どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【17】モルガナの聖女 その2

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「しかし、そうなると二人はすでに他国人ということになる。それも国の元首たる聖女より地位を与えられたということは、国と神殿の庇護下にあるということ」

 そうなればただの罪人の引き渡しということではない。国家間の問題となるとジークの現実的なひと言に、それでも我慢ならないとぐうっとコンラッドが眉間にしわを寄せる。

「ですが、彼らがこの国では逃亡犯であることは確か。二人はそれを隠して亡命した可能性もあります。
 モルガナ側にその罪状を通達し、その上で二人の引き渡しを要求するのが妥当と思います」
「お前のいうことは正論ではあるな。コンラッド」

 そうフィルナンド王は口を開き、一呼吸置いてから。

「モルガナ側に使者を立てる。
 素直に二人を引き渡すならば、聖女との会見の場を設けねばならないだろうし、拒否するとならば会見は無しだ。二人とも連れてモルガナにお引き取りいただこう」

 「陛下」とコンラッドが声を尖らせる。罪人二人をわざわざ見逃して国外にもどすのか? という声であるが。

「一度逃げられているのだ。主家預かりというわけにはいくまい? とはいえ、王の血を引く男を強制労働所に放り込む訳にもいかぬから、結局はこの宮殿の北の塔の貴賓室送りとなる」

 “貴賓室”とは言い得て妙だが、ようするに王族貴族用の高級監獄ということなる。たしかにその中は牢屋とは思えない豪奢な家具に、三食昼寝の使用人付き。行動の自由だけがない良いご身分といえるが。
 だからこそフィルナンド王は「その分の食い扶持がかかる」とまあ、意外な節約家? のひと言を口にし。

「あちらで身柄を引き取ってくれるならば、よいではないか。その代わり、この国にもう一度足を踏み入れたならば、そのときは即刻身柄を拘束すると、それでよい」

 いかにも老獪な政治家の考えだ。フィルナンド王の女癖があれこれ取り沙汰されながらも、国民に人気なのは、彼がそれ以外では善政を敷いた王だからだ。
 逆に彼が今はもう名前も出せない正妃に毒を盛られて病に伏せっていたここ数年は、様々な政に陰りが出ており、この王の復活を民が喜んだことはいうまでない。

 そして、モルガナとの交渉の使者はどうするか? という話に移る。
 ジークの「私が行きましょう」という言葉を、コウジは当然のように受けとめた。辺境周りの旅から旅への経験もあるし、彼ならば交渉が決裂して、危急の事態となったときにも適切に対処できる。コウジも一緒に行くつもりだったが。

「ダメだ。お前はならんぞ、ジーク・ロゥ」

 フィルナンド王の反対に、ジークはコンラッドのように眉間にしわを寄せることはなかった。ただ軽く目を見開いて王を見た。その剃刀色の瞳には、自分が適任なのになぜダメなのか? と純粋な疑問がある。

「聖女の会見の要求には、王である余だけでなく、三王子も入っていることを忘れるな。
 お主がいけば、あちら側の要求に一部応えたことになってしまう。こちらが罪人の引き渡しを告げる前にな」

 「確かに」と低くつぶやきうなずいたジークにコウジは内心で『そんなもんかねぇ』と思っていた。別に会う会わないでもったいつけるもんでもないと思っていたが。

 あとでピートに「それも外交の駆け引きってものですよ。国同士の些細なメンツだって、重要な交渉の一部なんです」なんて言われてしまった二人だ。すまん、お前のお兄ちゃんとおじさんは、とんと、こういう感覚にはうといようだ。
 フィルナンド王はそんなジークの様子に、深々とため息をつき。

「長い間、不遇の身におかれていたお前の気苦労もわかるがな。いまは序列第2位の王子で、第1位が空席の今、お前はコンラッドと同じく玉座に最も近い王子なのだぞ」
「私は王になるつもりはありません」
「お前はそう言ってもな。他者はそうは見ないということも覚えておけ。
 なによりお前は民に“英雄”と呼ばれる身なのだぞ。そんなお前が赴けば、あのうるさい王都の新聞各社が一斉に書き立てるであろうな。
 国の代表としてお前がモルガナとの平和外交に赴いたとな」

 「お前の一挙一動は注目されておる。その自覚をそろそろもたぬとな……」と王は叱責するのではなく、まるで幼子に言い聞かせる様な口調でジークに語る。
 自覚ねぇ、自覚……どこかで聞いた言葉だなあ……とコウジが思っていると、王より「コウジ」と名前が呼ばれた。

「はい?」
「そなたもその序列第2位の王子の婚約者なのだ。民との触れあいを“ほどほど”にするように」

 コウジの何でもやります課の町歩きのことを言っているのだろう。シオンが『ほらごらんなさい』となんでか得意げな顔だ。まあ、別に嬢ちゃんの生意気な顔にむかついたりはしないが。

「“ほどほど”で? やめろとはおっしゃらない?」
「止めたところで、そなたは窓から飛び出すネコのようなものだろう?」

 王のこの例えにコウジも吹き出したが、なんとジークが口許を黒革に覆われた手で隠して俯いてしまった。「くくく……」という低い美声の押し殺した笑い声に震える黒に銀の飾りの軍服の肩。
 穏やかな微笑みならともかく、鉄面皮の王子様が声をあげて笑うなんて誰も見た事がないのか、会議の場は軽く固まった。

「これを爆笑させることが出来たとは、余の手柄と言っていいのか?」

 フィルナンド王の問いにコウジが苦笑しながら「そうですね、あっぱれです」と代わりに答えたのだった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 その後の話し合いの結果、交渉の使者はロンベラス将軍が適任だろうということなった。

 ところが思いもかけないことが起こった。
 その交渉に旅立ったロンベラス将軍が、率いていた騎士も連れずに、単騎、焦燥した様子で王都に戻ってきたのだ。





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