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【9】ボンドと本能と中間試験 その2

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 首筋に手の平で触れていると、背に手が回ってウォーダンに抱き寄せられた。どくりどくりと心臓の鼓動が耳元でする。
 それから彼の中にちりちりとしたものを感じる。これは嫉妬? なにに? と思ったけど、意識の手を伸ばして、その小さなささくれの上を何度か往復して癒す。

「……くやしいな」

 とウォーダンがつぶやく。

「なにに?」
「もっと早くフェリを知ればよかった。そうすれば他のセンチネルのガイドなんてさせなかったのに」
「これからは、あなただけのガイドだよ」
「うん」

 『うん』って子供みたいなウォーダンの言い方にフェリックスの口許に思わず微笑みが浮かぶ。
 なるほど、だから彼は“嫉妬”していたんだと。
 不思議だ。ウォーダンの“負”の感情は気持ち悪くない。むしろ癒せて嬉しいと思う。
 これが運命のボンドだからだろうか? 

「ああ、フェリックスのガイディングは心地よいな」
「そうですか?」
「ケルベロスに追い詰められ『もうダメかもしれない……』と思ったとき流れこんできたんだ。このタンポポみたいな髪の色そのままの……」

 大きな手に頭を撫でられる。

「お日様の色だ。そのままの温かな光に絶望に染まりそうになっていた俺の冷たい心臓は包まれて『死ねない』と思ったんだ」
「……あなたが死ななくてよかった……」

 心からそう思う。

「ああ、もっと欲しいな。いいかな?」
「え? うんっ!」

 頬を包み込まれて、上をむかされて口づけられた。唇をすっぽり包まれて吸われて、舌がするりと入りこんでくる。無意識に応えるようにからめてしまったのは、無我夢中だったあのときを身体が覚えているからだろうと。

「ふぁ……はぁ……」

 銀の糸をひいて唇同士が離れて、ウォーダンが満腹の狼みたいな顔で、満足そうに目を細める。

「こうすると手で触れるより、さらにフェリを近くに感じる」
「もう……いきなり」
「では、これからキスしたいと断ればいいのかな?」
「それもなんか、恥ずかしいです」

 広い胸に真っ赤になった顔を埋めた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 マルディーヌと顔を合わせることは、それからしばらくなかった。お昼のカフェテリアの個室にも彼は姿を現すことなかったからだ。
 生徒会長であるプリンスの補佐として、プリンセスであるフェリックスも、仕事を覚える必要があるから、とりあえず書記見習いから……ということになった。
 しかし、その生徒会室でも顔を合わせることなく……というより、すぐに中間試験の期間に入っていたために、生徒会の活動も停止となっていた。
 そして中間試験を終えて、成績発表の日。



「おい、嘘だろう?」
「信じられない……」
「落ちこぼれが一番なんて……」

 廊下にある成績発表の魔導モニターにみんな釘付けとなっていた。そこには試験の成績が得点順にならんでいて席次が一目でわかる。
 校則では王侯貴族も平民も立場は平等とうたっている学園だが、同時にその実力は目に見える形で評価される。そこらへんは厳しい。
 フェリックスもまた、モニターを見つめて大きく目を見張っていた。自分の名前が最初にある。つまりは中間試験でもっとも高い成績をおさめたということだ。
 たしかに問題はすらすら解けたけど、みんなだって同じようにわかっていると思っていた。科目はセンチネル学やガイディング基礎理論だけでなくて、史学に魔法理論、二大陸の地政学にまで及んでいたけど。

「紙の試験だけの点数がよくたって“実技”がダメじゃね」

 そういったのは黒猫のアニマルを、今日は肩ではなく、足下においているネラだ。彼のいつものとりまきの、同じく貴族やブルジョアのガイド達も「たしかに」「ガイディングはひどいもんだもんね」とうなずいている。
 そのネラだが、フェリックスの次の点数をあげていた。フェリックスがいなければ、彼が試験の成績も、またガイドとしての実績も兼ね備えた、新入生のガイドの首席となっていただろう。

「だいたい“たまたまの偶然”でプリンセスになった奴だ。講師達が“手心”をくわえたっておかしくないだろう?」

 そんなことをいいだしたのはスコルだ。彼の試験の順位はなんとネラの次の三位だった。意外と頭のほうもよかったんだな……とフェリックスは多少失礼なことを思った。




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