どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
48 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【18】さかさまのおじさん その1

しおりを挟む
 あー、やっちゃった、やっちゃった、やっちゃった。
 私は自分の部屋で悶えていた。
 レオンさんと踊っている途中から記憶がない。ステップを教わっても、足を踏みまくってしまった。「大丈夫ですよ」と言われて、持ち上げられて、足がつかないまま、くるくる回って。
 ああ、あれで酔いが回ったのかなあ。
 誰が連れ帰ってくれたんだろう。うう、謝りに回らないと。

「マリア、いつまで寝てるの?」
「はーい、すみません」

 久しぶりにミルルに起こされてしまった。慌てて着替えて、食堂へ。フランチェスカさんは何か変な匂いのお茶を飲んでいる。

「マリアもいるかい? 二日酔い覚ましのお茶だよ」
「いえ、大丈夫です」

 普通に朝食を取る。

「おや、案外、酒に強いんだね。昨日の様子じゃ、今日は起きてこないかと思ったのに」
「あの、すみません。昨日の夜、最後は記憶がなくて、ご迷惑をかけたんじゃ」
「私たちは大丈夫」
「もしかして、レオさんには」
「うちまで運んでくれたけど、役得だって笑ってたよ」
「うう」

 お詫びしなくちゃ。いや、お礼しなくちゃ。

「それより、これ」

 フランチェスカさんに渡されたのは一枚の新聞だった。この世界にも号外ってあるんだ。と、記事に目を通し、びっくりした。

『エスメラルダ・アルバ嬢、新たな魅力でパーティーの主役へ』
 エリアード学園の卒業パーティーにおいて、主席で卒業されたエスメラルダ・アルバ嬢は短い髪に新しいスタイルのドレスで登場し、男性も女性も魅了した。ダンスを求めるのは男性だけでなく、いまだかってない長い行列ができた。その新しいスタイルはデルバールの髪結師マリアとデザイナー、アーネットによるものと記者の調査で判明した』

 エスメラルダさんが絶賛され、婚約破棄には触れていない。ブライアン王子とシャーロットの名前が載っていないのは大満足だが、私とアーネットさんの名が載ってる!

「こ、これ」
「王子の名を出して、不敬と疑われたくないから、エスメラルダ様のスタイル中心で記事をまとめたんだね。おかげで朝から問い合わせがうるさくてしょうがないよ」
「す、すみません」
「いいよ、いいよ。みんな、エスメラルダ様を力づけたいと思っていたんだ」
「でも、やり過ぎじゃないか」

 口を挟んだのはジェシーさんだった。

「勝手に入ってこないでください」

 ジェシーさんの後ろでミルルが抗議している。

「おはようございます。どうしたんですか」

 私が尋ねると、ジェシーさんはわざとらしくため息をつき、号外をポンポンと叩いた。

「これを見て、慌てて来たんだよ。こんなに目立って、落ち人とバレたらどうするの」
「でも、エスメラルダ様をあのまま、放っておくなんて私には無理です」

 心配して来てくれたのは嬉しいけど。

「どうせ、自分の店を開いたら、バレてしまうと思います」

 私のヘアサロンはこの世界には異質なものになる。遠い国から来たと言い張っても無駄かもしれない。

「このまま、デルバールで働くのじゃ、駄目なのか? 危険をおかすより、例えば、結婚とかは考えないのか? 考えるなら」

 ジェシーさんの言葉の最後の部分はよく聞こえなかった。バタバタと今度はアーネットさんが駆け込んできたからだ。

「急いで。エスメラルダ様の依頼よ」

 私の手首をつかんでグイグイ引っ張っていく。

「何をする」

 ジェシーさんが止めようとした。

「仕事なんだから、邪魔しないで。陛下に呼び出されたそうなの。今日もきれいにしてあげなきゃ、意味がないでしょ」
「もちろん! でも、私、こんな格好で」
「構わない。馬車の中で着替えてもらうから」
「待って、道具を取ってこなくちゃ」

 私は慌ててワゴンを取ってくる。

「私も行くよ」

 フランチェスカさんも一緒にエスメラルダ様のお屋敷から迎えに来た立派な馬車に乗り込むと、アーネットさんが持ってきた衣装箱が一杯積まれていた。

「売れると思って、あれから、いくつもドレスを直しててよかった」

 そう言うアーネットさんの目にクマができている。うわっ、あれから働いていたの?
 着替え終わった頃にエスメラルダ様のお屋敷に着いた。
 馬車から降りるのに背の高い騎士がエスコートしてくれた。

「マリア様ですね。ありがとうございます。おかげさまでお嬢様の名誉は守られました」
「いえ、そんな。様なんて、つけないでください」

 お屋敷の使用人だろうか。ずらりと並んで頭を下げている。その中を通って、屋敷に入った。
 パーティーの時に付き添っていた侍女に案内され、エスメラルダさんの部屋に入る。

「マリアさん、アーネットさん、それから、フランチェスカさん、来てくださってありがとうございます。お聞きかと思いますが、急に登城することになりまして、昨日のような姿にしてほしいんです」
「おまかせください。昨日より、さらにお美しくして差し上げます」

 フランチェスカさんが代表して答えた。アーネットさんと私はうんうんとうなずく。

「今日は爽やかな感じにまとめましょう」

 アーネットさんがパンツタイプじゃないドレスを取り出すと、エスメラルさんは首を振った。

「昨日のようなズボンのドレスをお願い」

 水色のパンツタイプのドレスをアーネットさんが素早く着せつけた。シースルーの袖がついている。
 次は私の番。
 髪は洗ってきれいに乾かしてあるので、ヘアアイロンだけで良さそうだ。

「昨日、婚約破棄を宣言されことより髪を切られたことの方が辛かったわ。でも、あなたが私を救ってくれた。綺麗な髪にしてもらって、生まれ変わったみたい。スッキリした」

 エスメラルダさんが笑う。化粧する前ということもあって、年相応に見える。今日のメイクは昼間だから、ラメは無しでアイシャドウはドレスと同系色の水色にしよう。

「私の故郷の国では失恋したら、髪を切る人が多かったんですよ。踏ん切りをつけるためとか」
「そうね。私の気持ちも定まったわ。男性を支え、女性らしく。そう教育されてきたけど、気持ちが自由になったみたい。私、辺境伯を継ぐわ。女性でも継いでみせる。その決心の証として、このまま、短い髪でいようと思うの。それで、私の専属になってくれない?」
「えっ」

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。