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【10】憂鬱な試験のあとも憂鬱なパーティ その1
しおりを挟む中間試験のあとは三日ほど休みだ。
その中日の夜に学園主催のパーティがある。専科や修士院の学生達は全員招かれる。それに講師達や教授達も。
普段はカフェテリアで学生達のための栄養を考えた毎日食べても飽きない家庭料理をつくるシェフが、ここぞとばかり豪華なパーティ料理に腕を振るい、楽団が招かれてのダンスにおしゃべりと。苦しい勉強と胃の痛くなる試験のあとのみんなのお楽しみだ。
生徒達と招待客が会場であるキングの塔の大広間に次々にはいってくる。それを大広間裏の控え室ののぞき窓から眺めて、フェリックスはため息を一つ。
「ずいぶんと気が重そうだね」
「パーティなんて初めてだから、正直前日からずっと憂鬱で」
「そうかい? 新入生は中間試験休みのパーティを楽しみにしているものだと思っていた」
「それは僕だって、ごちそうはすっごい楽しみだったけどね」
プリンスとプリンセスとして賓客達と話さなきゃならないから、食事は無理だと前もっていわれてしまった。
その代わり控えのサロンの低いテーブルには、銀のトレイにのせられた、サンドイッチやピンチョスなどの軽食が並んでいた。パーティの前に食事は軽く済ませておけという気遣いはうれしいけど。
「フェリは俺の隣で立って微笑んでいるだけでいいといったが、さすがに横でごちそうの皿をもりもり食べられるのはな」
「……わかってますって。おとなしくウォーダンの横にいます」
銀のトレイからサンドイッチをひとつとって、かぶりつく。薔薇色のローストビーフがはみ出した、見た目からして美味しいものだ。
貴族や金持ちのブルジョア相手なんて、なにを話したらいいのかわからないと、フェリックスが嘆いたら、ウォーダンは今のようにいってくれたのだ。フェリックスの紹介もウォーダンがしてくれるから、自分は「よろしくお見知りおきを」とにっこり微笑んでいればいいと。
「ごちそうに関しては、明日、シティに行かないか? フェリの好きな甘い物も食べよう」
「本当? うれしい!」
ピンチョスを摘まむ、トマトに生ハムにチーズが美味しいと、もう一つ、こちらはエビと卵のあいだに薄くスライスして折りたたんだキューカンバが挟まって、ぱりぱりと楽しい食感だ。
「甘い物もいいけど、古書店も見たいな」
「それはいいな。私も久々に本屋巡りをしたい」
「ウォーダンでもシティに降りることがあるの?」
学園の生徒はすべてシティのタウンハウスかアパルトマンか、下宿住まいだけど、ウォーダンはずっとプリンスの塔に暮らしているときいていた。
タワーと呼ばれる学園からシティに行くことを降りるという。逆にシティからタワーに行くのは昇ると。
「俺だってたまに忍びでシティに降りることはある」
「それお忍びになるの?」
校則で学生は基本シティを歩く時でも、制服と定められている。外出着なんてあるはずもないフェリックスには、どこにいくにも制服でいいというのは大変助かっているけど。
ウォーダンの場合制服もそうだけど、この顔で歩いたら、誰なのかバレバレだろう。
「シティの者達は気付いていても、俺に声をかけることも特別扱いもしない。それがシティの者達の流儀だからな」
たしかにシティの人々は生徒達を温かく見守っている。だからプリンスのお忍びもそっとしておいてくれるのだろう。
「じゃあ、シティでのスイーツと古書店めぐりを楽しみに、パーティをがんばります」
フェリックスは銀の盆にのっていたプリンを食べながらこたえる。このプリンは自分の好物だと知って、シェフがつけてくれたに違いない。
ひそかにがんばれといわれているようで、ウォーダンの横で笑顔を浮かべていればいいんだからと、フェリックスは憂鬱な気持ちを切り替えた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
すべての生徒達と講師や教授陣、それから招待客達がはいったあとに、プリンスとプリンセスであるウォーダンとフェリックスが控えの間の奥の扉から中へとはいる。
とたん人々の視線が突き刺さるのは仕方ないと、フェリックスは思う。ウォーダンとしばらく一緒に行動して、注目を集めることはある意味慣れてしまった。
パーティといっても、ここでもドレスコードは、学園の生徒は制服で……と定められている。正装なんて着せられたらどうしよう? なんてフェリックスは思っていたから、これも助かった。
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