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【8】まっすぐ顔をあげて その2

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「食事はカフェテリアの職員が持ってきてくれるものなんだけど、わざわざ自分で運んできたの? プリンスまで巻き込むなんて」

 トレイを持っている自分達を見たとたんに、マルディーヌが尖った声をあげた。

「えっと、僕は知らなくて……」
「プリンスが他の生徒と同じように、自分の食事を自分で給仕するなんて、よく考えなくたってしないことぐらい分からなかったの?
 これだから礼儀も知らない平民は……」
「マルディーヌ。学園の生徒は皆平等だと、校則に定められているはずだが? 身分や地位や出身において、これを差別、侮辱することは禁じると」
「ご、ごめんなさい。プリンス」

 ウォーダンの注意にかああっと頬を染めて、マルディーヌは素直にあやまった。しかし、キッとフェリックスをにらみつけて。

「でも、僕はお前をプリンセスなんて認められない! 僕はプリンスのガイドになるために、ずっと努力してきたのに!」

 「マルディーヌ!」とピエリックが声をあげる。それにマルディーヌは「二人だって本当はそう思ってるでしょう?」とその隣のロワイも見て。

「二人はずっとプリンスを支えてきたっていうのに、いきなりやってきた新入生にとられるなんて! あげくアニマルがみっともない灰色の雛のまんまのガイドがプリンセスなんて、僕は絶対認められないから!」

 いうだけいって、マルディーヌは部屋を飛び出していった。それにロワイが「すまない」と口を開く。

「マルディーヌをかばう訳ではないが、彼はずっとプリンスのガイドになるために努力していたんだ。先の大演習が初めてのウォーダンのガイドだった。
 予想外のことが起きて、あんな風に取り乱してしまったことも悩んでいたようだ」

 演習にSS級の魔獣が現れるなんて普通はあり得ないことだ。プリンスにずっと憬れていたなら、ウォーダンが死んでしまうと混乱した彼の気持ちも、フェリックスとしてもわからないでもない。
 たとえ、ガイドとして冷静でなければならないとしても。自分達は実戦の経験もまだまだの学生なのだから。
 フェリックスだって、あのときは必死だった。ウォーダンを助けたいと強く願ったから、つながることが出来た。

「事情があろうとマルディーヌの言動は見過ごすことは出来ない。フェリは俺のボンドだ。他者に認めないなどという権利はない」

 先ほどのスコルのようではないが、かすかなウォーダンの苛立ちを感じる。眉間にしわがよる彼の険しい表情に、ピエリックもロワイも軽く目を見開く。あとで聞いたけれど、それまでのウォーダンはこんな風に感情を表すことのほうが珍しかったそうだ。
 いつも王子様プリンス然として微笑を浮かべているのが、彼の“無表情”だったと。

「あらためてマルディーヌに謝らせる」
「必要ないよ」

 ウォーダンの言葉にフェリックスが首を振る。

「それは彼の謝罪を絶対に受け入れないということですか? たしかに彼の言動は非礼でしたが、それだけで許さないというのは余りにも……」

 ピエリックの言葉がそこで途切れたのは、ウォーダンが彼をじっと見たからだ。眉間のしわはそのままに、冷ややかなサファイアの瞳で。
 ウォーダンから伝わってくるのは、さきほどの教室より弱いけど、それでも自分を守りたいという強烈な感情だ。
 【愛おしい、かわいい、まもりたい】って……ホント情熱的過ぎるなあ……とフェリックスはまた熱を持ちそうな頬を、おさめるように深呼吸を一つして、彼の腕にさっきのように触れる。

「ウォーダン、僕はけして彼を許さないといってるわけではないよ」

 読心テレパスによって、怒りに荒れた心を、癒やしの波動でなだめるように、撫でながらフェリックスは話しかける。

「あなたがいえば彼は謝ると思うけど、それは“本当のごめんなさい”じゃないでしょう?」
「本当のごめんなさい?」




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