異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【26】広がる幻想とヘンテコ大名行列

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 王宮での宴の奇跡は、王都も賑わしていた。
 なにしろ砂漠に雪が降って、空にかかる虹は王都だけでなく、周辺のかなりの範囲のオアシスの村や町から見えたという。
 ダラハの街を救った話もあいまって、救世主がついに現る! の知らせと起こした奇跡は、またたくまに国中に広がった。

「奇跡の救世主様、輝くお方、雪虹姫だの、下界の空気はその身に毒と知りながら我らを助けにきた天司あまつかさ様」
「なにそれ?」

 花柄薔薇色タイルも美しいリョウの部屋。生真面目に文章を読み上げるノワルにリョウは呆れた声をあげた。すっかり気に入りとなった、吊りソファーにゆらゆらとその身を預けながら。

「そなたの讃える数々の尊称だ」

 シャルムダーンが答える。リョウの吊りソファーのそばに持って来させた、自分用の寝椅子にだらしなく腰掛けながらだ。そんな姿でも、精悍な虎や獅子などの百獣の王が、堂々とまどろんでいる姿に見えるから、ホント美形って(以下略)。
 まあ、初めはリョウの座る吊りソファーに一緒に腰掛けようとしたのだ。が、それにリョウがひと言。

『狭いからヤダよ。シャルムダーンって身体が大きいし』

 その言葉に腰を浮かせてすごすごと立ち去り、それから自分用の寝椅子を用意するようになった、シャルムダーンだ。

「なんだか、自分のことじゃないみたいだなあ」

 リョウは傍らの小卓に手を伸ばして、気に入りのピーカンナッツの飴がけを一つ囓る。それから小姓のハキムが煎れてくれたお茶をこくりと。今日もハキムのお茶はおいしい。

「砂漠の雪も夜の虹も、お前の起こした奇跡だというのに?」

 シャルムダーンも小卓に手を伸ばして、こちらは同じピーカンナッツであるが、塩と黒胡椒で風味をつけたものを囓る。ちょっとぴりりと辛口でお酒のつまみにいかにも合いそうなそれだが、まだ昼間なので、リョウと同じお茶をシャルムダーンも口にしている。

「はい、救世主様にして王の運命の后様を讃える声だけではありません!」

 報告書を読み上げたノワルが身を乗り出して口にする。が、リョウにギロリと横目で見られて、彼は直立不動となり。

「リョウ様を讃える声だけではありません」

 まったくいつになったらその長ったらしい呼び方をやめてくれるのかとリョウは思う。

「貴族や富豪、各地からも数々の進物が届いております」
「進物?」

 それって贈り物のことだよね? 自分に? とリョウが首を傾げる。

「ああ、そなたに見せるために、ここの中庭に運ばせようと思ったが、とても入りきらぬほどでなあ」
「そんなに?」

 リョウの部屋からは綺麗に手入れされた中庭がよく見える。大広間から回廊越しに見える大きな庭とは比べものにならないが、とはいえその庭はそれなりの広さはあった。
 そこに納めきれないぐらいの進物って? とリョウはなんだか、嫌な予感がした。

「それ、見られる?」
「そなたが望むならば」
「今すぐに見たいんだけど」
「ずいぶん急いでいるな。しかし、王宮の中とはいえ、外庭だ。人目があるぞ」

 シャルムダーンは進物云々より、それが気に入らないとばかり、顔をしかめる。

「ヴェールで隠せばいいでしょ?」

 リョウは軽く答えた。確かに、今言われたような幻想? の噂が広まってしまったなら、ますます自分の平凡な姿を見られるのは良くないだろう。

「いや、それだけでは不十分だ」
「え?」

 そして、シャルムダーンが用意させたのは。

「なにこれ?」

 砂岩で出来た白い回廊。その脇には水路が作られてさらさらと水が流れる音が心地よい。が、リョウの声はいささか不機嫌だ。

「お前の姿を見られないためだ」

 衝立越し、リョウの横を歩くシャルムダーンが言う。
 リョウは頭からヴェールを被り、歩いていた。その彼の左右には衝立の両端を持った二人の護衛兵。だけでなく、前後にも衝立をもった護衛兵だ。
 なにこの大仰な行列! とリョウは言葉に出さずにため息を一つ。これでないと部屋から出さないとシャルムダーンが言い張るのだから、仕方ない。

「そなたの姿を欠片でも他の者の目に触れさせないためだ」

 というが、姿は見られないが、逆にとっても目立っている。気のせいじゃないと思うのはすれ違う宮中の人達が目を見開いて、マジマジと見る視線、視線。
 あげく、後ろから少し離れて後ろをついてくる者達がどんどん増えていくし。
 なに、このヘンテコ大名行列? とリョウは思う。
 そんなわけで、宮殿の外庭に出る頃には、自分達についてくる、人の群はますます膨らんでいたが。
 その人の群よりも、さらにすごい“群”がリョウを待っていた。
 メェメェと鳴く庭を埋め尽くす羊の群。

「な、なにこれぇええ!!」

 リョウは思わず叫んでしまい、しまった! と思ったが、なんとその瞬間にあの白いカエルちゃんが現れて、すぽんとリョウの片手にはまった、ピンクのお口をぱくばくとさせて、その叫びを“変換”した。

「まあ、なんて可愛らしい羊さん達」

 それはそれは鈴を転がすような、女神の慈愛にあふれたおっとりと麗しい声。それに衝立を持って四方を囲んでいる護衛兵達は、思わずうっとりした顔となり。

『このシロちゃん、すごい変換能力!』

 リョウは自分の右手にはまる、とっさに名付けたカエル人形、もとい、シロちゃんを見つめた。





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