25 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?
【5】父と息子と恋人のおじさん その1
しおりを挟む三王子と呼ばれる災厄を倒した王子達、つまり序列同格2位のジーク・ロゥにコンラッド、序列第3位のピート以下の王子達には、現在序列がない。
それこそがフィルナンド王が示した意思だ。
4位以下の王子達には王位継承権はないと。
それだけでなく王は王子達へと一律に子爵の称号を与えたが、これは高級役人の法服貴族達と同じく所領無しの一代限りの特殊称号とした。
つまりは本人が生きている限りは一律の年金は国から支給されるが、称号もその金も子孫には引き継がれないということだ。
さらには王宮暮らしの王子達には、一時金の下賜金をあたえ、それで外で暮らすように告げた。
急に出て行けというのはあまりにも慈悲がないとして、猶予は半年。
生家のたいした後ろ盾もないから部屋住みの王子達は騒然となった。彼らはただいま、婿養子先の貴族の家を探して絶賛婚活中である。いくつかは決まってはいるが、大半は半年後に王宮からとぼとぼと出て行くことになるだろうが。
後ろ盾がしっかりしており爵位も財産もある王子達が余裕か……と言えばそうでもない。彼らは部屋住みの一律子爵達と違って、生家の伯爵なり侯爵なりの称号を受け継ぐことになるだろう。それでも“殿下”を名乗ることは今後ゆるされず、臣下の列に加わることは、王族に生まれた者としては屈辱である。
平時ならばあちこちから不満の声が続出して、さすがの王も大半の王子を臣下の列に下すなどということは考えなかっただろう。
だが、災厄は倒され、それを倒したのは三王子だと誰もが知っている。さらには他の王子達はすべてパートナーたる魔法少女を失っており、三王子のような力はない。
彼らは不承不承でも王命を受け入れるしかない状況だ。
魔法少女達を元の世界に帰すように要求したのもコウジだが、別にこちらの世界の王子達の力をそぐつもりはなかった。が、図らずもまあそういう結果になってしまった。
そして、王はコウジに卿の称号を与えるという。ゆくゆくは貴族の称号も。その前にジークの邸宅を出て別の家を構えろということは。
「王様は俺も他の王子達と同様“整理”したと捕らえられかねませんよ」
「ふむ、確かにそう見えるかもしれんな」
「さらにいうならジークと俺との仲も“決裂”したと見る馬鹿だっているでしょう。第2王子の片方はパートナーを失い、他の一代限りの子爵達と同じになったと」
ジークは国の英雄として民には絶大な人気があるが、公式愛妾だった母親のことで貴族達には敵が多い。
「これを機会にジークを失脚させようとする陰謀なんてゴメンですよ。災厄を倒したあとのゴタゴタからまだ半年なのに、新たなお家騒動なんてね」
「我が王宮のことながら情けないが、まったく考えられることだな。そなたとジークとの根も葉もない噂に早めに手を打とうと思ったが」
「ジークはいい男ですよ。今は俺との多少“仲が良すぎる”噂が流れたとしてもです。あいつがその気になればすぐに相手なんて決まるでしょう」
実際はどんな美女もよりどりみどりの王子様が、その気になるのは王様の目の前にいるおじさんなのだが、そこはコウジはごまかした。
ジークとの関係が別に後ろめたいわけでもないが、あえて話すことでもないという考えは変わらない。
「王子達のことが落ち着くまでは、この話はおいおいということになるか」
「ええ、そうしてください」
それにジークに対していままで父親らしいことなど、一度もしたことのないだろうフィルナンド王が動いた。
その親心を考えると口に出せなかったというのもある。
────ようは先延ばしだよな。それはまあわかっているんだが。
フィルナンド王がいなくなった部屋で、コウジは一つため息をついた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
王宮という場所は市井とおなじく噂の宝庫だ。
ただしその噂は市井のように井戸端や酒場でぺちゃくちゃと語られるわけではなく、ひそひそと秘めやかに。
「お聞きになって? ジーク・ロゥ殿下ったら、またお話をお断りになられたって」
「ジュリエッタ公爵令嬢のことでしょう?」
女官達がひそこそと話し合っているが、常に足音を消して歩く癖のあるコウジには全く気づいていない。別に隠れもしないで悠々とこちらは歩いているのだが。
「最近では陛下自らがお話になられているのに『今は時期ではありません』の一点張りですって」
「時期って殿下のお歳ならばすでに妻帯なされていたっておかしくないお歳でしょ?」
たしかに王族や貴族は生まれた時から婚約者がいて、成人と同時に結婚というのも当たり前だ。
ただ、今の王子様達が一人も結婚していないのは、災厄が現れる時期と重なったことがある。異世界から呼ばれた魔法少女と王子は運命のパートナーであり、結ばれることが自然であったからだ。
「それにジーク王子のパートナーはいくら盟友とはいえ男でしょ?」
男では子供は産めないと女官は言外に言っている。序列第2位であり、1位が空位の今、実質皇太子の一人であるジークにはたしかに世継ぎを残すことも王族たる義務の一つだろう。
「あの噂は本当なのかしら? ジーク・ロゥ殿下と盟友殿がねぇ……」
「まさか、これが美しい少年や青年なら、わたくしだって考えるけど、相手はあの……」
そこで彼女達はこちらにやってくるコウジにようやく気づいたのか、ぎくりと肩を震わせる。やって来る彼に道をあけるように廊下の脇へと移動し軽く頭を下げるのに、コウジは無言で片手をあげる。
別に彼女達の言動をとがめる気などさらさらない。
────俺だって、あの王子様とこのおじさんが……なんて信じられねぇよ。
まあ、あの王子様はベッドの中ではケダモノだけどな……と下世話なことを考えながら、彼女達の前を通り過ぎたのだった。
246
作者の新作情報はtwitterにてご確認ください
https://twitter.com/sima_yuki
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。

【同一作者の作品】
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
【完結】長い物語の終わりはハッピーエンドで
https://twitter.com/sima_yuki
『チンチラおじさん転生~ゲージと回し車は持参してきた!~』
ハズレ勇者のモップ頭王子×チンチラに異世界転生しちゃった英国紳士風おじさま。
【同一作者の作品】
【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
【完結】断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました
【完結】長い物語の終わりはハッピーエンドで
お気に入りに追加
1,096
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。