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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【15】悪役らしくなってきたじゃねぇか その2
しおりを挟む岩山の荒野を抜ける途中。巨大な砂蛇に出くわした。一匹ならまだしも、それが集団となれば話は別だ。
繁殖期の巣にお邪魔したこちらが悪いのか? とにかく、追いかけっこのあげく検問の周辺を警備していた魔族の兵士達に見つかって、そいつらとももみ合いになった。
自分達を追いかけていた兵士は、後ろにいるサンドワームに気づき、今度は同じ方向に逃げるハメになるというカオスだ。
「これを利用するぞ」とジークに言われて、兵士達とともに検問所へと駆け込んだ。魔除けの結界が張られているはずの検問所であるが、繁殖期に興奮したサンドワーム達は、それをものともせずになだれこんで、木の柵や砦をこっぱ微塵にする。
とはいえ、このままの勢いで麓の村まで来られては被害が出るから、そこはジークの雷撃とコウジが「これか?」とガトリング砲を連射して、サンドワームの集団を殲滅した。
砦を破壊されて兵士達は当然、ジークとコウジの追跡なんて放棄した。彼らからすればサンドワーム以上の災厄だっただろう。
ふもとの町では、早朝からの朝市に紛れ込んで、食料を調達した。当然のごとくジークには町の外れで待ってもらっている。
「そういえば岩山のほうでなんか騒ぎがあったみたいだが」とりんごを手渡す老人にコウジは「ああ、派手な声が聞こえたんで、峠越えは諦めて戻って来たんだ」としらりと答えた。
それから、早朝の街道をてくてく歩きながら、二人でしゃりしゃりとりんごをかじる。少し気難しげな顔をしているジークに「どうした?」と話しかける。
「あの検問所だが」
「ああ、派手に壊しちまったなあ。あれじゃ、俺達の足取りが丸分かりだ」
「まいったな……」と頭をかくコウジに「それもあるが」とジークは続ける。
「検問所に行き当たるたびに、私達は回避してきた。あのような騒ぎは初めてだが、どうも、そこから逃げているようで、逆に追い込まれているような気がしてならない」
「どうしてそう思う?」とコウジが訊けばジークは「おとりの罠だ」と答える。
「賢い獣を捕らえるとき、熟練の猟師は見せかけの罠をわざと作る。見破った獣は、当然それを避けるが、その先にこそ巧みに隠された罠がある」
「……俺達もそんな獣みたいに追い込まれているってことか?」
コウジは無精髭のあごをざらりと撫でて「ん」と一瞬だけ考えこむ。
「賢い獣なら、引き返せばいいだけだが。俺達は前に進むしかない」
「そうだ」
「なら、その罠も踏み抜いて引きちぎって通るしかねぇな」
結局、力こそ正義なのか。脳筋か。シオンが聞いたなら「やっぱり馬鹿魔力ね」とでも言っただろう。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
「俺じゃなくて、王子様の名誉のために言っておくけどな」
あれから点在する検問を回避し、それなりに騒ぎを起こしながら進んだ果て、目視で切り立った崖の向こうに虚海が見える、そんな海岸線。
そこにずらりと並ぶ魔族軍は総勢、万はあるだろうか? たった二人に万は大変名誉と言うべきなんだろうか? いや、ぐるりと囲まれたこの状況は絶体絶命というべきか。
それでもジークは相変わらずの鉄面皮で、コウジは煙草をくゆらせて、口の片端をあげる例の露悪的な微笑みを見せる。
「あんたが罠に罠を巡らせて、俺達をここに追い込もうとしていることをジークは読んでいたんだ」
そして、その軍の中心にいるフィラースを見据える。
「ならば、なぜここに来た?」
「そりゃ、俺達の行きたい方向に、あんたらがいるからさ」
「あえて罠にかかりにか?」
「ならば踏み潰していくまで」
コウジではなく、ジークが答える。それにフィラースが口の両端をつり上げる。
