どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【14】王家の災厄 その1

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 怒濤の婚約式から半月後。

 いくら執事のケントンがぴかぴか磨こうとも、おじさんが履いた途端にくたびれる革靴の音を、コツコツと響かせて王宮の長い廊下を歩く。
 時々チラチラと視線を感じるが、コウジは今さら気にしない。軍服かお貴族様のひらひらの服ばかりの中、たしかにコウジの黒いスーツ姿は目立つだろう。

 ちなみに黒いスーツ一着を着たっきりという訳では無い。ジークの御用達の仕立て屋に頼んだものが、ずらりと衣装部屋に並んでいる。頼まれた仕立屋は、さぞやりがいが無かっただろうと、並ぶ黒いスーツをコウジは眺めたが。

 しかし着てみて驚いた。廉価量販店のスーツとフルオーダーメイドのスーツを比べたら、職人が怒るだろうが、それぐらい着心地がよかったのだ。そういえば、手首にまで巻き尺巻き付けていたな……とコウジはぴったりのクセに、突っ張らないスーツの上着に思ったものだ。

 そして、同じ黒のスーツと思いきや、裏地に透かしの縞や柄が入っていたり、衿やポケットの形が微妙に違っていた。上着の裾の切れ込みも後ろだけでなく、サイドに入れてあったりする。なるほどそこにやりがいを見出したか。さすが職人。
 とはいえコウジは着られればいいとばかり、ケントンの出してくるスーツに、ただ袖を通すだけの日々なのだが。

 翼を広げた形の王宮の右の翼部分の建物の一角を国軍の事務局がしめている。ここにくると、とたん軍服の男達ばかりが目立つようになる。
 コウジの姿をみるとみなが廊下の脇に避けて、敬礼するのに、コウジは手をひらひらさせて挨拶し、通り過ぎる。魔法少女は一応軍属扱いで、災厄を倒したコウジ達には参議なる、わけのわからない位が与えられた。権限はないが一応偉いらしい。

 前室の扉を開く。机に座る秘書官にこれまた手をひらりと挨拶をして、二つある扉のうち応接間のほうではない、いかにも重役室といった重厚な扉を開く。
 ノックもなし来訪の知らせもなしに、この部屋に入るのを許されているのはコウジだけだ。ロンベラス将軍の報告を受けていたジークが、わかっているかのように顔をあげてこちらを見る。

「話の途中か? なら隣で待っているぜ?」
「いえ、もう終わりました。お気遣いありがとうございます」

 コウジがドアのところで立ち止まれば、ロンベラスが答える。
 いかにもたたき上げの軍人気質のお堅いばかりの将軍だと思っていたロンベラスだが、意外と物腰は柔らかだ。コウジにも軽く会釈をして執務室を出て行く。

 交替とばかりにコウジがジークの執務机へと歩み寄る。ただし、ロンベラスが机の前に姿勢良く立っていたのに対して、こちらはひょいと机に腰掛ける行儀悪さだ。

「あなたのほうから迎えに来るとは珍しい」
「いつも王子様に右端から左端の三階から二階に移動してもらうのはなぁ」

 ジークの執務室は、王宮の右翼の三階にあって、コウジのなんでもやる課は、左翼の二階にある。
 本日、用があるのは、中央に幾つもの尖塔が立つ王宮の中心、王が暮らし晩餐会や夜会が開かれる本宮だ。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 ジークの個人的な屋敷でさえ、朝食の食堂に夕食用の部屋。さらには客人を招いての晩餐会用の部屋とあった。
 王宮となればもっと規模は大きい。食事だけでなく、客人のランクや親しさによって招かれる部屋も違う。

 それまでコウジがフィルナンド王に招かれたとき、常に王族の家族用のサロンへと通されていた。それが王のコウジ達やジーク以下息子達に対する親しみをこめた心の距離を現していたのだ。

 だが今日の部屋は違った。王の私室ではあるが、部屋の奥には椅子が一つだけ置かれ、そこにフィルナンド王が座している。あとの者達はすべて立ったままの謁見用の部屋であった。
 呼ばれたのはジーク達三王子に、コウジにシオンとマイア。

 あとから侍従に案内されて入ってきたのは、クルノッサ元老院議長に準妃ロジェスティラ。
 椅子に座るフィルナンド王の横には三王子とコウジ達がならび、後からやってきた二人は対峙する形となる。

「今日、余が卿を呼んだ訳を言わずともわかっておるだろう? クルノッサよ」

 長々としたご機嫌うかがいの挨拶など不要とばかり、フィルナンドが口を開く。胸にうやうやしく手をあてて口上を述べようとしたクルノッサは、その片眼鏡の奥の目をしばたかせる。

「いえ、まったくわかりません。このクルノッサ、どこで陛下のご機嫌をそこねましたかな?」

 いやはやまったく意外だとばかりのすっとぼけかたに、さすが宮廷の古狸だぜとコウジは思う。隣のロジェスティラの表情もまったく変わらない。
 もっとも、これぐらいで動揺を見せてはこんな伏魔殿で生き抜くことは不可能なんだろうが。

「余の機嫌などどうでもよい。お前が序列2位のジーク・ロゥおよびにそのパートナーたるコウジの命を狙ったことよりな」
「陛下、お言葉にございますが、なにを証拠にそのような……」
「俺を狙った第10王子様と第11王子様と、あんたが密かにとある店で、秘密裏にたびたび会っていたって話があるんだよ」

 コウジが口を開ければ、クルノッサはふっ……と馬鹿にしたように、口の端をつりあげて微笑する。

「とある店? それはどこで?」
「あんたの名誉のために名前は伏せたんだが、いわゆる高級娼館ってヤツだ。そこで王子達とあんたが示し合わせたように同じ時刻に出入りしてたって話だ」

 街で聞き込んだ断片的な噂をつなげれば、見えてくる話もある。王子様達御用達の娼館に、元老院議長もこっそり裏口から馬車で乗り付けているんだ。まったくあの歳になってお盛んなことだと。昼間からやってる酒場で、娼館の門番に一杯おごって口が軽くなったところで、聞き出した話だ。





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