どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【24】平原の決戦 その1

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 会談の地は虚海に隔てられたモルガナ国境と、王都のちょうど中間点にあたる、ルーナ平原。
 先に使者として送りこんだ神官団によって、ゆっくり移動していた聖女の輿はここで止まった。

 歩兵を連れているため馬ほどの速度でないにしても全兵士が配られた回復藥の飲み続けで、二昼夜休まず駆けて移動したフォートリオン側は、広がる光景に一瞬言葉を失った。
 聖女の輿の通った村々や町で、その彼女の姿をひと目見て魅了された“信者”達が周りを取り囲んで、山となっていたのだ。

 いずれも昨日までアルタナ女神への感謝の言葉を口にしていたものが、いまはモルガナ女神と聖女を讃え、なかにはアルタナ女神など邪教だと、口汚く罵っている者さえいる。
 そんな中、平原の真ん中に屋根だけの天幕が作られ、そこに聖女とフィルナンド王、三王子が対峙した。

 その後ろに魔法少女の紫と黄色のミニドレスに身を包んだシオンにマイア。当然コウジは黒のスーツだ。
 フォートリオンの兵士達は、王と三王子に付き従う護衛の近衛以外は、天幕より少し離れた場所で整然と並んだが、信者達の群は聖女を取り囲み天幕になだれこもうとした。

 だが、それも聖女の「あなた達はそこにいなさい」とのひとことでピタリと動きが止まった。すべての信者達の顔は熱狂と恍惚に彩られている。異様な光景だ。
 甘い香の匂いが常に漂っている。輿から降りた聖女に付き従うのは十七人の王子達だ。天幕に設けられた彼女の席の後ろに、ずらりと直立不動で並ぶ。左右を固めるのは第10王子と第11王子だが、その顔はまったく無表情だ。他の王子達も同様の様子で、すっかり魅了洗脳されていることがわかる。

 さらにその後ろにはロンベラスが交渉のために引き連れて来た魔法騎士達の赤い制服も見える。そして第10王子と第11王子の所領の私兵達もだ。いずれの顔つきも茫洋として、彼らも聖女とその香にすっかりやられているようだ。
 初めてみた聖女てぃあらの姿は、シオンやマイアの同年代の少女に見えた。しかし、聖女になって十数年あまりと聞いている。それから考えると彼女の外見年齢はあまりにもそぐわない。

 十代の輝くばかりの美貌も、どこか作り物の人形めいてみえた。その髪を飾る造花の花同様に。
 なにより。

「くっさ……」

 屋根のみの天幕だというのに、そこに一歩足を踏み入れたとたん、鼻が曲がりそうなそれにコウジは思わずつぶやいた。甘い香の香りは本当ならば心地よいものだろうが、コウジには完全な汚臭に感じた。
 一瞬聖女がこちらに視線を飛ばしてきた。口許には貼り付けたような微笑。しかし、その瞳孔が針のように瞬間細まって蛇の目に見えた。おっかねぇな、おい。

 コウジはくわえ煙草の煙をくゆらせて、天幕の真ん中にきっちり見えない結界を張る。これで気持ち悪い匂いは漂ってこないはずだ。
 思わず無意識に胃のあたりをさすれば、横のジークにちらりと視線を向けられる。大丈夫だと口の片端をつり上げるが、当分甘い匂いがするものは口にしたくない。この甘味好きのおじさんがだ。

 交渉は平行線をたどった。モルガナ女神への改宗を王に迫る聖女と、それは出来ないと拒む王とがあい入れるはずがない。

「では、どうしても偉大なるモルガナ女神様の祝福を受け入れず、王様はアルタナなどという邪神を信じると?」

 聖女が話すあいだも、びしびしと蠱惑の魔力がフィルナンドに飛んできているが、それはすべてコウジのくゆらす煙草の煙の結界にはじかれていた。

「では、逆に質問しよう。モルガナ女神において、聖女と王の立場はどちらが上か? 同格か?」

 このフィルナンドの質問に聖女てぃあらは、一瞬虚を突かれたように目を見開いた。

「……聖女は女神モルガナの神託を受けた、女神の代理です。人の王とは立場が違いますわ」
「だから聞いておる。国の最終決定権は王にあるのか? それとも聖女にあるのか?」
「モルガナ女神の言葉は正しいものです。正しきものに従うのが道理というもの」
「ならば、その正しい聖女の言葉には、王でも従わねばならぬか?」
「そうなりますわね」

 フィルナンドは軽く目を閉じて、口を開く。

「もちろん王よりも神が尊いのはこの国も同じ。偉大なる女神アルタナより神託を受けて、聖王グラフマンデは異世界より二人の魔法少女を迎えて、災厄をうち払った。
 そのときより我が王家は女神アルタナより、このフォートリオンを統治し民を慈しみ国土を豊かにせよと託されたのだ。
 聖女よ。そなたはそなたの神を信じるがよい。余は余の神を信じる。
 我がアルタナ女神の祝福を受けた王家と、モルガナの聖女は同列には並べられず相容れぬ。大人しく自分の国へと帰り、そなたの国を守護するがよい」
「いまだアルタナなどという邪神にしがみつくというのか? この老いぼれが!」

 聖女の口調が突然変わる。

「この平原を埋めるのは、あなたの国の民よ。いまやモルガナ女神こそが唯一と認めている」

 ぶわりと聖女の身体から魅惑のオーラが立ち上るのが、コウジの目には見えた。それはコウジの張った結界にまたもはじかれて聖女の眉間にかすかにしわが寄ったが。
 「そのあなたの国の民に蹂躙されなさい!」という聖女の声と「交渉決裂だ」というジークの低い声が重なる。

 同時に聖女の魅惑にあおられた信者達が、うぉおお~と声をあげて天幕になだれこんでこようとする。
 同時に整列していた兵士達も行軍を開始して、フィルナンド王は背後にいたロンベラス将軍が率いる近衛達の壁に守られて天幕を出る。コウジ達もあとに続く。






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