上 下
35 / 62

【10】憂鬱な試験のあとも憂鬱なパーティ その1

しおりを挟む



 中間試験のあとは三日ほど休みだ。
 その中日の夜に学園主催のパーティがある。専科や修士院の学生達は全員招かれる。それに講師達や教授達も。
 普段はカフェテリアで学生達のための栄養を考えた毎日食べても飽きない家庭料理をつくるシェフが、ここぞとばかり豪華なパーティ料理に腕を振るい、楽団が招かれてのダンスにおしゃべりと。苦しい勉強と胃の痛くなる試験のあとのみんなのお楽しみだ。
 生徒達と招待客が会場であるキングの塔の大広間に次々にはいってくる。それを大広間裏の控え室ののぞき窓から眺めて、フェリックスはため息を一つ。

「ずいぶんと気が重そうだね」
「パーティなんて初めてだから、正直前日からずっと憂鬱で」
「そうかい? 新入生は中間試験休みのパーティを楽しみにしているものだと思っていた」
「それは僕だって、ごちそうはすっごい楽しみだったけどね」

 プリンスとプリンセスとして賓客達と話さなきゃならないから、食事は無理だと前もっていわれてしまった。
 その代わり控えのサロンの低いテーブルには、銀のトレイにのせられた、サンドイッチやピンチョスなどの軽食が並んでいた。パーティの前に食事は軽く済ませておけという気遣いはうれしいけど。

「フェリは俺の隣で立って微笑んでいるだけでいいといったが、さすがに横でごちそうの皿をもりもり食べられるのはな」
「……わかってますって。おとなしくウォーダンの横にいます」

 銀のトレイからサンドイッチをひとつとって、かぶりつく。薔薇色のローストビーフがはみ出した、見た目からして美味しいものだ。
 貴族や金持ちのブルジョア相手なんて、なにを話したらいいのかわからないと、フェリックスが嘆いたら、ウォーダンは今のようにいってくれたのだ。フェリックスの紹介もウォーダンがしてくれるから、自分は「よろしくお見知りおきを」とにっこり微笑んでいればいいと。

「ごちそうに関しては、明日、シティに行かないか? フェリの好きな甘い物も食べよう」
「本当? うれしい!」

 ピンチョスを摘まむ、トマトに生ハムにチーズが美味しいと、もう一つ、こちらはエビと卵のあいだに薄くスライスして折りたたんだキューカンバが挟まって、ぱりぱりと楽しい食感だ。

「甘い物もいいけど、古書店も見たいな」
「それはいいな。私も久々に本屋巡りをしたい」
「ウォーダンでもシティに降りることがあるの?」

 学園の生徒はすべてシティのタウンハウスかアパルトマンか、下宿住まいだけど、ウォーダンはずっとプリンスの塔に暮らしているときいていた。
 タワーと呼ばれる学園からシティに行くことを降りるという。逆にシティからタワーに行くのは昇ると。

「俺だってたまに忍びでシティに降りることはある」
「それお忍びになるの?」

 校則で学生は基本シティを歩く時でも、制服と定められている。外出着なんてあるはずもないフェリックスには、どこにいくにも制服でいいというのは大変助かっているけど。
 ウォーダンの場合制服もそうだけど、この顔で歩いたら、誰なのかバレバレだろう。

「シティの者達は気付いていても、俺に声をかけることも特別扱いもしない。それがシティの者達の流儀だからな」

 たしかにシティの人々は生徒達を温かく見守っている。だからプリンスのお忍びもそっとしておいてくれるのだろう。

「じゃあ、シティでのスイーツと古書店めぐりを楽しみに、パーティをがんばります」

 フェリックスは銀の盆にのっていたプリンを食べながらこたえる。このプリンは自分の好物だと知って、シェフがつけてくれたに違いない。
 ひそかにがんばれといわれているようで、ウォーダンの横で笑顔を浮かべていればいいんだからと、フェリックスは憂鬱な気持ちを切り替えた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 すべての生徒達と講師や教授陣、それから招待客達がはいったあとに、プリンスとプリンセスであるウォーダンとフェリックスが控えの間の奥の扉から中へとはいる。
 とたん人々の視線が突き刺さるのは仕方ないと、フェリックスは思う。ウォーダンとしばらく一緒に行動して、注目を集めることはある意味慣れてしまった。
 パーティといっても、ここでもドレスコードは、学園の生徒は制服で……と定められている。正装なんて着せられたらどうしよう? なんてフェリックスは思っていたから、これも助かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

守護獣騎士団物語 犬と羽付き馬

葉薊【ハアザミ】
BL
一夜にして養父と仲間を喪い天涯孤独となったアブニールは、その後十年間たったひとり何でも屋として生き延びてきた。 そんなある日、依頼を断った相手から命を狙われ気絶したところを守護獣騎士団団長のフラムに助けられる。 フラム曰く、長年の戦闘によって体内に有害物質が蓄積しているというアブニールは長期間のケアのため騎士団の宿舎に留まることになる。 気障な騎士団長×天涯孤独の何でも屋のお話です。

【BL】【完結】神様が人生をやり直しさせてくれるというので妹を庇って火傷を負ったら、やり直し前は存在しなかったヤンデレな弟に幽閉された

まほりろ
BL
八歳のとき三つ下の妹が俺を庇って熱湯をかぶり全身に火傷を負った。その日から妹は包帯をぐるぐるに巻かれ車椅子生活、継母は俺を虐待、父は継母に暴力をふるい外に愛人を作り家に寄り付かなくなった。 神様が人生をやり直しさせてくれるというので過去に戻ったら、妹が俺を庇って火傷をする寸前で……やり直すってよりによってここから?! やり直し前はいなかったヤンデレな弟に溺愛され、幽閉されるお話です。 無理やりな描写があります。弟×兄の近親相姦です。美少年×美青年。 全七話、最終話まで予約投稿済みです。バッドエンド(メリバ?)です、ご注意ください。 ムーンライトノベルズとpixivにも投稿しております。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

もふもふ好きにはたまらない世界でオレだけのもふもふを見つけるよ。

サクラギ
BL
ユートは人族。来年成人を迎える17歳。獣人がいっぱいの世界で頑張ってるよ。成人を迎えたら大好きなもふもふ彼氏と一緒に暮らすのが夢なんだ。でも人族の男の子は嫌われてる。ほんとうに恋人なんてできるのかな? R18 ※ エッチなページに付けます。    他に暴力表現ありです。 可愛いお話にしようと思って書きました。途中で苦しめてますが、ハッピーエンドです。 よろしくお願いします。 全62話

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

英雄様の取説は御抱えモブが一番理解していない

薗 蜩
BL
テオドア・オールデンはA級センチネルとして日々怪獣体と戦っていた。 彼を癒せるのは唯一のバティであるA級ガイドの五十嵐勇太だけだった。 しかし五十嵐はテオドアが苦手。 黙って立っていれば滅茶苦茶イケメンなセンチネルのテオドアと黒目黒髪純日本人の五十嵐君の、のんびりセンチネルなバースのお話です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...