95 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【17】みちしるべ※ その1
しおりを挟む「ちゃんとフォートリオンに帰してあげるよ」
と神は言った。
しかし、王宮の大噴水の上はないだろう?
当然二人で落下して派手にあがる水しぶきに、すわ一大事と衛兵が駆けつけ、それがジークとコウジだとわかるとさらに大騒ぎとなった。
担がれるようにして王宮に運びこまれて、フィルナンド王にそのそばにいるようになった準妃ロジェスティラ、それにコンラッドにピート、シオンにマイアとの感激の再会となった。
当然のごとく、シオンは泣き出すし、マイアだってもちろん泣く。ピートまで泣いたのには驚いた。思わず口にしたら「僕だって泣きますよ! ジーク・ロゥ兄様とコウジさんに、また会えてうれしいんですから!」と言われた。すまん、ただの腹黒王子ではなかったのだな。
コンラッドは泣きはしなかった。ただ、ジークの顔を見て「この馬鹿者」と言ったのは、彼らしい裏返しの親愛の表現だった。
コウジを見て「自己犠牲の精神は尊いが、あなたが動けば、横の男も道連れだということを忘れないように」と説教された。「わかっちゃいるけど、自然に身体が動くんでな」とへらりと笑ったら、にらまれた。うん、すまん。
そのあとシオンにも「そうよ! いつも勝手に飛び出していくんだから!」と、マイアにも「これからはわたし達に相談してくださいね!」と言われたが、いや、相談する間もないのが危急の時だしな~と思う。
ジークはジークで相変わらずの鉄面皮で「私はお前と別れるとき、序列とそれにともなう王位継承権を放棄したはずだが」とコンラッドに確認している。
なるほど王子の立場も、それに伴うすべての義務や権利も放棄して、コウジを助けに来たとはまったくジークらしい。
それをくそ真面目に確認するのもだ。
ちなみにここは王宮の帝王の間とよばれる大広間で、フィルナンド王やコンラッドにピート、シオンにマイアだけではない。行方不明で生存も危ぶまれていたジークとコウジが帰ってきたということで、元老院議員などの宮廷貴族達も集っていた。
その彼らがざわりとざわめいたのは、コンラッドと同格の序列第2位だったジークが、その権利をすべて放棄したという発言にだ。
その顔にはあきらかな期待と喜色を浮かべている面々をチラリとコウジは見て、生臭いねぇ……と思う。
国の英雄と呼ばれ、災厄を倒した上に、さらにはモルガナ国の聖女も退けた。これによってジークの人気は国民だけでなく、軍での兵士、将校達の間ではうなぎ登りだが、一部の血統主義の貴族達はそれでも認めたくないらしい。
平民の愛妾の息子のあわよくばの失脚を願う彼らからすると、今のジークの言質をとって王族としてのすべての権利の剥奪を……と考えたのだろうが。
「馬鹿なことを口にするな」とフィルナンド王がひと言。
「混乱時の公式文書にも残っていない“たわごと”を余やコンラッドが本気にするとでも?
だいたい、お前を家臣の身分におとしてみろ。あのうるさい新聞屋どもは、英雄の失脚の裏には王宮に蠢く陰謀だのなんだの書き立てるであろうし、下手をすれば民が大挙して王宮や“その犯人”とされる者の屋敷に押しかけてくるぞ。立派な暴動だな」
なしだなしだとばかり老獪な王は肩をすくめたあと、一瞬色めきたった古参の元老議員達や有力貴族達をギロリと見た。それだけで彼らは青ざめ小さくなる。王ににらまれたこともあるが、自分達の屋敷に押し寄せる暴徒を想像したのもあるだろう。
そんなこんなで「そなたたちも疲れているだろう。今日はこちらにてゆっくりするがよい」というフィルナント王の言葉で王宮に留まることになった。
ジークの屋敷は王宮の郊外にあるが、序列2位の王子として王宮内にも部屋はある。これが名前を消された正妃アルチーナとアンドル王子が暮らしていた別宮がそのままあてられたのは、なんとも皮肉だが。
まあ、立派な建物を廃墟にしておくのはもったいないことだから、再利用はよいことだ。
「うん、無精髭姿もワイルドでよかったが、やっぱりその整った姿のほうが、お前って感じがするな」
寝室にて、埃っぽい軍服を脱いで、風呂をあびたジークの姿に、コウジは目を細める。
コウジもまたスーツを脱いで風呂に入った。浄化の魔法は使ってはいたが、それでもゆったりとした湯に身体をつけるのはいい。だって風呂好き日本人だもの。
そして、ガウン姿で寝室の窓辺から外を眺めて、寝酒をちびちびやっていたコウジは、少し遠い目となる。それにジークが「どうした?」と声をかける。
この王子様はコウジの感情の揺れにとても敏感だ。パートナーだからなのか、どっかで繋がってんのかな……とコウジは苦笑しながら。
「ずいぶん遠くに来ちまったなぁ……と思ってな」
しがないコンビニのバイトだった自分の記憶は本当に遠い。名前さえも覚えておらず、コウジの世界の神に植え付けられたコウジという記憶と経験が、今の己を形作っている。この身体も、たしかに神が作ったものだ。
「……俺って人間じゃないんだな」
152
お気に入りに追加
1,067
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて、やさしくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。