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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【4】方向違いのアフターケアはほどほどに その1

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「……神様よ。俺達を呼び出すときは、もう少し時と場所を考えちゃくれねぇか?」

 散々抱き合ってそのまま寝たと思う。あれ? はいったまんまだったか? と考えたが、いまは服を着て二人立っている。
 まっ白な空間、おなじみとなったいつもの重役机に社長の椅子に腰掛けた顔の見えない神の姿がある。

「ちゃんと服は着せてあげただろう?」
「そういう問題じゃねぇって、前にも言ったよな?」
「コウジの世界の神よ。私達を呼んだのはあのフィラースという勇者の件か?」
「ジークさんよ。お前はどうしてそう冷静なの!? 俺達素っ裸で寝ていたところを、いきなり呼び出されたんだぞ!」
「今は服を着ている」
「いや、そうなんだけど。しかし、シテいたこと考えるとな、少しは恥じらいとかだな……」
「あなたと私の愛に恥じ入るところは一つもない」

 ドーンって、後ろに効果音の書き文字が見えそうな勢いで堂々とジークが言った。黒に銀の飾りの超絶美形の王子様は、もうそれだけで様になる。

「ただ、あなたの肌を誰かに見られるのは、それが神といえども私は嫌だ」
「う、うん、ああ、そうか」

 もうわかっていたことだがこの王子様の思考はどこかずれている。いや、真っ直ぐすぎて逆にずれちゃっているのか? よくわからん。
 わかるのは並どころか普通にハンサムだって、こんなクサイセリフ言ったら吹き出しちゃうのに、これぐらい浮世離れした美形だともう、許せるところだ。どころかカッコいい。こっちが直視出来ない。おじさんの頬も熱くなる。

「相変わらずラブラブだねぇ。安心して、私は見てないから」

 「それが信用出来ないんだな」とぼやくコウジに、神は「ひどいなぁ」と返す。まあ、神様なんだから、どこだって見ようと思えば見えるのだろうが。

「それより、俺達を呼び出したのはフィラースのことだろう?」
「うん、相変わらず話が早くて助かるよ」
「どういうことだ? 魂はともかく、このコウジって男は俺の妄想をあんたが形にしたもんだろう? 
 その架空の“俺”の記憶の中の男がどうして勇者として召喚された?」
「ところがねぇ、君の記憶も経験も能力も、別に私が一から作ったものではないのだよ。むしろ“借りた”という表現のほうが正しくてね」
「はぁ!?」

 神様いわく「まったくの無垢のものを創造するほうが簡単だよ。まっさらな大地に生まれ立ての命。それがどう育っていくのか、見守ればいい」と。
 逆にすでに“出来上がっているもの創る”のは、神様でも完璧には出来ないという。

「生まれ育った命というのは、様々な因果律によって変化し続けた結果だ。神とて、それを操作することは禁忌とされている。運命に委ねるしかないんだよ。
 コウジという男にしても同様。育った命一つを創り上げることは、天地を開くことより難しいんだよ。どこか破綻が出る」

 「じゃあどうしたんだよ?」とコウジが問えば「だから借りたんだよ」と神は言う。

「コウジという男がいたんだ。彼は君の記憶通りなら外国人部隊から傭兵となって、フィラースという男に出会った」

 その男の身体とすべての記憶を神様は“流用”し、そこにコウジの魂を入れたのだという。

「おい、じゃあ元のコウジはどうなったんだ?」

 まさかこの身体もゾンビじゃないだろうな? とコウジがギョッとしたのは、例のモルガナ女神の件があったからだ。
 モルガナ女神は、このコウジの世界の神に頼んで、日本人の少女の死んだ身体だけもらい、自らがそこに乗り移ることで強力な聖女となったのだ。
 コウジは自分の身体を一瞬薄気味悪く感じたが、神は「ちがう、ちがう」という。

「その身体は私が一から創造した新品だから、安心しなさい」
「くたびれたおじさんの身体が新品ね」

 神曰く、元のコウジの記憶や経験に身体をコピーして新しく創ったのだという。

「だいたい、君の元になった身体はバラバラになって即死だからね。それを再生するほうが手間がかかるよ」
「元になった俺は死んだのか?」
「ああ、もうとっくの昔に転生に入っているよ。まっさらな魂に戻って生まれ変わるんだ」

 「まあ、次が人間とは限らないけどね」と神は少しぞっとしないことを言う。

「だからね、君の傭兵時代までの記憶が鮮明なのはそのせいだよ。中目黒のお掃除屋さんっていうのは、さすがにサンプルがなくてねぇ」

 「君のおぼろげなイメージから創るしかなかった」と神はため息を一つ。コウジは無精髭のあごに手をあてて、それで納得したとうなずく。

「だから修羅の町、中目黒の記憶はどこかかきわりっぽくて曖昧なのかよ」
「だけどその芯となった人格と記憶と経験に身体はしっかりしているからね。破綻はないだろう?」
「ま、今のところ精神も錯乱したことねぇし、身体に異常ないし、ま、いいか」

