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【21】複雑怪奇な、宮廷事情。
しおりを挟む夕ご飯はシャルムダーンと二人きり、こぢんまりとした……それでもリョウの六畳の一間の部屋よりははるかに広いが、ともかく落ち着いた食事をとった。
食卓も西洋式?というべきか、テーブルに食事がおかれて、椅子に腰掛けてのものだった。大きな宴や茶会などでは、絨緞を敷き車座となって客をもてなすが、普段の食事はこのようだとシャルムダーンがいった。
食卓に並ぶのは、早くもリョウの好物となったピラフだ。今日は白身魚ではなく、牛肉をほろほろとなるまで煮たものを炊き込んだもの。それにタマネギのスープに、各種肉の串焼き。
牛や羊、鶏に、それから豚があるのに、リョウは目を見開いた。
「豚、食べるんですか?」
「うまいぞ。嫌いなのか?」
「いえ、好きです」
首を振る。そうだここは異世界だし、神様も違うから豚肉を食べちゃいけませんはないのか……と納得する。
豚肉がなけりゃ生きていけない……なんてことはないけど、とろとろに煮込んだ角煮は好きだ。そこにはいっている卵も。
この世界にもあるのかな?と思う。
香草の香りがする豚肉も、焼き加減が絶妙でおいしかったけれど。
それから、各種豆のサラダに、芽キャベツやズッキーニなどの野菜の酢漬けの付け合わもよかった。野菜もしっかり食べなければね。
そして、お茶が出されて、レモンのシルベット、つまりシャーベットだ。砂漠に氷菓って、さすが贅沢、王宮だと思いながら味わっていると。
「アイーシャは俺の従姉妹だ。今は亡き俺の母の妹の子にあたる」
「はあ、そうですか」
どうりでシャルムダーンを名前で呼べたはずだと思う。そこらへんの王宮の礼儀なんてさっぱしだけど。
「カルムジャーはアイーシャの父だ」
「この国の宰相で、あなたの母君の妹を妻にしたと?」
王族ではないけれど、シャルムダーンにとっては外戚の叔父に当たるわけだ。それも宰相。
「元からカルムジャーはこの国の有力貴族だ。地位だけでなく、代々奴隷商人として財を成した」
「……はあ、それだけであなたと宰相の関係がなんとなくわかります」
つまりは奴隷制度反対の貴族の急先鋒が、宰相であるカルムジャーなわけだ。財力があることを見せつけるようなあの姿からして、どう考えたって先祖代々の奴隷商を放棄するなんて考えていないだろう。
「そして、現在、俺のハレムの女主人はアイーシャだ」
女主人とはその名の通り、ハレムの頂点に立つ女性のことだという。普通ならば王の母后が取り仕切るそうだが。
「俺の母は俺を産んですぐに亡くなっている。父は母を失ってからは、身体に鞭打つように政務にいそしんでな。次の后も寵姫さえ作ることもなく亡くなった」
先代王の子はシャルムダーンただ一人であり、彼は18の若さで王位についたという。だから母后の叔父である大貴族のカルムジャーが後見として、宰相となったと。
「アイーシャがハレムに入ったのは三月前だ。月が朱く染まり、救世主がなかなか現れず貴族どもが騒がしくなって、仕方なく……な」
なるほど奴隷制度廃止反対の貴族達を押さえるために、その筆頭であるカルムジャーの娘を、シャルムダーンは迎えたと。
そこでリョウは気付いて、むうっとした顔になる。
「じゃあ、ハレムの女主人である彼女があなたの后ってことじゃないですか?」
高位貴族の娘でハレムの頂点に立っているなら、そういうことだろう。
『よくも奥さんがいながらプロポーズなんてしたわね!』
なんて陳腐な言葉を吐くつもりはないが。
だいたいリョウは男で、初めからシャルムダーンの求婚を断っているし。
だけど、愛してるなんて真剣な顔で告白しておいて、この男……と。
【チョット】は思ったって仕方ないじゃないか!
「いや、アイーシャは后ではない。妃、あくまで俺の寵姫としてハレムにはいったのだ」
いくら高位貴族の娘とて、王の子を産まねば后にはなれないという、慣習なのだという。
「后に妃って結局言葉遊びじゃないですか、彼女がハレムの女主人なのは変わらないし、それに」
リョウは目をますます据わらせた。
「王の子が産めなければ后でないというなら、男の僕なんて、ますます絶対、あなたのお后様になれないと思いますけど?」
「それはハレムの慣習だといっただろう。王が正后といえば正后だ。そのうえにそなたは救世主なのだから、阻むものなどいない」
「それこそ、屁理屈ですよ」
「そう屁理屈だ。それでアイーシャが正后になるのを阻み。あれを名前だけのハレムの女主人で満足させ、そなたに出会ったことを俺は幸運に思ってる。だいたい俺はアイーシャには指一本触れていないからな」
「え?」
リョウは首を傾げた。ちょうど焼き菓子を一つ、口に放り込んだばかりだったので、もぐもぐとかみ砕いて呑み込む。刻まれたオレンジピールが爽やかでよい……ではなくて!
「アイーシャさんはあなたの寵姫なんですよね?」
「“表向き”はそうなっているな。あれがハレムにはいって三ヶ月、俺はあれの閨房にしか通っていない」
閨房とは高貴な婦人の寝室兼化粧部屋であると、リョウの歴史小説好きの豆知識から紐解く。
「それで指一本触れてないと?」
「ああ、俺はあれの寝室の隣室に持ってこさせた寝椅子にて寝ている。あれは大変不満そうだがな。しかし、王が本当は寝台を共にしていないなど、寵姫にとっては恥もいいところだ。公にして騒ぐわけにもいくまい」
だから“表向き”王は、ただ一人の高貴な姫君の寝室のみに通っていることになっているという。
「そんなにアイーシャさんが嫌なんですか?」
大変気が強そうではあるが、リョウも認める美女ではあった。男ならばぐらつかないわけがないだろう……と。好みじゃなくたって一夜ぐらいなら?と誘惑にかられないわけではないだろう。
「嫌いというより、苦手なのだ」
心底不快で、そのことが困ったとばかりにシャルムダーンは男らしい眉を、ハの字に曲げた。
「昔は王宮にも遊びにきたし、幼い頃は会ったこともある。愛らしい娘であった。……が、ハレムに入る日に目にしたとき、あの黒真珠の瞳に見つめられてな。背に悪寒が走ったのだ」
「はあ、それは僕もです」
そう互いにヴェール越し視線を交わし合った、そのときにぞくりと背に走った震えを、たんに彼女の美貌ゆえの鋭さだと思ったが。
リョウは今さらになにか違うような気がすると、腕を組んでうーんと考えれば。
「なんというか、毒蛇に睨まれたような気がしてな」
「ああ、それ、それです!」
思わずうなずいてしまった。
綺麗な薔薇にはトゲがあるというけと。
綺麗過ぎる女性は毒蛇に見えるとは、ちょっと酷すぎるかもしれない。
「そなたもそう思ったのならば、なにかあるのかもしれないな」
シャルムダーンが顎に手をあててうーんと考えたが。
「僕の世界の昔話に美しいお坊さんに恋して、再会の約束を破られたと、追いかけるうちに大蛇に変化して、男をその炎で焼き殺してしまった娘の話がありますけどね」
「女の執念はまこと恐ろしいというが、それは異世界でも共通か」
「はあ、まあ、恋する女性は一途ってことですね」
そんな話で夕餉は終わった。
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