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【1】屋根裏の落ちこぼれ その2

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 センチネルの心の不安定は使役するアニマルにも影響するし、パートナーとなるガイドの障壁ともなる。
 フェリックが反論の口を開こうとしたら横から「ホント、信じられない」という声。
 二股に分かれた尾の黒猫を肩に乗せた艶やかな黒髪の少年が、赤みがかった黒目がちの瞳を冷ややかに細めてこちらを見ている。フェリックスと同じ赤のローブをまとったガイドのネラだ。

「センチネルが力を“暴走”させるならともかく、ガイドが暴走なんて前代未聞じゃないの?」

 ネラがくすりと笑えば彼の後ろにいるガイド達もくすくすと笑う。フェリックスは頬を染める。

「だいたい他のガイドのセンチネルにまで干渉するなんて完全にルール違反だ」

 そのことに関してフェリックスは反論できない。パートナーを組んだセンチネルとガイドに関しては、緊急事態や彼らからのヘルプの要請が無い限り、手を出してはならないのが基本も基本のルールだ。
 フェリックスはそれを破り、スコルのみならず彼の周囲にいたセンチネル全員を精神のシールドで囲み、ガイド達との繋がりを断ったのだから。

「……ごめんなさい」
「謝って済むことではないよ。おかげで本日の演習は中止。僕達は追試だ」

 フェリックスに演習に参加したセンチネル、ガイド達双方からの非難の視線が突き刺さる。「ほんといつも迷惑だよね」「まったくだ」の声にフェリックスはチィオを抱えたまま、いつものように唇を噛みしめてうつむく。そんなフェリックスの様子にネロが意地悪く赤い唇をゆがませる。

「フェリックス、君のアニマルだけどずいぶんと具合が悪そうだ。早く医務室に連れて行きなさい」

 そこに声をかけたのは本日の演習のガイド講師のメディだ。
 たしかに力を使いすぎたチィオは、腕の中でぐったりしていてすぐにでも医務室につれて行きたかった。その前にスコルに怒鳴られ、演習に参加した生徒に囲まれてしまったのだ。
 「はい」とフェリックスは返事をして助けてくれたメディに「ありがとうございます」と礼をいってから、囲みを抜け出してその場をあとにした。

「おい、待てよ!」

 それでも文句を言い足りないスコルが、フェリックスの足を止めようと、自分のアニマルのウモに目配せする。巨狼は走り去るぶかぶかの赤いローブの背に飛びかかろうとしたが、その前にすっと立ちふさがったのは白に黒のブチの犬。
 ダルメシアンのアニマルは、自分より大きな狼であるウモの牙をむいての威嚇にも、まったく動じない。

「スコル君」

 そこにそのダルメシアンの涼しげな態度にそっくりな男性がスコルの前に立つ。センチネルの講師であるハートリーだ。

「演習ではずいぶんと他のセンチネルとの“接触”が多かったようだが?」
「的を争っているのです。これが魔獣相手の“実戦”なら多少の怪我だって仕方ないでしょう?」
「“多少”ね。最後の的では、その狼のブレスを最大級で放とうとしているように見えましたが」

 「手足が吹っ飛ぶような怪我人を出したら、すぐにくっつけられるにしても始末書ものですね」とのハートリーの言葉に、他のセンチネルの生徒達がぎょっとする。

「スコルのやつ、確かに自分のアニマルが幻想生物の巨狼だって、いつも態度悪いし、たしかに乱暴だし」
「今日の的狙いだって、ルール違反すれすれもいいところだったしな」
「本気で俺達に怪我させるつもりだったんじゃ?」

 ぼそぼそと話し合う彼らをギロリとにらみつけて、スコルが大きく声を張り上げる。

「まさか他の生徒に怪我させようなんてつもりはありませんよ。ブレスだって十分に加減してました。それをいきなりフェリックスのやつがシールドで遮断したんです」
 
 「あいつのおかげでみんなの演習の得点がバァですよ」と大仰にスコルが肩をすくめる。
 「今日の演習どうなるの?」「俺だってスコルに及ばないけど二位だったのに」「私のガイドとしての実績が……」と他の生徒の達の感心が、再びフェリックスの本日の失態に移ったことに、スコルがニヤリと笑えば。

「確かに彼が“止めて”くれたおかげで、君は命拾いしたね」

 ハートリーは周囲に聞こえない声でスコルにささやく。スコルの顔色が変わるがハートリーがくるりと彼に背を向けて、ざわめく生徒達に向かいバンバンと手を叩く。

「本日の演習ですが、最後の的はなしとして、それまでのスコアをセンチネルの得点としてカウントします。もちろん、ガイドの実績もつきますよ」

 生徒達は「やったー」と喜ぶ。

「ハートリー先生」

 そこにスコルのあきらかに不機嫌な声がかかる。

「なんですか?」
「まさか、フェリックスの落ちこぼれの奴にも実績がつくんじゃないでしょうね? あいつは今日の演習を台無しにしかけたんですよ」




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