 傍らで相変わらずの鉄面皮で自分達の話を聞いていたジークにコウジはにっかりと笑う。まったく無表情に見えても、その剃刀色の瞳に心配の色があるのがわかった。もうそれぐらいの仲だ。
 「不安にはならないのかい?」と神に聞かれてコウジは「なにが?」と問う。

「君の意思一つ、その行動一つがすべて、私の考えの通りかもしれない。自分のものではなく」
「生まれた命の運命はいじれないってさっき言ったのは神様、あんただぜ。
 それにそれがどうしたっていうんだ? 俺が俺で決めて動いていると思ってりゃそれでいい。どうせ真実なんてものは見方しだいでコロコロ変わる」

 戦場で幾度もした経験だ。戦う者達の互いの正義のぶつかり合いに、戦争で何もかも失ったと逃げ惑う難民達からすればどちらも悪魔だ。その戦いに金をもらって命を賭ける自分達はもっとクズだっただろう。

 ああ、これも元のコウジの思考か? とコウジは口の片端をゆがめる。コウジ、コウジってややこしいなと内心舌打ちして、自分は自分だと開き直る。これが自分のなりたかった男でその生き様だ。借り物だとしても、今、俺はここにいると煙草をくわえて、ちらりと横にいるジークを見る。
 剃刀色の瞳が今の話を聞いても真っ直ぐ自分を見ていることにどこか安堵する。

「まったくね、君は私の最高傑作だよ」
「おいおい、こんなおじさんをか? よしてくれ」
「完璧な人間を創りたいと、どこかの神が言っていたのを思い出したよ」
「そんなもの神様じゃないか?」
「そうだよ。だから私達は私達を超えるモノは創れないんだ」
「…………」

 妙な話になったとと思いつつ、コウジははぐれた話題を引き戻すことにする。

「それじゃフィラースは、実在する人物ってことか?」

 しかし、小国とはいえ砂漠の国でそんな革命なんて起こったか? と思う。いや、コウジの記憶は鮮明だが、しがないコンビニのバイトだった自分の記憶にはない? と。もっとも、こちらのほうは自分の名前も覚えていないのだから逆に信頼も出来ないが。

「彼は確かにいた。だが、それは元の君が生まれる前の話だよ」

 「東と西の二つの大きな世界が対立していた時代だ……と言えばわかるかな?」と言われてコウジはうなずいた。なるほど壁の崩壊前なんて、たしかにコウジが生まれるもっと前だ。
 東と西のどちらにも属さず翻弄されない国を作るとあの革命家は意気込んでいた。実際革命は成し遂げられたが、その後はその大国両方の思惑エゴに彼の夢は彼の血の中に沈んだ。

「疑問なのは明らかにコウジの国の生まれではない、あの男が勇者としてどうして召喚された? 彼はあなたの民ではないだろう?」

 ジークの質問はコウジも疑問に思っていたことだった。四十四人の魔法少女+おじさんをほいほい異世界に送りこんじゃうこの神様だが、それは日本限定だったはずだ。実際コウジも他の少女達もすべて日本人だ。

「勇者の場合はねぇ“緊急措置”として、そこの神の了承を得ずに召喚出来ることになっているんだよ」

 「神々の間でいちいち許可のやりとりなんてしていたら、あっという間に数百年ぐらいたっちゃうからねぇ。そのあいだに一つの世界は魔界に呑み込まれているよ」と神は続ける。
 世界の敵である魔王を倒せるのは勇者のみ。だからどこの閉鎖的な世界においても、その魂が“最適”となれば召喚出来るのだという。

「問答無用で呼ばれるのはわかったが、なんであいつだったんだ?」

 神の話だと呼ばれる勇者は日本限定でも、地球限定でもなく、神々が創ったすべての世界から呼ばれるってことだ。
 となると、無数の選択肢のなかで、どうしてフィラースが召喚されたのか、逆に疑問だ。

「さて勇者召喚なんて無数のサイコロを振るようなものだからねぇ。どうして選ばれたのか? なんて呼んだ神々にもわからないが。
 思い当たることとすれば、君と彼の因果律ってやつかもね」
「因果律?」
「そう、ロマンチックに言えば“運命”ってものだねぇ」

 神様なのにやけに俗っぽい言い方で、彼は笑った。顔はやはり全然見えなかったけど。





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