どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【23】神様ルール※ その2

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 それからまた毛布にくるまって二人とも寝たと思う。夜明けまではあと少し、そのあいだ身を寄せ合って、朝になれば出発だ。



「あり?」



 思わず声が出たのは、寝ていたはずがいきなりまっ白ななにもない空間にいたからだ。
 いや、なにもない訳では無い。見覚えのある重役の机に革張りの社長の椅子。そこに腰掛けている相手の顔はなぜか見えない。
 この空間には覚えがありすぎる。コウジの世界の神と対面した場所。

「いや~君達相変わらず仲がいいね」

 そう声をかけられてギョッとしたのは、俺達いままで裸で抱き合っていなかったっけ!? ということだった。
 コウジが自分の身体を見おろすと、いつものくたびれた黒いスーツ姿だった。横にいるジークも黒に銀の飾りの軍服姿。
 ホッ……と息をついたが、しかし。

「さすがに裸のまま、召喚はしないよ。ちゃんと服を着せてあげたから」

 「だったら、時と場所を考えて呼びだして欲しかったぜ!」とコウジはグシャグシャと片手で髪をかき回す。横のジークは無言のまま、そんなコウジの腰をしっかり抱き寄せた。

「それで私達をなぜ呼んだ? コウジの世界の神よ」

 おいおい、王子様はあくまで冷静だな。なぜか、俺の腰を守るみたいに抱いてるけど。相手は神様だぜ、警戒する必要は……あるか。
 なにしろ自分の世界の四十四人の少女をほいほい異世界に貸し出すような神様だ。ついでにコウジも自身が考え出した最強おじさんにして、送り出してくれたのは恩義を感じるべきなのか? 

 アフターケアが間違った方向に万全としか思えないが。
 そこでコウジは思い出す。例の聖女も異世界からやって来たのだ。

「聖女てぃあらのことか?」
「話が早くて助かるね。そう、あの少女の“亡骸”はこちらの世界のものだよ」

 “亡骸”とその言い方にひっかかった。コウジは怪訝に眉を寄せれば。

「そう少女てぃあらはこの世界ではすでに死んで、魂は次の転生に入っている。あちらの世界に渡ったのは身体だけだよ」

 コウジは軽く混乱した、身体だけってことはゾンビか? と考えたが。

「ではあの聖女には誰の魂が入っている?」

 ジークがそう訊ねた、そうだ順当に考えれば身体には誰かの魂が入っているはずだ。

「それは女神モルガナ自身だよ。あれはただの聖女なんてものではない。女神の力に異世界の者の異能の力が合わさったものだ。
 歴代のなかで最高の聖女を……とモルガナが望んだ」
「あんたがあっちに魔法少女をほいほい送り出したみたいに、今度は聖女の身体を渡したのが、この結果か!?」
「神だって間違えることがあると、君に前、言っただろう? 
 私はてっきりモルガナがようやく自分の小さな世界を育てる気になったと思ったのさ。自らが聖女となることでね。
 それがまさか、となりのフォートリオンに手を出すなんてねぇ」

 「二人の兄貴である、あんたが介入しないのか?」とコウジが問えば「それは出来ない」とあっさり答えられる。

「我々の世界は独立起業みたいなもんだからねぇ。当事者同士の争いは、当事者同士で解決するのが基本だよ」

 へえへえ独立採算制にして、弱肉強食ですか……とコウジは内心で毒づく。

「ただし、コウジ。君に関しては私が久方ぶりに“直接創造”した御使いみたいなものだからね。だから、聖女のことは説明しておくべきだと思ってね」

 御使いって俺は天使かなにかか? おじさんの背中に白い羽があるのはあんまり想像したくない。

「で、なにが言いたいんだよ?」
「いや、あれは聖女じゃなくて相手は神だから『頑張ってね』とね」
「単なる激励かよ! 意味があるか!」

 これは聖女というか、モルガナ女神との対決が不安になってきた。策は練ったが相手が依り代どころか本当の女神となると通用するかどうか。
 これは聖女に汚染された地が切り離される可能性が、ますます大きくなったぞ……と思うが。

