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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【24】平原の決戦 その2
しおりを挟む聖女に操られた民衆によって天幕の柱はたちまち引き倒されて崩れ落ちた。
民衆は武器など手に持ってはいないが、その数とその狂信に煽られた勢いがすごかった。彼らは止まらぬイノシシの群のように、盾を構えて壁をつくる兵士達に突進しようとしたが。
「させないわ!」
その前にシオンが魔法道具の弓を構えて、宙へと無数の矢を放つ。その矢にコンラッドが己の槍をふって青い炎を灯した。
地面に突き刺さった矢は空を焦がすほどの青い炎の壁となって、突進してくる民衆の前に立ちはだかる。炎という本能的な恐怖の前に、人々の足が止まる。
「マイア、行くよ!」
「はい、ピート君!」
そして、マイアが空に向かいその拳と蹴りを舞うように飛ばし、ピートもまた彼女の舞いに合わせるように両手に持つ剣を踊らせる。
背中合わせの二人を中心に起こった風は、平原を吹き抜けて、聖女の輿の周囲からもうもうとあがっていた香の煙を吹き飛ばす。モルガナの神官達が手に手にもっていた香炉ごと、空高く天へと。
その甘ったるい匂いが無くなったとたん、聖女の輿から遠く離れた人々から「あれ?」「どうして、俺達はここに?」などと戸惑った声があがる。
やはり聖女の魅惑は強力だが限定的なものなのだ。その輿に乗る姿を見てひととき魅了されても、あとは香にまぜた麻薬を使わないと永続的にはならない。
だが、武器を持たぬ信者達が聖女の本来の戦力ではない。
彼女に完全に洗脳された十七人の王子だ。それも、聖女にパートナーとしての魔力連結を受けて、強力な魔法騎士の力を持った。
彼らは真っ直ぐにフィルナンド王を捕らえようと、進んでくる。炎の壁も彼らは怖れなかった。その身は結界に守られているのだろう、炎を抜けても髪も服も燃えることなく、一列になりこちらに進んでくる。
早足だがけして駆けることはない。輿に乗った聖女てぃあらが炎の向こうに見えた。彼女は艶然と微笑んでいた。
女神モルガナの力を受けた十七人の自分の王子が、三人の王子達に負けるわけがないと、そう思っているのだろう。
「十七人、まともに相手をするつもりはねぇよ」
コウジの銃がぐにゃりと形を変えて、その肩に担がれる。発射されたロケットランチャーは、進んでくる十七人の王子達の足下に着弾しえぐれた地面に彼らは落ちた。
しかし、さすが女神の加護付きだ。誰も傷一つ負っておらず、慌てることもなく立ち上がってすり鉢状の地面から無言で這い上がってこようとするのが、いっそ不気味だが。
「王子様、閉じ込めちゃって」
「ああ」
ジークが黒い聖剣グラフマンデを一閃させれば、瞬く雷光が網となってその穴の上に覆い被さる。さらにコウジが煙草を投げてその結界を強化した。
十七人の王子は穴の中に閉じこめられた。みな一斉に、己の剣や槍を振りかざし結界を破ろうとしている。流石に女神と魔力連結した王子が十七人束になっているだけあって、ジークとコウジが二人で張った強力な結界も揺らぐ。
しかし、すぐには破られないだろう。それこそがコウジ達の狙いだ。
聖女の守り手である聖騎士の王子達はおらず、にわかの信者を仕立てあげた香の効力もなくなっている。香に惑わされてあちらに取り込まれていた魔法騎士達も「私達はなにを……」と戸惑い、従っていた第10と第11の、それぞれの主家の私兵達も同様の様子で、顔を見合わせている。
聖女の輿の周りにいるのはそれを担ぐ奴隷と神官達のみ
いま、フォートリオンの全軍が聖女を取り囲めば彼女はとらわれの身となるだろう。
「モルガナの聖女よ。今一度告げる。そなたの国に戻れ。二度とフォートリオンの地には来ぬというならば追撃はせぬ」
天幕から退避し、近衛に囲まれて馬上の人となったフィルナンド王が告げる。
「……ふふ、これで勝ったつもり? アルタナの生み出した人間風情が、小賢しい」
輿の聖女てぃあら、いや、ついに本性を現したモルガナ女神が叫ぶ。
「創造物が神に敵う訳がないのよ! 大人しく、わたしをあがめ、従っていればよいものを!」
輿からどろりとあふれ出た、コウジにとっては気持ち悪いとしか思えないもの。それが平原全体の空気を汚染していく。
コウジはやばいと煙草に火をつけた。ぶわりと煙が広がるが、この圧では兵士全体を守る結界など無理だ。せいぜいがフィルナンド王とその周囲を守る亭だ。
だが“逃げる”にはそれで十分だ。
とたん、我に返っていた民衆が「モルガナ女神様!」とまた狂乱に叫び始める。それだけではなく、整然と居並んでいたフォートリオンの兵士達が、苦しみ始める。「やめろ、中に入ってくるな……」などともがいたあとに、彼らもまた「ああ、モルガナ女神様こそ真実だ」だの「愚かな王、聖女様の敵になるとは!」とくるりと向きをかえて、近衛に守られた王の側へと、槍の穂先を向ける。
そんな混乱の中「撤退だ!」とロンベラス将軍の冷静な声が近衛の魔法騎士達に響く。
「陛下とコンラッド殿下、ピート殿下、お二人のパートナーをお守りして、我らが王都へと退く」
さらにロンベラスはフィルナンドが口を開く前に「それがジーク・ロゥ殿下のご意志です」と耳打ちする。フィルナンドはちらりと、己より離れて押し寄せてくる民衆と、同じく狂乱したフォートリオンの兵達と、対峙するジークとコウジの背を見る。
「コンラッド、ピート、それにシオンにマイアは余のそばに。引き上げるぞ」
「ジーク・ロゥとコウジを残して行くのですか?」と思わず声を荒げるコンラッドにフィルナンドは「これは王として命じる!」と重々しい声で告げる。
そのひと言でコンラッドは王に従う。シオンもまたコウジ達を一度振り返ったが、己のパートナーの背を追う。
ピートもまたマイアの手をひき「あの二人ならきっと大丈夫だから」と潤む瞳の彼女を促す。
民と兵士達は逃げる王と二王子と近衛の軍馬の列に追いすがろうとするが、それはコウジの放つ威嚇の弾丸の爆発と、ジークの雷光によって阻まれた。
そして、二人、戦場に残った。
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作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
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