上 下
93 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【16】俺、黒天使……は、はずかちぃ! その1

しおりを挟む
   



「どのみちお前が選ぶのは一つしかあるまい? お前は捕らえられて、あの男が死ぬか。私のものとなると約束して、あの男を解放するか?」

 フィラースの言葉がコウジの耳の上を上滑りしていく。見つめているのは、巨大な骸骨の足に踏み潰されようとしているジークの苦悶の表情だ。このままあんなデカブツに力を込められれば、いかに頑強な彼の結界とて保たないだろう。

「さあ、どうする?」
「俺があんたに泣いてすがりついて、自分はどうなってもいいから、愛しい王子様を助けてくれと、言うと思うか?」

 そんな悲劇のヒロインなどおじさんに似合わないったらありゃしない。コウジは「おい! ジーク!」と腹に力を入れて叫んだ。

「いつまでちんたら、そのデカブツの足の下にいやがる! 俺の王子様なら、とっととそいつを片付けやがれ!」

 ジークがコウジの言葉に口の端に血をにじませた唇に苦笑を浮かべる。

「仰せのままに、私の姫君」

 「だから、姫じゃねぇっ!」とコウジは叫ぶ。それにフィラースは「愚かな……」と怒りをにじませた酷薄な微笑みを浮かべる。

「行く先が破滅とわかっていて、なおも抵抗するか!?」
「俺達は死にゃしねぇよ! 一緒に戦って、一緒に生きるんだ!」

 最後まで諦めないなんて根性論は、斜に構えたコウジという男の生き方には、似合わないことはこの上ない。

 だけど、この中に入ってる魂は、うろ覚えの記憶のしがないコンビニのバイトだった男は、二十二歳の若造だ。将来に絶望していても、いつかははきっといいことはあるんじゃないか? なんて夢を見ていたと思う。
 馬鹿馬鹿しくとも愚かでも、それでも未来を信じていた。明日は昨日よりはきっとよくなる。

 だから、生きる。

「ならばそれを絶望に変えてやる!」

 「やれ!」とフィラースが傀儡くぐつとなった魔王の屍に命じる。
 その足に力が込められればジークはそれでおしまいに見えた。

 しかし。

 「馬鹿な……」という言葉がフィラースの口から漏れ、コウジは「さすが俺の王子様!」とこんなときなのに無邪気に笑った。
 巨大な骨の足に踏みつけられながら、ジークはその身体に力を込めて起き上がったのだ。そして、自分を踏みつける足を両手ではねのけて抜け出る。デカブツがよろりとよろめく。

 「じゃあな!」とコウジはフィラースを突き飛ばすようにして、逆に自分が宙へと身を投げる。
 当然身体は下へと落下する。崖下の海岸に落ちたジークとは距離がある。だけど、あそこに行くと思った。

 空を飛んでも……。

 よろめいたデカブツは、ジークに向かいその口を開いた。闇の閃光がパチパチとひらめく。ジークもその手にグラフマンデを出現させる。黒い剣が鮮烈な雷光をパチパチとまとう。

「ジーク!」

 コウジはその広い背中に触れた。どうして自分がここまで来られたなんて考えなかった。後ろから彼を抱きしめる。

 魔王の屍が口から闇の閃光を放つのと、ジークが剣を一閃させて雷光を放つのは同時だった。
 闇と光が激突する。いや、その輝く雷光には闇が絡みついていた。コウジの力だ。
 そして、闇と混ざり合った黄金の雷光は、闇のみの閃光を押しのけて、巨大な魔王の屍に向かい直進する。
 それは天を貫く、光と闇の螺旋の巨大な柱となった。魔王の巨大な屍はその中に崩れ去る。

「魔王を倒したのか?」

 コウジは思わず呆然とつぶやいた。自分達でやったこととはいえだ。

 それに“魔王”は“勇者”にしか倒せないはず……。
 そして“魔王”が倒れたならば“勇者”は。

 いきなりあがった笑い声に、コウジは上を見た。そこにはバイコーンにまたがった、フィラースの姿があった。
 が、様子が少し違う。その頭の漆黒の角がねじれてさらに大きくなっている。さらに彼は、その深紅の魔剣を振るい飛ばしたのは。

 漆黒の闇のみの閃光。

 それをジークがすかさずグラフマンデから雷光を放って飛ばす。
 闇と光の力は空中で激突して霧散して消える。
 その瞬間にコウジは悟った。

「そうか……魔王が完全に滅した今、お前が今の魔王になったか? フィラース」
「ああ、そうだ。そして、皮肉なことにその男が今度の勇者だ」

 フィラースが黄金の瞳で、ジークを見る。そして、ジークもまた剃刀色の瞳でそれを傲然と見返す。

 ジークが勇者だって!? 魔王を倒したんだから、勇者になるのか? いや、魔王を倒した勇者は、魔王になるんじゃ? いや、だがフィラースがいたのだから……とコウジは軽く混乱する。
 そんなコウジにフィラースが視線を移す。

「お前がその男を勇者にしたか? 御使いよ」

 御使いって俺のことか!? と考える間もなく、コウジは別の空間へと移動していた。






しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて、やさしくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。