「でも、君達は一回“女神”に勝ってるじゃないか? アルタナの落とした災厄の影とはいえ、あの場で人々の魔力が消えたのは女神の分身としての力だよ」

 コウジの世界の神が言っているのは、正妃アルチーナが災厄だとわかった、あの聖王の間でのことだ。
 災厄は隠していた己の力を発動させて、あの場にいるすべての者達の魔力を無効にした。

 だが、ジークとコウジにはその力は通用せずに、女神の影たる災厄を退けることが出来たのだが。
 たしかにあれは不思議に思っていたが。

「あれはコウジが、その魂以外は私の創造物だからだよ。だから、そのコウジと魔力連結をしたパートナーである王子も、女神の力は通用しなかった」

 「だから今度もなんとかなるんじゃないかな?」とは希望的観測過ぎるんじゃねぇか? とコウジは内心で毒づいたが。

「では、私とコウジの魔力は私達の世界の外にあるということか?」
「うんうん、そういうことになるね」

 ジークが口を開く。彼はしばらくあごに手を当てて考え「コウジの世界の神よ」と呼びかける。

「ここに女神アルタナを呼ぶことは出来るか?」

 「ん、ああ、いいよ」と神はあっさり答える。いや、そんなにほいほい妹神、呼びつけていいのかよ? 
 しかし、その一瞬後には「なに? お兄さま」と女神アルタナが空中から姿を現した。ジークとコウジの姿に、ぎょっと目を見開く。コウジは「女神様よ」と低い声を出す。

「なにが聖女はモルガナ女神の依り代だ。こっちの神様の説明によると、あれは女神そのものらしいじゃないか?」

 「俺達を神様と戦わせるつもりだったのか?」とコウジがすごめばアルタナ女神の目が泳いだ。

「だって、あなたたちは私の影に勝ったじゃない。だから大丈夫かな……って」
「どいつもこいつも神様ってのは楽観的過ぎないか? だいたい、よく考えりゃ俺達を戦わせるんじゃなくて、女神様同士でキャットファイトでも平手の打ち合いでも決着つけりゃいいじゃねぇか」

 「そうだ、それがいい」とコウジが腕を組めば「あのね、神々同士の直接の戦いは禁じられているの」と女神アルタナがいう。「神々同士の戦いとなればお互いの創造した世界が崩壊するからねぇ」とコウジの世界の神が続ける。

「モルガナ女神とやらは聖女になってこちらに侵略してきてるじゃないか?」
「あれは女神が人間として転生した訳だからね。肉の身体に縛られている限りは、神としての全能は使えないよ」

 なるほどだから聖女の洗脳は強力であるが、その範囲はかなり限定的なのかとコウジは納得する。「わざわざ人間になるなんて、本当になりふり構ってないわ」とアルタナ女神も呆れた口調だが。その聖女で女神が、自分の創造した地に居座っているんだがな。

「女神モルガナと直接対決出来ないことはわかった。だが、女神アルタナよ。間接的に権能を使うのは可能か?」

 ジークが訊ねる。それに女神アルタナは「条件によってはね」と答える。

「聖女の元に走った王子達はモルガナ女神に“改宗”したとはいえ、元はフォートリオンの民だ。あなたの力の影響はいまだあるか?」
「もちろんよ。ただし、今すぐに彼らの心臓を止めるとかは無理よ。私達は創造は出来るけれど、一旦生み出したものの運命を自在に操ることは禁忌とされているの。
 権能によって奇跡を起こし手助けは出来るけれど、あとは増えるも滅びるも……それはその創造したもの達が切り開くもの」

 なるほど神様にも色々なルールがあるらしい。直接争ってはいけない。代理で戦うのはその創造物達。
 そして神が生み出した物でも、神々はその生き死にを自在に出来ないと。だったら異世界に送りこむのはどうなんだ? と言いたいが、神様ルールはよくわからん。
 「ほんのひととき、彼らにその力を使うだけでいい」とジークは告げた。コウジは「どうする気だ?」と訊ねる。

「兵糧攻めだ」

 ジークは答えた。





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