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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【13】真打ちは遅れた頃にやって来る その1
しおりを挟むこんなのに首を締め上げられたら窒息する前に、首の骨が折れておだぶつだな……と思った瞬間に、呼吸が楽になった。
男の身体は吹っ飛び再び壁に打ち付けられるだけでなく、そのまま光と闇が交差した閃光に全身を縫い付けられて苦痛にうめいている。
つり上げられたコウジの身体は床にたたきつけられる前に、力強い腕に支えられた。急に入ってきた空気にごほごほと咳き込む。
重い身体にひきずられるように沈みそうになる意識に、あ、魔力足りねぇと思ったら口を塞がれていた。そこから魔力が吹き込まれる。だけでなくて舌も入りこんできた。
絡みつこうとする舌に反射的に噛みついた。唇が離れてフィラースが血で濡れた唇をぬぐうのに「舌入れるんじゃねぇよ!」と怒る。
「フィラース様にお怪我を負わせるなど!」
「よい、気紛れな猫に手を出した、こちらの落ち度だ」
デクスが顔色を変えて声を荒げるが、フィラースがそれを言葉で静止した。側近の青年は不服そうに押し黙る。コウジは思わず「また猫かよ」とつぶやいた。
「さて、ガリオンよ。言うことはあるか?」
壁にめり込んだままの男にフィラースが尋ねる。この男の名前をそこでコウジは初めて知った。まあ、知ったところで覚えることはないが。
男は「はっ!」と笑い。
「言い訳なんぞしねぇよ。その貧相なオスと交われば、力が手に入るって話だ。
魔王じゃなくたって魔界の頂点に立てるっていうなら力こそすべてだ。そのために俺はスラムから這い上がってきたんだ。いつまでも誰かの下についているつもりはねぇよ」
なるほどフィラースの統治も安泰ではないのかと、コウジは思う。逆に魔王という絶対の地位が無くなったことで、誰でも魔界を手に入れられるという野望をガリオンのような男に抱かせた。
しかし。
「なんで俺を手に入れるとあんたを凌ぐ力を得られるなんて、話になったんだ?」
コウジがフィラースに聞けば、デクスが口を開いた。
「フィラース様、このような話はお耳に入れたくなかったのですが、その男に関して妙な誤解が広まっているようです」
「私は噂は噂にすぎないと否定したぞ」とガリオンを冷ややかにデクスが見る。それにガリオンは「お前が思わせぶりな態度をとるからだろう」と開き直る。
「妙な誤解とは?」とフィラースが訊く。デクスが「それは……」と言いにくそうに。
「その男がフィラース様の寵姫であると」
寵姫? とコウジは首を傾げた。ちょうき? ちょうき? って、えーと、別名、愛妾とか側室とか愛人とかって……あれか?
「はああああああああああああっ!?」
コウジは素っ頓狂な声をあげた。「なんで俺が!?」と思わず叫ぶ。
「このおじさんに寵姫って、あり得ないにほどがあるぞ!」
「そう驚くことでもあるまい。お前はあの王子と婚約しているのだろう?」
「そりゃ、ま、ジークとは成り行きつうか、周りの勢いに圧されてつうか、俺も覚悟を決めたけどよ」
このことに関してはコウジはいまだ婚約者なんて小っ恥ずかしいというか、尻の座りが悪い気分になるのだ。あの王子様の婚約者がこのおじさん……寵姫同様似合わないったらありゃしない。
「いやいやなのか? ならば、私がお前を奪ってもかまわないな」
にっと笑ったフィラースは「この場合お前が寵姫というより、私が間男だな」なんて、さらにふざけたことを言いだす。
「だからなんで、俺をヤッたら力が手にはいるなんて話になるんだ?」
コウジがしわの寄った眉間に頭がいたいとばかり指を当てれば、フィラースが「お前には確かに力がある」と言う。
「私の魔封じを突破して力を使うなどな」
「あれはそこの最低男が女の子に手をあげるなんてことをしたからだろう」
壁にはりつけられているガリオンをコウジがギロリと見れば「ありがとうございます」と小さな声がした。リンベイだ。
「本来ならわたくしがお助けすべきだったのに、助けて怪我まで治していただいて」
潤む瞳で自分を見上げるメイドの少女に、コウジは照れてくしゃりと髪をつかみながら。
「いや、ああいう時はねリンベイちゃん。敵わない相手なら逃げていいの」
「でも、コウジ様をお守りするのが、お仕えするわたくしの立場です」
「ん~それもわかるけど、リンベイちゃんの身を守るにも、安全な場所に逃げて誰か助けを呼ぶのが最善の方法だ」
「いいね」とコウジに言われて「はい」とリンベイが返事をするのを見て、フィラースが口を開く。
「魔力の爆発を感じたから、ここに駆けつけたのだが、ガリオンがその娘に手をあげるまで、お前は無抵抗だったのか?」
「魔力は封じられているうえに、あきらかに戦闘慣れしてる、こんな猛獣みたいな相手にどうしろと?
