どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
75 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【7】お約束の破壊と定番の魔王 その1

しおりを挟む
   



 RPGのゲームをやっていて、常々不思議に思っていたことは、神に選ばれた勇者が何でレベル1のひのき棒から始めたうえに、魔王城が狭い海峡の目と鼻の先にあるのに、えらい遠回りをしたあげくしちめんどくさいアイテム集めの末に、ようやく魔王の城にいたること。

 もう一つは、その魔王の城だ。城ってのはいくら大きかろうと人の住む場所のはずだ。
 それがどうして複雑怪奇なダンジョンになっている? あげく、これまたとんでもない仕掛やら中ボスやらが待ち構えているのだ。いや、城って暮らす場所のはずだよな? 
 魔王とか城の地下迷宮を巡ったあげくの、次元の洞窟みたいな場所にいたりするんだが、しかし、そんなところにいて快適なのか? と思う。
 ま、コウジが言いたいのは、魔王様だって健康で文化的な生活をしたいはずだ! ってことだ。

 回廊で石像に襲われたが、大階段を昇って、玉座の間にいたるまでの道は順調? だった。

 階段を昇ったところで、紫のローブをまとってフードで囲まれた顔は闇色でまったく見えない魔道士が、なにやらブツブツ呪文を唱えていた。
 それはコウジが放った弾丸一つで黒い炎に包まれ、ローブごと霧散して消えた。シオンが「相変わらずの馬鹿魔力」と続けて。

「せめて、呪文を唱え終えるまで待ってあげたら?」
「それで魔法を結界で防いでから、攻撃か? 二度手間だぜ」

 「攻撃は最大の防御って言うだろう?」とコウジは返した。
 そして、次に扉を開いたチェスの板みたいな白黒の床の部屋にいた、三つ頭の魔狼ケルベロスをシオンの矢とコンラッドの槍の炎が貫いた。ヤツがなにもしないうちに。
 「……キャンぐらいの鳴き声をあげさせてやったらどうだ?」とコウジは言った。

 次には金ぴかの部屋でコウモリの翼の悪魔デモン三匹がカードゲームに興じている部屋では、ピート王子が「僕達の出番ですよ!」とマイアとともに飛び出して、かまいたちで切り裂いて奴らをバラバラにした。賭けたコインの金勘定に夢中だった奴らは、こちらを振り返るひまもなかったことは、見なかったことしよう。うん。

 「なんかたるんでねぇか?」とコウジがつぶやけばジークが。

「あの回廊の彫像達は自動で外部からの侵入者を迎撃するものだろう。

 私達のいきなりの“訪問”だ。準備が整っていなくて当然ではあるな」

「まあ、どんな家でも“おもてなし”には準備がいるからなあ」

 いや、しかし、勇者に何度も倒されてきた魔王が、油断しすぎじゃねぇか? とも思う。コウジがくわえ煙草、顎に手を当てて考え込めば、横を歩くジークもおそらく同じ考えだろう。無言で先に立って歩く勇者フィラースの空色のマントを見ている。

 とはいえ、魔王の城まで来ておいて、なんかあやしいから引き返そうとも言えない。せいぜいコウジに出来るのは「フィラース、油断するなよ」と声をかけることだ。
 「ここまで順調過ぎることか?」と返事が来る。勇者殿も気づいていたらしい。彼は後ろを振り返ることなく、前を見つめて警戒は怠らず。

「たしかにお次がきたようだな。今度は臨戦態勢だ」

 現れたのは赤く目を光らせる双角馬バイコーンにまたがった、首無しの騎士デュラハン。黒い甲冑は赤い血で禍々しく濡れ、手には鎖の先に巨大な鉄球のモーニングスターを持っている。
 それも二体。彼らは馬で突撃しながら、その鉄球を振り上げる。鉄球に繋がれた鎖がぐんと伸びて、さらには赤くまがまがしい放電をまとったそれが、二つこちらに迫る。

 それをコウジの張った煙の結界がはじく。二つの重い鉄球を受けとめながら、薄い煙の結界はびくともしない。シオンは「あいかわらず」“馬鹿魔力”と続けるかと思いきや。

「完璧な結界よね。そもそも闇の属性ってのが希有なのよね。火、水、土、風の四大元素のすべてに優位のうえに、光を相殺するときてる」
「世間様じゃ忌み嫌われる力だけどな」

 闇というだけで良い印象はもたれない。アルタナは光に象徴される女神であるし、実際、歴代の魔法少女達の中で、コウジをのぞいて闇の属性をもつ者は一人もいなかったという。

 まあ、コウジはおじさんだけど。おじさんだから闇なのか? いや、まさか。
 だから、世間的にはコウジの属性は火だと思われている。煙草の煙で放つ魔法も黒い炎だ。
 だから魔力接続によってコウジの属性を知ったジークが火の属性だと“偽装”したほうがいいと最初に言ったのだ。

 そしてジークの属性は雷だ。これも火水土風の属性からは外れていると言える。ジークが魔法騎士としての力が抜きんでており、さらには聖剣グラフマンデに選ばれていながら、神官や貴族たちの彼への評価が低かったのにはこれもある。
 変わり種の平民の魔女の息子。正統なる火水土風の属性ではなく、しょせんは亜種の魔力しか持たぬ雑種だと。

 それが光の力を持つ第1王子“だった”アンドルとの対決で、雷とは光の力でありさらには純血の王子アンドルを凌ぐ力を持つと、聖王の間で示したわけだが。
 そういえば勇者の力も光か……とコウジは思う。まあ勇者なんだから当たり前ではある。

 ただ一つの例外もなく運命の王子と魔法少女の属性は同じだ。コンラッドとシオンは火であり、ピートとマイアは風。唯一の例外はジークの光とコウジの闇だ。
 まあ、コウジもそしてジークもそんなことは気にしていないが。お互いの背中が守れればいいのだと。

 そして、コウジの煙の結界の外に、ジークとフィラースの二人が一歩出る。「待て」と結界の外に出るのは危ないと声をかけようとしたコンラッドに、コウジは「あいつらなら心配ねぇよ」と返す。

 結界の外へと出た二人に、すかさず鉄球の第二波の攻撃が迫る。二つのトゲを持つ巨大な鉄の塊に、双方聖剣を構える。その構え方の後ろ姿からして同じなのに、こいつら本当に似てるなぁ……とコウジは思う。
 そして、その鉄球に向かって黒と白の聖剣を振りかぶる。カキーンと音がしたかどうかわからないが、二つの鉄球はその聖剣に跳ね返されたうえに、それがバイコーンの長首をへし折り、デュラハンの首のない胴体を直撃した。

 さらに勢いは止まらず二つの騎馬は遥か後方にふっとぱされて、魔王の玉座がある巨大な扉の左右。その壁にめり込んだ。芸術的? なオブジェの誕生だ。
 そして見事な脳筋といえた。まあ力こそ勝利だ。うん。





しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。