「まったく、いまいましいぐらいに同じ考え方をする男だな。だろうと思ったから、ここで待ち構えていたが」
フィラースもまたジークがこれを罠だと見破り、しかし、あえてここに来ると待っていたというわけだ。
「ならば、あとは言葉は不要」とジークが言えば「確かに」とフィラースが全軍に「かかれ」と号令をかける。
たった二人に対して、海岸を埋め尽くす軍勢だ。
だが、勝機が無いわけではない。
いや、この場合、勝つというより逃げ切れればいいのだ。虚海まで出れば、これを渡る術を兵士達は持たない。
それに兵士達の大半は空を飛ぶことも出来ない。
その“切り札”を知られないために。ここまで徒歩でやってきたのだ。
ジークとコウジは魔力で出現させたサイドカーに乗り込むと、空へと舞い上がった。一斉に矢を射かけられるが、それはコウジの煙草の煙の結界によって阻まれた。
翼ある魔族や魔獣たちが、直接攻撃を仕掛けてくるが、それはジークの黒い聖剣グラフマンデを、矛の形に変えて、華麗に操るそれにはたき落とされる。
戦いの場が空となったことで、大半の歩兵はただ上空を見上げるだけとなった。矢だけでなく魔族の魔道士が放つ強力な火球さえ、結界にたやすくはじかれる。
そして、直接攻撃できる翼ある者達にしても、瞬く雷光に、放たれる銃弾が爆発してあがる闇の炎に蹴散らされて道を空けていく。
虚海が目の前に迫ったときに、二人を乗せたサイドカーの前に立ちふさがったのは、コウモリの翼を持つ漆黒の二角馬にまたがった、フィラースだった。
彼は白から血の赤へと変わった魔剣を一閃する。光と闇が混じり合った閃光が、真っ直ぐに放たれる。 これを回避するために、コウジは自分の乗るワゴンをジークのまたがるバイクと切り離した。同時に二つに分かれたどちらを追うのか、相手の迷いを誘う為だが。
しかしフィラースは迷うことなく、コウジのワゴンのほうを追ってきた。ある意味正しい判断ではある。ジークのバイクと違って、こっちのワゴンは魔力による思念によって動かすために、そう細かい操作はできない。
バイコーンにまたがるフィラースにたちまち追いつかれるが、コウジはその顔に銃口を向ける。同時に、大きく離れたジークがバイクを反転させて、こちらにやってくる。
コウジはおかしいと思う。フィラースの口許には余裕の微笑みがあったからだ。
それはこの海岸でこの男に会ったときから感じていたものだ。“なにか足りない”と。
それは海岸の砂の中に潜んでいた。ざあっとあがった巨大な骨のみの手がバイクにまたがるジークをはたき落とす。
「ジーク!」
彼の身体が砂浜に叩きつけられて、魔力で作られたバイクもまた霧散する。それは同時にコウジの乗っていたワゴンもだ。
落ちる! と思ったが、それをふわりと受けとめたのは、バイコーンにまたがるフィラースだ。コウジは彼をにらみつけて。
「礼なんぞ言わないぞ」
そして海岸に現れた巨大な姿を見た。
それは巨大な骨の巨人。いや、頭にある無数の捻れた角。あれは魔王だ。あの玉座の間で見たときよりも遥かに巨大でまがまがしい。
あの一つだけで、魔王軍の万の兵士達に匹敵する。
そして、自分達が切り札を隠していたように、フィラースもまた、この切り札を海岸に潜ませて、最後の最後に出してきたのだ。
砂浜に叩きつけられたジークは……生きていることにホッとする。普通の人間なら即死だが、とっさに自分の全身に鎧のように結界を張ったのだ。これぐらいで死ぬことはないが。
骨の巨人となった魔王の足がジークの身体を踏みつけ押さえていた。「ジーク!」と叫んだコウジにフィラースが言う。
「あの男を助けたければ、私を選べコウジ。お前が私の僕となるならば、あの男だけは祖国へと帰してやろう」
「……なかなか、悪役らしいセリフをいうようになったじゃねぇか」
コウジは再び目の前の男の顔をにらみつけた。
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