どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【15】悪役らしくなってきたじゃねぇか その1

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「……大神殿が炎に包まれて、恐ろしい魔王がやってきたっていうじゃないか。最初はどうなることかと思ったけど、この村の暮らしは変わりないよ」

 小さな町の唯一のパン屋の女将は饒舌に語る。

「定められた税も、以前に神殿におさめていた喜捨より気持ち少ないぐらいさ。頭が変わっただけで、結局私達の暮らしには変わりないよ。
 教義、教義とうるさかった神官様がいなくなって、町のみんなはどこか気楽になったぐらいさ。こんなこというと罰当たりかねぇ」

 買ったパンを袋に詰めてコウジに渡しながら、女将はぺろりと舌を出す。
 庶民というのはまったくたくましい。女将の言う通りたしかに、支配者の首がすげ変わっただけで、彼らの生活は変わることはないのだろう。

 同時にフィラースという男の治政者としての手腕もうかがえる。これまで通りの生活の保証と、以前の治政者が課していたよりはほんの少し少ない税となれば、新たな統治者に対する反発心も生まれにくい。

「しかし、こんな時期に旅なんてね。この町はそんなわけで平和だけど、ひとけの少ない夜の街道じゃ追い剥ぎが出るって話だ。十分に気をつけるんだよ」

 「ありがとう」と礼をいい。コウジは店を出た。
 自分がまとっているマントは、その追い剥ぎから、逆に奪い取ったものだと知ったら、女将は目をむくだろうな……とコウジは深くかぶったフードのかげでクスリと笑う。

 この町へとたどり着く山中の道すがら、さっそくその“洗礼”を受けたのだ。
 おそらくは神殿から追われたのだろう。兵士崩れ数人が「金目のものを出せ」とすごんだ。モルガナ女神の教えを守っていた彼らだが、生活のすべと信仰を失い生きるためにこうなったのは、なんとも哀れではあるが。

「ああ、ちょうどよかった。その薄汚いマントと、もってる金を俺達にちょいと“貸して”くれ」

 「ま、返すのはまた会ったときにな」と続けたコウジに「なんだと! この野郎!」と息巻いた兵士崩れの山賊共は、コウジがなにかするまえに、横にいた男の黒い剣の一閃でたたき伏せられた。
 ちょっと埃ぽくなっているが、それでも十分に立派で目立つ黒い軍服と、この世界では異質なコウジのスーツ姿を隠すのに、薄汚いマント二枚を拝借した。それから男達が差し出した有り金全部ではなく、そこから半分頂いた俺って優しくね? とコウジは思う。

 まあ男達からすれば、山賊の上前をはねる、鬼、悪魔となるだろうが。

 町を出れば、すぐに深い森となる。細い街道からも外れた獣道に、自分と同じマント姿の長身が立っていた。フードを被っていても、そこからちらりとのぞく銀髪に秀麗な顔立ちは目立つために、ここで待てと言ったのだ。

「パンにチーズに干し肉買ってきたぞ。お前は久しぶりのメシだろう? 食ったら、少し寝て、出発しようぜ」
「ああ」

 あれから昼夜を問わず駆けて魔王城から離れた。
 あの山賊達には気の毒だが、マントと金を調達出来たのは助かった。おかげで食料を調達出来、ジークにほんの少しだが休息も与えることが出来る。

「さあ結界を張ったから少し寝ようぜ。どっちにしろ長い旅になるんだ」

 コウジは率先するように、マントにくるまって木の幹に背を預けようとしたが、腕が伸びてきてぐいと引き寄せられた。
 そして、ジークの足の間、抱え込むようにされる。その彼に「寝ろよ」ともう一度言う。

「ああ……」

 そう応えた彼は、コウジの肩口に顔を埋めるようにして、そして、穏やかな寝息が聞こえたのを確認して、コウジも目を閉じた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「……ここにも検問所か」

 切り立った岩山の峠。そこには木の柵でつくられた臨時の検問所が出来ていた。それを遠目の魔法で眺めてコウジはため息を一つ。
 「夜に動く」というジークの言葉にうなずく。あの検問所を回避するとなれば、切り立った岩山の荒野を抜けるしかない。

 しかし、そこは凶悪な魔物が棲む場所だ。魔物ごときに遅れをとる二人ではないが、戦闘となれば遮蔽物のない昼間の荒野では目立つ。たちまち見張りの魔族達に見つかるだろう。
 今も頭上では翼ある魔物達が旋回している。魔族の使い魔だろう。その彼らが自分達を発見出来ないのは、結界を張っているからだが。

「……優秀な男だ」
「お、珍しくもフィラースを褒めたか?」
「力は認めている。気に食わないことは確かだが」

 ジークの正直な言葉にコウジはクスリと笑う。が、すぐに真顔になって。

「まあ、甘く見ない方がいいのは確かだな。そう簡単には逃げられねぇか」

 「そのときはぶち破って逃げるだけだ」と……。
 あんなこと言わなきゃよかった。





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