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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【7】お約束の破壊と定番の魔王 その1

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 RPGのゲームをやっていて、常々不思議に思っていたことは、神に選ばれた勇者が何でレベル1のひのき棒から始めたうえに、魔王城が狭い海峡の目と鼻の先にあるのに、えらい遠回りをしたあげくしちめんどくさいアイテム集めの末に、ようやく魔王の城にいたること。

 もう一つは、その魔王の城だ。城ってのはいくら大きかろうと人の住む場所のはずだ。
 それがどうして複雑怪奇なダンジョンになっている? あげく、これまたとんでもない仕掛やら中ボスやらが待ち構えているのだ。いや、城って暮らす場所のはずだよな? 
 魔王とか城の地下迷宮を巡ったあげくの、次元の洞窟みたいな場所にいたりするんだが、しかし、そんなところにいて快適なのか? と思う。
 ま、コウジが言いたいのは、魔王様だって健康で文化的な生活をしたいはずだ! ってことだ。

 回廊で石像に襲われたが、大階段を昇って、玉座の間にいたるまでの道は順調? だった。

 階段を昇ったところで、紫のローブをまとってフードで囲まれた顔は闇色でまったく見えない魔道士が、なにやらブツブツ呪文を唱えていた。
 それはコウジが放った弾丸一つで黒い炎に包まれ、ローブごと霧散して消えた。シオンが「相変わらずの馬鹿魔力」と続けて。

「せめて、呪文を唱え終えるまで待ってあげたら?」
「それで魔法を結界で防いでから、攻撃か? 二度手間だぜ」

 「攻撃は最大の防御って言うだろう?」とコウジは返した。
 そして、次に扉を開いたチェスの板みたいな白黒の床の部屋にいた、三つ頭の魔狼ケルベロスをシオンの矢とコンラッドの槍の炎が貫いた。ヤツがなにもしないうちに。
 「……キャンぐらいの鳴き声をあげさせてやったらどうだ?」とコウジは言った。

 次には金ぴかの部屋でコウモリの翼の悪魔デモン三匹がカードゲームに興じている部屋では、ピート王子が「僕達の出番ですよ!」とマイアとともに飛び出して、かまいたちで切り裂いて奴らをバラバラにした。賭けたコインの金勘定に夢中だった奴らは、こちらを振り返るひまもなかったことは、見なかったことしよう。うん。

 「なんかたるんでねぇか?」とコウジがつぶやけばジークが。

「あの回廊の彫像達は自動で外部からの侵入者を迎撃するものだろう。

 私達のいきなりの“訪問”だ。準備が整っていなくて当然ではあるな」

「まあ、どんな家でも“おもてなし”には準備がいるからなあ」

 いや、しかし、勇者に何度も倒されてきた魔王が、油断しすぎじゃねぇか? とも思う。コウジがくわえ煙草、顎に手を当てて考え込めば、横を歩くジークもおそらく同じ考えだろう。無言で先に立って歩く勇者フィラースの空色のマントを見ている。

 とはいえ、魔王の城まで来ておいて、なんかあやしいから引き返そうとも言えない。せいぜいコウジに出来るのは「フィラース、油断するなよ」と声をかけることだ。
 「ここまで順調過ぎることか?」と返事が来る。勇者殿も気づいていたらしい。彼は後ろを振り返ることなく、前を見つめて警戒は怠らず。

「たしかにお次がきたようだな。今度は臨戦態勢だ」

 現れたのは赤く目を光らせる双角馬バイコーンにまたがった、首無しの騎士デュラハン。黒い甲冑は赤い血で禍々しく濡れ、手には鎖の先に巨大な鉄球のモーニングスターを持っている。
 それも二体。彼らは馬で突撃しながら、その鉄球を振り上げる。鉄球に繋がれた鎖がぐんと伸びて、さらには赤くまがまがしい放電をまとったそれが、二つこちらに迫る。

 それをコウジの張った煙の結界がはじく。二つの重い鉄球を受けとめながら、薄い煙の結界はびくともしない。シオンは「あいかわらず」“馬鹿魔力”と続けるかと思いきや。

「完璧な結界よね。そもそも闇の属性ってのが希有なのよね。火、水、土、風の四大元素のすべてに優位のうえに、光を相殺するときてる」
「世間様じゃ忌み嫌われる力だけどな」

 闇というだけで良い印象はもたれない。アルタナは光に象徴される女神であるし、実際、歴代の魔法少女達の中で、コウジをのぞいて闇の属性をもつ者は一人もいなかったという。

 まあ、コウジはおじさんだけど。おじさんだから闇なのか? いや、まさか。
 だから、世間的にはコウジの属性は火だと思われている。煙草の煙で放つ魔法も黒い炎だ。
 だから魔力接続によってコウジの属性を知ったジークが火の属性だと“偽装”したほうがいいと最初に言ったのだ。

 そしてジークの属性は雷だ。これも火水土風の属性からは外れていると言える。ジークが魔法騎士としての力が抜きんでており、さらには聖剣グラフマンデに選ばれていながら、神官や貴族たちの彼への評価が低かったのにはこれもある。
 変わり種の平民の魔女の息子。正統なる火水土風の属性ではなく、しょせんは亜種の魔力しか持たぬ雑種だと。

 それが光の力を持つ第1王子“だった”アンドルとの対決で、雷とは光の力でありさらには純血の王子アンドルを凌ぐ力を持つと、聖王の間で示したわけだが。
 そういえば勇者の力も光か……とコウジは思う。まあ勇者なんだから当たり前ではある。

 ただ一つの例外もなく運命の王子と魔法少女の属性は同じだ。コンラッドとシオンは火であり、ピートとマイアは風。唯一の例外はジークの光とコウジの闇だ。
 まあ、コウジもそしてジークもそんなことは気にしていないが。お互いの背中が守れればいいのだと。

 そして、コウジの煙の結界の外に、ジークとフィラースの二人が一歩出る。「待て」と結界の外に出るのは危ないと声をかけようとしたコンラッドに、コウジは「あいつらなら心配ねぇよ」と返す。

 結界の外へと出た二人に、すかさず鉄球の第二波の攻撃が迫る。二つのトゲを持つ巨大な鉄の塊に、双方聖剣を構える。その構え方の後ろ姿からして同じなのに、こいつら本当に似てるなぁ……とコウジは思う。
 そして、その鉄球に向かって黒と白の聖剣を振りかぶる。カキーンと音がしたかどうかわからないが、二つの鉄球はその聖剣に跳ね返されたうえに、それがバイコーンの長首をへし折り、デュラハンの首のない胴体を直撃した。

 さらに勢いは止まらず二つの騎馬は遥か後方にふっとぱされて、魔王の玉座がある巨大な扉の左右。その壁にめり込んだ。芸術的? なオブジェの誕生だ。
 そして見事な脳筋といえた。まあ力こそ勝利だ。うん。





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