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【18】据え膳食わぬは王の意地!
しおりを挟む「甘い酒だといって、呑ませすぎたな」
「シャルムダーン、なんだかふわふわして気持ちいいよ」
姫抱きにしたキャラキャラ笑うリョウを抱えて、シャルムダーンは苦い顔だ。「悪酔いをさせた」と宴席の者達に断り、自らリョウを横抱きにして退出した。
「ホント気持ちいい。僕達、今、イスラフェルに乗って飛んでいるのかな?」
「イスラフェルの背と私の腕の中が同じとは光栄だな」
「うん、シャルダーンの抱っこ気持ちいい」
「う……」
ヴェール越しでニッコリ微笑んだリョウの顔が、シャルムダーンに見えなかったのは幸いだったかもしれない。
そして、ちょうど良く大きなベッドにたどりついたのも。
そこに前屈みになりながら、シャルムダーンはリョウを放り投げた。
「わあつ!」
ふわんとヴェールがなびいて、リョウの頭から滑り落ちる。ベッドはふんわりと、その身体を受けとめた。
「わぁ、シャルムダーン! 僕、ますます雲の上にいるよ!」
「そうか、そなたは酔っている。もう寝ろ」
「やだ! まだ眠くない!」
「駄々っ子か? そんな、そなたも可愛いが、では子守歌でも歌ってやるか?」
そう、シャルムダーンは、ベッドの脇に座り、リョウの黒髪を撫でる。
「子守歌なんて必要ないし、僕は子供じゃない!」
ぷくりとリョウがむくれるが、その顔をシャルムダーンは大きな片手で包みこみ。
「27だと言っていたが、本当か?」
「本当! 僕が童顔だからと、馬鹿にするな!」
「いや、馬鹿になど……うわっ!」
シャルダーンが体勢を崩したのは、以外に強い力で手を引かれたからだ。リョウの上に倒れ込むまいと、それでも両腕をその脇について覆い被さる形になったが。
「シャルムダーン……」
「リョウ?」
「よかった……」
酒精だけではないだろう。瞳を潤ませてリョウがシャルムダーンの首に手を回して抱きつく。そして、まるで愛撫するかのようにシャルムダーンの広い背を撫で上げる。
「リョウ、まさか誘ってはおるまいな?」
「本当によかった。背中の火傷綺麗に治ってる」
「…………」
ぐずぐずと泣き出したリョウの顔を見つめて、シャルムダーンはつぶやいた。
「神よ、許し給え」
「なんで、ここで神様?」
「お前の純心に私を労る言葉に、邪な感情を抱いたことだ」
「懺悔するなら僕にでしょ! 馬鹿ぁ、僕を庇ってあんな酷い怪我するなんてぇ!」
「いや、本当にすまん。すまなったな、リョウよ」
ぐすぐす泣くリョウの背中をシャルムダーンが大きな手で優しく撫でる。
「本当によかった……あなたが生きていて」
「…………」
背中に抱きついたまま、すやすやとリョウは寝てしまう。その27にしてはやはりあどけない? 顔をシャルムダーンはじっと見る。
そして。
「神よ……」
低くうめくように言い、低い声で唱えられた旋律は。
子守歌ならぬ、神への祈りの長い長い唱えであった。
朝、起きたら温かな腕の中にいた。
筋骨隆々だけど。
というか、目覚めて目の前に美形のどアップというのも、心臓に悪い。目を閉じていると、ますます、それが際だって見える。彫りの深い顔立ち、褐色の肌が朝の光に照らされて、その背になびく黄金の香味と同じくきらめいている。
リョウは息を呑み、そして、なんとか腕の中から逃れようとしたが、苦しくもないのに自分をがっちりと捕らえた、腕の檻はなかなかに解かれない。
ジタバタしていたら、シャルムダーンの目がぱっちりと開いた。金色の瞳と視線が間近で絡む。
「なにをしている?」
「起きようとしてるんです」
「まだ朝早くではないか、寝ろ。俺の起床時間はもっと遅い」
「王様の起床時間はそうでしょうけど、僕はとっくに出勤時間ですよ!」
いや、もう出勤する必要はないんだっけ? いきなり消えたというか、連れ去れたら自分の待遇って今どうなっているんだろう? 休職手当出るのかな? と思う。
それより目前の危機だと、自分を囲むシャルムダーンの腕をぺしりと軽く叩いた。
「痛いぞ」
男らしい太い眉を軽くあげる。ちっとも痛そうな顔ではない。
「とにかく、これ解いてください。苦しいです」
ぺしぺしと二回叩くと、しぶしぶ解いてくれた。
「で、どうして、僕とあなたが一緒のベッドで寝てるんですか?」
「酔っぱらったお前が泣き上戸で離してくれなかったからだ」
「…………」
リョウはこめかみを押さえた。幸い二日酔いはないが、しかし、記憶は飛んでいる。
どうにもお酒は好きになれなくて、いつも、付き合い程度に口をつけていたから、自分の酒量を分かってはいなかった。
そんな酒乱のクセがあったとは。
「……もう二度と、お酒は呑みません」
「それはいいな。俺以外の者の前で、お前は酔っぱらってはいかん」
「あなたの前ではとくに呑みません!」
リョウは即答した。
「それは酷いな。酔ったそなたは襲いたくなるほど、可愛かったのに」
「だからですよ!」
まったく、自分を公衆の面前で押し倒したいと言い出す男の、腕の中に一晩中いたなんて、貞操の危機もいいところだ。
そこでリョウはふと気付く。
「襲わなかったんですか?」
「それがご希望ならば今すぐにでも……」
「謹んでご辞退させていただきます!」
リョウは近づくシャルムダーンの顔をぐいと片手で突っぱねた。その片手を頬に貼り付けた歪んだ顔でも、やっぱりとびきりよい顔だとわかる王様は、のけぞった姿勢のまま。
「俺をこんなに粗略に扱って許されるのは、愛するそなただからこそだぞ」
「で、一晩中あなたはなにしていたんですか?」
それが問題だ。この男の腕の中にして自分は無事だったのか? 身体、とくに腰というか、言いたく無い部分に違和感はない……ないが。
「経文を唱えていた」
「はい? お経?」
「神への懺悔する祈りの文言だ。己の邪な心を断ち切り、精神統一する」
「はぁ……」
「そうして、そなたへ手を出したい己の欲望と戦っていたのだが……」
曰く経文を唱えているうちに、自分も寝たという。
「相手の了承も無しに手を出してはならないと言ったのは、お前ではないか」
まるで褒めろとばかりに胸を張るシャルムダーン。朝の光の中、浮き出る胸筋と腹筋がご立派ですね。
言いつけを守る良い子の? の王様であることは認めようと、リョウは思った。
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