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【16】お色直しは秘密めいて
しおりを挟むアズラエルは救世主で主と認めたリョウを助けにきた銀竜だと、シャルムダーンはオアシスの顔役ワディや商人達にそう言った。
そして、砂嵐の原因だった“魔獣”は自分達に討伐されて消滅したと。
彼の目がちらりとこちらを見たのに、リョウはうなずいた。
たしかにアズラエルがあの砂嵐を起こしたと正直に告げるのは悪手だ。今は救世主? である自分の力で、正気に戻っているといっても、一度は堕ちた竜だと疑いの目で見られるだろう。
なにより、銀竜の美しい姿に、人々はこれぞ救世主に神が遣わした竜だと、口々に褒め讃えているし。
『アタシは美しいもの。ま、人間どもが見とれて当然よね!』
オネェ言葉、ただし声はイケメンの低いボイスがリョウ以外に聞こえないのは幸いだった。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
そして、ひとまず王と救世主様は御休息を、感謝の宴も開きたいと、ダラハの町へと招かれた。
顔役であり豪商のワディの屋敷は王宮とはもちろんその大きさは比べものにならないが、白い砂岩の大きな屋敷だった。
招かれた広間には、シャルダーンが寝椅子に横柄に横たわっている。大きな衝立の内側、屋敷の小姓の少年に着替えを手伝われているリョウを眺めていた。
衝立の向こうにはノワルや屋敷の主人であるワディがいる。
リョウとしては、シャルムダーンも衝立の向こうに行って欲しいが、彼は「夫になにを恥ずかしがる?」と譲らない。
彼を夫だとは、というか、そもそも男の自分が男と結婚するなんて、偏見はないがそういう趣味はない! といまだ言いたい、リョウだけど。
では、さっき唇をくっつけあっていたのはなんだ? と言われると大変弱い。
唇どころか、シャツの中に手を入れられていたけど。いや、シャツの前が破けて、着替えるハメになったのは、そこの寝椅子に横たわる馬鹿王のせいなんだけど。
ち、乳首もなめられかけたんだっけ!?
それはともかく。
「胸が見える様な服はダメだ」
着替えを用意するとなって、開口一番シャルムダーンは言った。
「僕も露出が高いのはいやです」
シャルムダーンにしろノワルにしろ、他の兵士達もみんな、素肌にジレの姿だった。
彼らはいずれも筋骨隆々、割れた腹筋を誇っていたが、ぷよぷよでもないが割れてもいない。ごくごく普通の男子の身体? 露出狂でもないリョウだ。
あれをしろと言われたら、丁重にお断りするつもりだったから、シャルムダーンから言ってくれたのは助かった。
「当たり前だ。我が妻が夫以外の男に、その白い肌を晒すなど、考えただけで彼奴を切り捨てたくなる」
「いや、だから僕はあなたの妻じゃないし、男の僕の裸を見たところで、なんにも起きませんよ」
「起こる! 起こるぞ! 少なくとも、俺はお前のその白い肩を見ただけで、飛びつきたいぐらいだ!」
「止めてください!」
リョウは慌てて着かけていたチュニックの衿を引いて肩を隠した。世話係の小姓の少年が、腰に銀色の帯を巻き付けてくれ、左の脇のところでリボン結びにしてくれた。フリンジがキラキラとゆれる。
「また僕に砂漠の彼方に張り飛ばされたんですか?」
「…………」
ギロリとリョウがねめつければ、シャルムダーンがむつりと黙りこむ。
用意された着替えは膝丈までのチュニックにゆったりとしたパンツ。革靴にも砂漠の砂がたっぷり入っていたから、足も洗ってもらって革のサンダルに履き替えてすっきりとした。
それから頭からすっぽりと被る薄衣。内側から見るリョウの視界は遮らないが、姿見を確認すれば、顔は見えない優れ物? だ。
「神の遣いたる聖人は、人々に顔をさらすのはよくないこととされている」
シャルムダーンはさらりと最もらしく口にした。
絶対、嘘だとリョウは思う。
おそらく、その理由は自称“夫”たる自分以外に勝手に“妻”と決めたリョウの姿を見せたくないと、そんな理由だろう。
が、まあ、いいだろうと、リョウはそれを受け入れた。
姿を隠すということは、聖人の仕事“のみ”に専念できるということだ。シャルムダーンやノワル達はともかく、貴族とか大臣とか、大物の商人とかたぶんずらずらいるのだろう、面倒くさいお偉いさん達を相手に“社交”する必要はないということ。
リョウはとりあえずの方針として魔族との戦いに集中することにした。この異世界でシャルムダーンはリョウの強力な守護者だ。
勝手に嫁だとか妻だとか、不本意であるし、応じる気はないけれど、彼には生きていてもらわねば困る。
それに魔族との戦いが終われば、自分も元の世界に帰れるかもしれないし、その方法も見つけ出す暇も出来るだろう。
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