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【15】白か黒か その2

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 苛立った表情のままのスコルはフロアから数歩もいかないうちにまた下へと落ちた。「なにやってるの!」とネラが叫び、スコルは舌打ちしたが反論もせずに、無言で上のフロアに急いで戻ったのは、彼の背後にロンユンの背に立つウォーダンがせまってきたからだった。ラストフロアに二人同時にあがる。
 ウォーダンとスコルが並び、白黒の床へと歩み出す。ネラは「集中して! 今度こそ落ちたら承知しないから!」とスコルにとがった声をあげる。対してフェリックスは静かにモニターを見つめていた。つながった精神と魂で声にせずとも、ただ共にあるとウォーダンに伝え続け、心を安定させる波動を送り続ける。

 ロンユンの背からウォーダンは降りた。彼は一歩、黒の床へと踏みだし、その前の白の床の表面に足先を滑らせたが、そちらに踏み出すことはなかった。右の白い床をトンと足先で鳴らし、その反響する音を鋭敏な聴覚で確認し、そちらに一歩踏み出す。
 それと同時に彼の前にあった白の床は、消えて無くなる。落とし穴だったということだ。
 ウォーダンが徒歩となったのに、スコルは巨狼にまたがったまま。「お前の鼻が馬鹿だから、二度も落っこちたじゃねぇか!」と怒鳴りつけている。アニマルは自分の魂の半身だ。たしかに独立した意思を持っているけど、マスターの命令には逆らえない存在なのに。とくにセンチネルのアニマルは。

 巨浪はうなだれながらも、賢明に鼻をきかせて床を踏みしめていく。今度はスコルも慎重ではあったウォーダンと左右に離れて並んでフロアの半ばまで行く。
 しかし、スコルとネラの集中が続かない。二人のエンパス度がふっ……と下がったとモニターにも表示された瞬間にスコルが「なにやってるんだ!」とネラに毒づく。

「周りの床だけじゃなくて、他の床の情報まで流れてきて集中出来ねぇ! 遮断しろ!」
「そっちこそ、あちこち気を散らさないでよね! 制御しにくいったらありゃしない!」
「なんだと!」

 怒鳴り返したスコルは、少し離れた場所で自分より前に進もうとしているウォーダンの姿をにらみつけて「早くいけよ!」とまたがった自分の巨狼を急かす。
 巨浪がのろのろと一歩踏み出した瞬間。
 「わ!」とスコルが声をあげて、巨狼もろとも下へと落ちていた。

「やってられるか!」

 スコルが「この馬鹿狼!」とうなだれる自分の巨狼の頭をひっぱたく。、さらに「ネラ、どうなってるんだ!」と怒鳴る。

「こんなフロアの話は聞いてない! 俺は情報源からリークしてもらった、そのお前の指示通りに動いて、このザマだぞ!」
「僕だって知らないよ! まさか当日になって、ラストフロアの仕様がこんな訳のわからないものに変更になるなんて!」

 モニターでスコルの声がひびき、それにネラが怒鳴り返して、はっ! と目を見開く。
 モニターの中のウォーダンの姿に集中する、フェリックス以外の全員の視線が、彼につきささっていた。メディが真っ青となっているネラの前に立つ。

「あとでその“情報源”の話を詳しく聞かせてもらおうか?」
「僕は知らない! なにも知らない! 今のは間違いで!」
「それもあとで詳しく聞くといっているんだよ。ああ、君の“情報源”ももうわかっているんだよ。まさか学園の職員のみならず、講師まで抱き込んでいたとはね」

 「今頃、彼らの身柄は拘束されているはずだよ」とニッコリ微笑むメディの前で頭を抱えたネラの様子も知らず、スコルが「どうしたんだ! エンパスが切れたぞ! これじゃ進めねぇ!」とわめいている。
 そのあいだにもウォーダンは一歩一歩玉座に向かい歩んでいた。待機所という違う場所にいるけれど、フェリックスもまた彼と感覚を一緒にしていた。視覚の情報は頼れない。頼りになるのは足が床に触れる感触、靴先で叩いて反射する音。さらには匂い。そのすべてを総合してのこれは偽物か本物か? という一瞬のカン、五感から飛び出した第六感まで使っていた。

 そんな風に全感覚を鋭敏とすれば、センチネルには膨大な情報が入りこんできてしまう。目の前の床だけでなく、それこそフロアすべての床のことまで。
 それをシールドでもって遮断するのがフェリックスの務めだ。ウォーダンが目の前の白と黒の床。それが幻影か本物か。判断することだけに集中できるようにする。

【フェリありがとう、よく見える】
【どういたしまして、僕もウォーダンの見ているものがよく見える。あ、今は周り全部が落とし穴だ。すごい意地悪。どうしたら? 】
【大丈夫、待てばいい】
【そうか、数秒後に落とし穴は切り替わるから! 】




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