どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【2】~聖女襲来!?~おじさんと王子様が結婚するって本当ですか!?

【5】父と息子と恋人のおじさん その1

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 三王子と呼ばれる災厄を倒した王子達、つまり序列同格2位のジーク・ロゥにコンラッド、序列第3位のピート以下の王子達には、現在序列がない。

 それこそがフィルナンド王が示した意思だ。
 4位以下の王子達には王位継承権はないと。

 それだけでなく王は王子達へと一律に子爵の称号を与えたが、これは高級役人の法服貴族達と同じく所領無しの一代限りの特殊称号とした。
 つまりは本人が生きている限りは一律の年金は国から支給されるが、称号もその金も子孫には引き継がれないということだ。

 さらには王宮暮らしの王子達には、一時金の下賜金をあたえ、それで外で暮らすように告げた。
 急に出て行けというのはあまりにも慈悲がないとして、猶予は半年。

 生家のたいした後ろ盾もないから部屋住みの王子達は騒然となった。彼らはただいま、婿養子先の貴族の家を探して絶賛婚活中である。いくつかは決まってはいるが、大半は半年後に王宮からとぼとぼと出て行くことになるだろうが。

 後ろ盾がしっかりしており爵位も財産もある王子達が余裕か……と言えばそうでもない。彼らは部屋住みの一律子爵達と違って、生家の伯爵なり侯爵なりの称号を受け継ぐことになるだろう。それでも“殿下”を名乗ることは今後ゆるされず、臣下の列に加わることは、王族に生まれた者としては屈辱である。
 平時ならばあちこちから不満の声が続出して、さすがの王も大半の王子を臣下の列に下すなどということは考えなかっただろう。

 だが、災厄は倒され、それを倒したのは三王子だと誰もが知っている。さらには他の王子達はすべてパートナーたる魔法少女を失っており、三王子のような力はない。
 彼らは不承不承でも王命を受け入れるしかない状況だ。

 魔法少女達を元の世界に帰すように要求したのもコウジだが、別にこちらの世界の王子達の力をそぐつもりはなかった。が、図らずもまあそういう結果になってしまった。
 そして、王はコウジにロードの称号を与えるという。ゆくゆくは貴族の称号も。その前にジークの邸宅を出て別の家を構えろということは。

「王様は俺も他の王子達と同様“整理”したと捕らえられかねませんよ」
「ふむ、確かにそう見えるかもしれんな」
「さらにいうならジークと俺との仲も“決裂”したと見る馬鹿だっているでしょう。第2王子の片方はパートナーを失い、他の一代限りの子爵達と同じになったと」

 ジークは国の英雄として民には絶大な人気があるが、公式愛妾だった母親のことで貴族達には敵が多い。

「これを機会にジークを失脚させようとする陰謀なんてゴメンですよ。災厄を倒したあとのゴタゴタからまだ半年なのに、新たなお家騒動なんてね」
「我が王宮のことながら情けないが、まったく考えられることだな。そなたとジークとの根も葉もない噂に早めに手を打とうと思ったが」
「ジークはいい男ですよ。今は俺との多少“仲が良すぎる”噂が流れたとしてもです。あいつがその気になればすぐに相手なんて決まるでしょう」

 実際はどんな美女もよりどりみどりの王子様が、その気になるのは王様の目の前にいるおじさんなのだが、そこはコウジはごまかした。
 ジークとの関係が別に後ろめたいわけでもないが、あえて話すことでもないという考えは変わらない。

「王子達のことが落ち着くまでは、この話はおいおいということになるか」
「ええ、そうしてください」

 それにジークに対していままで父親らしいことなど、一度もしたことのないだろうフィルナンド王が動いた。
 その親心を考えると口に出せなかったというのもある。

────ようは先延ばしだよな。それはまあわかっているんだが。

 フィルナンド王がいなくなった部屋で、コウジは一つため息をついた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 王宮という場所は市井とおなじく噂の宝庫だ。
 ただしその噂は市井のように井戸端や酒場でぺちゃくちゃと語られるわけではなく、ひそひそと秘めやかに。

「お聞きになって? ジーク・ロゥ殿下ったら、またお話をお断りになられたって」
「ジュリエッタ公爵令嬢のことでしょう?」

 女官達がひそこそと話し合っているが、常に足音を消して歩く癖のあるコウジには全く気づいていない。別に隠れもしないで悠々とこちらは歩いているのだが。

「最近では陛下自らがお話になられているのに『今は時期ではありません』の一点張りですって」
「時期って殿下のお歳ならばすでに妻帯なされていたっておかしくないお歳でしょ?」

 たしかに王族や貴族は生まれた時から婚約者がいて、成人と同時に結婚というのも当たり前だ。
 ただ、今の王子様達が一人も結婚していないのは、災厄が現れる時期と重なったことがある。異世界から呼ばれた魔法少女と王子は運命のパートナーであり、結ばれることが自然であったからだ。

「それにジーク王子のパートナーはいくら盟友とはいえ男でしょ?」

 男では子供は産めないと女官は言外に言っている。序列第2位であり、1位が空位の今、実質皇太子の一人であるジークにはたしかに世継ぎを残すことも王族たる義務の一つだろう。

「あの噂は本当なのかしら? ジーク・ロゥ殿下と盟友殿がねぇ……」
「まさか、これが美しい少年や青年なら、わたくしだって考えるけど、相手はあの……」

 そこで彼女達はこちらにやってくるコウジにようやく気づいたのか、ぎくりと肩を震わせる。やって来る彼に道をあけるように廊下の脇へと移動し軽く頭を下げるのに、コウジは無言で片手をあげる。
 別に彼女達の言動をとがめる気などさらさらない。

────俺だって、あの王子様とこのおじさんが……なんて信じられねぇよ。

 まあ、あの王子様はベッドの中ではケダモノだけどな……と下世話なことを考えながら、彼女達の前を通り過ぎたのだった。





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