無理矢理突っ込まれりゃ大けがだが、それだけのことだ。隙がありゃ逃げ出して助けを求めるつもりだったし、これだけの城で誰も気付かないってことはないだろう。いずれは助けが来る」
自分が強姦されそうになったのに、コウジはまったく恐怖も怒りもなく淡々と語る。「ただし」とまたギロリとガリオンを見て。
「無抵抗の女子供に手をあげるような最低野郎となりゃ、そんなこと言ってられねぇ」
「結局は“また”その娘を守るためか」
なんだか呆れた様なため息をフィラースにつかれ、“また”という言葉にコウジは首をかしげる。
そして汚物を見るような目でガリオンを彼が見て、閃光がばちりとはぜた手を彼に向けたのに、コウジはひと言告げる。
「殺すなよ」
「叛逆者を処罰するのは私の権限だ」
「俺は襲われた当事者だぜ。意見ぐらい言わせてくれよ。
殺すのは簡単だ。それで綺麗さっぱりおしまいだからな。だが、俺はあんたが魔界の統治者として“部下の不始末”をどう裁くのか見たい」
ニタリと意地悪く口の片端をつりあげるコウジに、フィラースは「まったく気紛れな猫だ」とひと言。「人を猫扱いするんじゃねぇよ」というコウジの声には答えずに、一度あげた手から小さな閃光を放つ。
それはコウジが傷つけたガリオンの右目を直撃した。男の絶叫と肉の焦げる匂い。目を背けるリンベイに、さりげなくコウジはその背でかばって彼女からその姿が見えない様にする。
「その目は、どんな回復魔法でも生涯治癒することはない」とフィラースは告げる。
「鎖に繋ぎ、鉱山奴隷としてウィスヴィオに放り込め」
さらに背後に立つデクスにそう命じる。あとでコウジがリンベイに訊いたところ、貴重な魔鉱石がとれる鉱山だが、いまだ活火山で有害なガスや溶岩も流れる、魔族でなければ耐えられないような苛酷な場所だという。
「そこで奴隷として一生を終えるか、また、這い上がってくるかは、お前の好きにしろ」
「お甘いことだ」とガリオンは牙をむき出しにして笑う。「俺は何度でも這い上がって、アンタを引きずり下ろそうとするぜ」と駆けつけた兵士達に身体をくさりでぐるぐる巻きにされながらも、なお言う。それは強がりの捨て台詞だが、本人は本気だろう。残された瞳は怒りと絶望と野心に爛々と燃えていた。
そのすさまじい眼光をフィラースはそよ風ほどにも感じていないとばかり、彼を見ることもなく。
「そのたびにたたき落とすだけだ。本当に私の前にやってくるか、楽しみにしているぞ」
ふ……と笑ったのは余裕というより、愚かな道化に苦笑するようだった。そのフィラースの態度にそれまで虚勢を張っていたガリオンは、いきなり抜け殻のように肩を落とし、そしてそれまでの態度が嘘のように大人しく兵士達につれて行かれた。
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