異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【6】過剰評価は困ります!

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「結局、話し合いをするしかないんですよ」
「だが、利害が対立する者同士、結論は出ないと言ったのはお前だぞ」
「落とし所を探るのが、奴隷解放をしたい王様のお仕事ですよ。何十年もかかるかも知れませんけどね」
「何十年! それでは一生の仕事ではないか!」
「行政なんてそんなもんですよ? 迅速になんて出来ないし、カメの歩みだし、遅いといつも文句を言われる」
「時間はかかるわ、非難はされどうしだわ、良いところがないではないか」
「じゃあ、面倒くさい奴隷解放は諦めますか?」
「それは否だ! 余の持っている蔵書に諦めるという言葉はない!」

 どっかの皇帝みたいなことをこの王様はいう。しかし、ムキになってちょっとセクシーな唇を尖らせている姿はかわいい……いや、なんでこんな大男を可愛いなんて思うんだ! 
 ない! ない! ない! とリョウは心の内であわあわと顔の前で両手を振りながら、しかし、表情はあくまでしらりと腕を組んで。

「じゃあ、やるしかありませんね。そんなあなたに、ネタばらしをしましょう」
「ネタばらし?」
「カメの歩み云々は、僕の言葉じゃありません。とある賢者からのお言葉です」

 大学の地方自治に関する卒論で一学生である自分に時間をもうけて取材に応じてくれた、元市長。少しも偉そうなところがなくて、上品な町のお爺ちゃんのようだった。
 賢者といったのは彼は財政破綻して国からも見放されたような市を、それこそ生涯をかけて建て直したからだ。

「それでもいつのまにか少しは人々の暮らしはマシなっていて、それが積み重なって当たり前に良くなっている。それなりに良い暮らしになってみんな笑顔を浮かべている。『それでいいんだよ』って、その方はおっしゃっていました」

 リョウがにっこりと微笑めば、ぽかーんとした顔でシャルムダーンが、その顔を見つめる。赤くなる赤銅色の頬の見慣れた色に、これは『来るな! 』と思った。

「我が后よ!」

 両腕を開き再び締め上げ……もとい抱きしめて来ようとしたシャルムダーンの魔の手? から、リョウは飛び退いた。

「我が愛の抱擁をなぜ避ける!」
「身の危険を感じたからですよ!」
「抱きしめるだけだ! 家臣たちの目の前で、その衣をすぐさまはぎ取って、押し倒したいなどとは……思っている」
「思っているんですか!」
「出会った瞬間から、常にだ!」
「ヘンタイじゃないですか!」

 リョウはますますシャルムダーンから距離をとった。

「救世主様のご見識、このイムホテプ、まこと感心いたしました」
「はあ、どうも」

 そこにコツンコツンと杖をついてリョウに歩み寄ったのは、さっきからニコニコと自分達のやりとりを見ていた白いお髭の神官長様とやら。

「黒風将軍と言われるノワルに勝ったその腕前だけではありません。なによりも若き王のはやる心を諫め、諭す、その深慮がなによりもたしかに正妃に相応しいお方とお見受けしました」
「え? はい? あ、あの神官長様、俺、男ですよ!?」
「いやはや、若いながら知恵深き方に様付けで呼ばれるなどお恥ずかしい。この爺のことはイムホテプと呼び捨てにしてくだされ」

 からからと笑った老人は、白い髭をしごきながらシャルムダーンを見る。

「王はまこと得がたき宝をお連れになられましたな」
「お前も祝ってくれるか? イムホテプよ。たしかにリョウは強いし知恵も素晴らしい、我が至宝だ!」

 いや、神官長の爺さんなに勝手に祝っているの!? だから僕はシャルムダーンのものになった覚えはないし! 
 それに至宝なんて大げさ、嘘、紛らわしい、過大評価! 
 リョウの心の叫びはカラカラ笑いあってる、神官長と王には当然届かなかった。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 テラスでの歓迎? が済んで、リョウは宮殿へと案内された。
 中はアラビアンナイトの世界だった。
 青に朱に緑、黄金の精緻なアラベスク模様の美しいタイルに埋め尽くされた壁に天井。砂漠の中にあってここがオアシスである豊かさを現すかのように、さらさらと回廊の脇を流れる白い大理石の水路。清らかな水の中、赤や青の長い尾鰭をなびかせて泳ぐ魚たち。
 案内されたのは、回廊越しに中庭が見える部屋だった。
 花や鳥の文様が織り込まれた大きな絨緞が敷かれており、一番奥の席をリョウは勧められた。絨緞に直接座る方式だが、花や鳥の模様の刺繍が施された、円筒型の長いクッションが背中を受けとめてくれて、座り心地はよい。
 隣に当然のようにどっかりとあぐらをかく、シャルムダーン。リョウはとっさに、積み重ねられていた、これも細密な刺繍がほどこされた大きな四角いクッションを一つ、押し込んだ。
 シャルムダーンは不満げな顔をしたが、リョウは無視した。今すぐ自分を裸にむいてしまいたいと、常に考えている! などと断言したヘンタイには、警戒心を持って当然だ。




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