どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【1】英雄と勇者 その1

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「この国に残らないか?」

 砂漠の日差しを跳ね返す金色の髪に、金色の瞳。褐色の肌。長身に見事な体躯。なるほど砂漠の金獅子と呼ばれるに相応しい男だった。
 そして、この砂に埋もれそうな独裁者の支配する小国をひっくりかえし、革命を成功させた男。

「残って俺にどうしろって言うんだ?」

 コウジは自分の砂色の迷彩服のポケットから煙草を取り出してくわえる。

「もちろん、私の側近に」
「あんたの革命で平和になった国にか? 俺は戦う以外、能が無い男だぜ」
「そんなことはない。私はお前の能力を高く買っている。きっと平時においても、得がたい相談役となってくれるはずだ」

 「相談役ねぇ……」とコウジは苦笑する。どこをどうしてこの砂漠の獅子とよばれる“英雄”はそこまで自分を買ってくれたやら。
 外国人部隊から、傭兵家業となって、流れ流れた自分も、ここで腰を落ち着けてもいいか? とふらりと誘惑されたが、馬鹿な夢だと口許に笑みを刻む。

「冗談はよしてくれ、俺は金をもらって人殺しをする戦争屋だ。英雄様の側近なんて似合わないことは出来ねぇよ」

 この英雄とも金で結ばれた“契約”の仲だ。幾度か彼の命を救いはしたが、それも“仕事”のうちだ。

「……そうか、残念だ。いつ旅立つ?」
「明日にも離れる。もう俺の〝仕事〟は終わったからな」

 「気が向いたならいつでも戻ってくるといい」という言葉に、煙草を指ではさんだ片手をあげてコウジは、その場を立ち去ったのだった。





 そして、その数年後、砂漠の獅子が死んだことをコウジは、遠い南米の町の新聞で知った。

 大国の支援を受けた軍の突然のクーデター。側近とともに大統領官邸に立てこもり奮戦した末に、蜂の巣にされて死んだと。
 理不尽ではあるが、あの苛烈な獅子らしい死に様だった。

 コウジはその新聞をくしゃりと握りしめて、煙草に火をつけたのだった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ぽかりと目が覚めた。

「…………」

 広く温かな男の胸から顔をあげたコウジは、手を伸ばしてサイドテーブルから煙草を一つとる。ぽっと魔力で火をつけて、身を起こした。
 天蓋のカーテンの隙間から、ネコのように音もなく降りて、傍らの小卓の椅子に座り煙草を吹かす。

 妙な夢を見たもんだ。

 いつも思うがコンビニのバイトとしての自分の記憶は名前さえ覚えておらず曖昧だというのに、最強のおじさんキャラとして植え付けられた記憶は鮮明だというのは、どうなのか? と思う。
 今の今まで忘れていた男だった。外国人部隊、傭兵稼業、そして町の掃除屋。人の生き死になんていくらでも見てきた。あの男もその一つだ。

 それでも夢に見るほど印象的だったということか? 革命の理想を掲げながら同時にコウジのような傭兵を雇うような現実主義者でもあった。目的のためには手段を選ばない非情なところも。
 砂漠の獅子。そのたてがみのような金の髪から、燃える太陽なんても言われていた。たしかに苛烈な男であった。同時に瞬く間に燃えつきるような生き様でもあったが。

 空の高みに一気に駆け上がった太陽は、大国同士の思惑に翻弄されて、流星のように落ちて消えた。
 無念だっただろうか? 

 ふと、そんなことを考える。なぜかコウジを気に入って、とうとうと自分の革命の理想を語る姿は、まさしく夢見る少年の瞳ではあった。それを斜に構えて煙草を吹かして皮肉るコウジの態度に、憤慨するどころか自分との会話を楽しんでいるようだった。
 クーデターが起き、亡命を勧める側近に首をふって大統領官邸の執務室に立てこもり、自ら銃を手に戦ったという。

 幾人もの兵士を自らの手でほうむり、最期には自らが蜂の巣にされて、己の血だまりのなかにその金の髪を沈めて死んだと。
 その死に様を聞いたときには、まったく“らしい”と思ったが。

 夢に見たとはいえ、なんであの男のことをこんなに考えるのか? と無精髭のあごをざらりとなでれば、ふわりと肩にガウンがかけられた。

「なにをしている? 冷えるぞ」

 そのガウンごと、後ろから抱きしめられた。そういえば素っ裸だったなと、自分のあばらが浮いた薄い胸に回る、若く張りのある男の腕をぺちぺち叩く。

「ん、ちょっと昔の夢をな」

 振り返れば、いまは前髪がおりた若い男の顔がある。鏡のような銀の髪に剃刀色の瞳、白磁の肌に精悍な頬。秀でた額、通った鼻筋、酷薄そうな薄い唇。どれ一つとっても完璧で端正だ。
 長身でコウジを抱く腕はたくましく力強く、均整のとれた身体つきに足だって当然長い。

 コウジの今の恋人だ。いや、婚約者か? もうとっくに見慣れているはずなのに、毎回見るたびにこんな完璧な王子様が、おじさんの恋人ってどうなんだ? と思わずにいられない。

 そう、コウジはおじさんだ。黒いぼさぼさの髪に黒い瞳、無精髭のどこにでもいる典型的な日本人……のはずだ。身長も平均、体重はちょっと、いやだいぶ軽いが、身体は貧相というわけではない。あばらが浮いちゃっていたりするが、腕にも適度な筋肉があり、腹筋も肉の量からぱきぱきではないが、うっすら割れていたりする。

 自慢は細く長い足か? とはいえ、おっさんの足首が細くてなんになるんだ? とは思う。

「どんな夢だったんだ?」

 問いながらジークがコウジのガウンに包んだ身体をひょいと抱きあげてベッドに運ぶ。いわゆるお姫様抱っこ……おじさんを……と思うが、コウジも慣れてしまってされるがまま、ベッドに下ろされた。

「ん、昔の男の夢をな……」

 正確には昔(知り合いだった)男の夢だったのだが、自分を見おろす剃刀色の瞳に剣呑な色が浮かんだのに、コウジはしまったと思った。
 言い訳を口にするまえに、唇に噛みつかれた。



 “酷ぇ目にあった”のは言うまでもない。





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