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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【8】絶対零度の王子様 その2

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 奴らを八つ裂きにしたって足りないというジークだったが、それよりもコウジの治療が優先だと、少女の保護は自分が引き連れてきた憲兵にまかせて、コウジを自分達の屋敷へと連れ帰った。

「痛みは?」
「だからお前が治癒魔法をかけてくれたから、なんともねぇよ」

 寝室のベッドに腰掛けてガウンをまとったコウジは、いまだ心配顔のジークに苦笑する。
 そもそも、屋敷に向かう馬車の中でも、この王子様はおじさんをお膝に乗せて治癒魔法をかけてくださったのだ。おかげで到着する頃には傷はすっかりよくなっていた。

 風呂だって一人で入れると言ったのに手伝うと言って聞かず、軍服の上着を脱いでシャツを腕まくりして、おじさんの身体を洗い上げたのだ。
 この屋敷には二人で入っても余裕の広い風呂があるが、朝や夜のことが終わったあとなどは、寝室に付属のバスルームを使うのだ。猫足がついた白に金のお姫様が使いそうなバスタブだ。

 そのあわあわのお風呂につかるおじさん、似合わねぇ~と思う。そして王子様はおじさんを洗うのに手際がよかった。それを言ったら「寝てるあなたを風呂に入れるのは慣れている」そうだ。

 そういえば、いつも朝は身体がさっぱりしていたよな~と、今さら気づく事実である。おじさんは危機が迫らなければ朝まで熟睡の体質だが、風呂に入れられて気づかないとは本当にこの王子様を信頼しきっている証だ。なんか照れるが。

「だからそう心配な顔するな。これよりもっと酷い目に遭ったことなんていくらでもあるんだからな」
「それは?」
「味方の部隊に見捨てられて、弾薬も尽きたなか、ナイフ一本でジャングルを踏破とかな。ああ、でも毒ヘビでも食料があっただけはマシか。
 一番まいったのは砂漠にヘリが不時着したときか?戦闘糧食レーションと水は三日分しかねぇのに、十日も砂漠をさまよって日干しになるかと思った」

 「両方とも十日ほどの別荘暮らしという名の入院ですんだけどな」というコウジにジークの眉間のしわがますます酷くなる。
 それにコウジは手を伸ばし「男前が台無し……いや、そんな顔してもお前かっこいいな」といいながら、二本指でちょいちょいと広げる仕草をして。

「だから、この世界には治癒魔法があるんだ。死ななきゃ傷なんてたちまち治っちまうだろう」

 もっともそんな治療が出来るのは、かなり上位の魔術師であるのだが、ジークやコウジも含まれる。

「それでもそのとき受けた痛みの記憶は消せない」
「だから、あいつらの殴る蹴るなんて俺にとっては撫でられるようなもんだ。ちゃんと受け身はとっていたしな」

 魔法で防御は出来なかったが、急所はしっかりはずしていたのだ。だから、あのときもう片方の王子が少女に手を伸ばしたとき瞬時に動けたのだ。
 魔法も使わず奴らに反撃したのは、まあチョットした意地だ。「魔法が無けりゃ利用価値もないクズ」なんて声も聞こえたので、おじさんはそこらへんのへっぽこ騎士より、やるぞと。

「訓練を受けた尋問官の拷問のほうが、よっぽどキツかったぞ」
「拷問だ……と?」
「ああ、捕虜に対する尋問はともかく、拷問ってのは国際条約……まあ国同士の取り決めだな……禁止されているんだが、俺みたいな“傭兵”はその埒外だからな」
「傭兵だったのか?あなたは?」
「うん、金をもらって人を殺す。そのあとになった街の掃除屋だって変わらねぇなあ」

 正義のためなんて思ってなかった。食っていくためだとつぶやいて皮肉に笑う男だった。

「だが、それは本当のあなたではなく、あなたは……」
「そう本当の俺はしがないコンビニのバイト。しっかし神様が与えてくれた、強いおじさんの記憶は鮮明だな」

 そう、これが本当の自分ではなく、自分が物語……にもしていない。ともかく若気の至りで夢想したキャラだとはジークに説明してある。
 そんな自分でもいいのか?とコウジはジークに確認したことがある。ジークは事もなげにいった。

「あなたはあなただろう。あなたという魂を私は愛したのだ」
「……恥ずかしいこと口にしても、王子様はカッコいいのがシャクに触るなあ。
 お前、俺がミジンコでも愛するわけ?」

 ジークは「うん」と深くうなずいた。たぶんミジンコがなんなのかわかってはいなかったが、この王子様ならミジンコの自分をいれる水槽を確実に用意しそうだった。



「そういえば俺達、ケンカしてなかったか?」
「……すまない」
「いや、俺もごめんなさいだな。覚悟が足りなかった」

 コウジはくしゃりとその髪をかき回した。「覚悟?」と聞かれる。

「うーん、お前がさ。王様や貴族どもの前であれほど堂々と宣言したのにさ。おじさんはよけいなこと考えていたかな……ってな」
「私はあなただけでいい」
「うんうん、俺がミジンコでもいい王子様だもんな。だけどな、人の心ってのは変わりやすいんだぜ。永遠ってものがないように、十年後のお前は別の誰かに心を動かしているかもしれない」

 「私は!」と叫びかけたジークの唇に指を押しあてて黙らせる。話の続きを聞けと、眼差しで伝えて。

「だけど、今、お前がそう思ってるのも本当だって俺はちゃんとわかってる。明日のことなんて誰もわかんねぇよ。
 だけどなあ、今、このときにお前の若い情熱にこのおじさんも流されちゃってもいいかな~と考えている訳だ」

 お前の為だとか、王国の将来とか、世継ぎとか……そんなのは恋に臆病なおじさんの言い訳だ。

 結局、恋愛なんてとち狂ってなんぼだ。
 いや、このおじさんが恋愛なんて照れくさいな~と思うが。

「それからおじさんな。あのゲスな序列が10位でも品性最下位の王子様に触れられて嫌だったの。まあ、全然これっぽっちもおじさんの毛の生えた心臓は傷ついてないけど、それでも目の前にゴキブリが通り過ぎりゃ顔をしかめるだろう?」
「私もあなたに誰かが触れたなど不快だ」
「うんうん、だからなそんな嫌なことはさっぱり忘れるために、おじさんと仲良くしようぜ」

 そう言ったとたんに、コウジの唇はジークの唇にふさがれた。





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