。立派な暴動だな」

 なしだなしだとばかり老獪な王は肩をすくめたあと、一瞬色めきたった古参の元老議員達や有力貴族達をギロリと見た。それだけで彼らは青ざめ小さくなる。王ににらまれたこともあるが、自分達の屋敷に押し寄せる暴徒を想像したのもあるだろう。

 そんなこんなで「そなたたちも疲れているだろう。今日はこちらにてゆっくりするがよい」というフィルナント王の言葉で王宮に留まることになった。

 ジークの屋敷は王宮の郊外にあるが、序列2位の王子として王宮内にも部屋はある。これが名前を消された正妃アルチーナとアンドル王子が暮らしていた別宮がそのままあてられたのは、なんとも皮肉だが。
 まあ、立派な建物を廃墟にしておくのはもったいないことだから、再利用はよいことだ。

「うん、無精髭姿もワイルドでよかったが、やっぱりその整った姿のほうが、お前って感じがするな」

 寝室にて、埃っぽい軍服を脱いで、風呂をあびたジークの姿に、コウジは目を細める。
 コウジもまたスーツを脱いで風呂に入った。浄化の魔法は使ってはいたが、それでもゆったりとした湯に身体をつけるのはいい。だって風呂好き日本人だもの。

 そして、ガウン姿で寝室の窓辺から外を眺めて、寝酒をちびちびやっていたコウジは、少し遠い目となる。それにジークが「どうした?」と声をかける。
 この王子様はコウジの感情の揺れにとても敏感だ。パートナーだからなのか、どっかで繋がってんのかな……とコウジは苦笑しながら。

「ずいぶん遠くに来ちまったなぁ……と思ってな」

 しがないコンビニのバイトだった自分の記憶は本当に遠い。名前さえも覚えておらず、コウジの世界の神に植え付けられたコウジという記憶と経験が、今の己を形作っている。この身体も、たしかに神が作ったものだ。

「……俺って人間じゃないんだな」




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