異世界へはロイヤルカーペットにのって

志麻友紀

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【4】痛すぎる改革は御免被ります

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「私は負けた」

 ノワルは告げた。そして、手にしていた剣を床へとそっと置いた。王から賜った剣だ。乱暴に投げ捨てるなど出来ないのだろう。

「はい、あなたは負けました。僕の勝ちです」

 リョウもまたノワルに突きつけていた剣を納めた。いや納めるというより消した。金ぴかの聖剣? を。
 今度は、もうちょっと【らしい】剣を出したいな……と思いながら。

「お前は勝ち、負けた私はたった今から、お前の犬だ」
「それは僕の主義に反するのでご遠慮します」

 主義というほどでもない。しかし、人を犬にするヘンタイ趣味はリョウにはない。それだけだ。

「しかし、犬の誓いは絶対だ。私はお前の奴隷でお前は私の所有者だ!」
「では、たった今、僕はあなたの所有権を放棄し、あなたを奴隷の身分から解放します。あなたは自由です」

 面倒ごとはさっさと解決しようとリョウは言い放った。

「なぜだ!? 財たる奴隷をなんの対価もなく解放するというのか!?」
「こちらの世界では奴隷制度が残っているようですけどね。僕の世界では違うんですよ。少なくとも僕の住んでいた国では表向き・・・職業選択の自由がありました」

 だから全てが平等なんて理想主義では、リョウはない。生まれた環境に、親の財力、本人の才能と格差は確実にある。
 あと、顔が良いとか、顔が良いとか、顔が良ければ許されるとか。

「あ、僕、あなたを犬で奴隷にはしませんけど、平凡ヒラメ顔って言われたのは腹立ってるんで、謝ってください」
「それは真実だ。撤回は出来ない」
「……このまま犬奴隷でいいかもしれない」
「私を奴隷にするのか!?」
「なんでそんなに期待に満ちた目をするんですか! しませんよ! あなたみたいな面倒くさそうな奴隷!」
「こ、この私が面倒くさい……」

 ノワルは呆然と衝撃を受けている。シャルダーンがわははと笑い「たしかにノワルは面倒くさいところがあるな」なんて言っている。まったく、この決闘の原因? のクセに、人ごとだな。お気楽王よ。

「一方的に搾取、ただ働きの奴隷なんて僕は反対です。人はその能力と働きに適した給金をもらうべきです」

 ああ、これはしがない労働者の心のさけびだ。
 オチンギンもうチョットあげてください! 
 あと、もうチョット休暇ください! 
 【チョット】でいいのが、我ながら小市民だなあ~と思う。

「いきなり屈辱たる犬の決闘を申し込んだ、この私に慈悲を与えるというのか?」

 面倒くさいと言われた時のまま、ノワルは引き続き呆然とし続け。
 そして。

「申し訳ありません!」
「はい?」

 足を投げ出し柱に寄りかかっていたノワルは、飛び上がるようにかしこまると、リョウの足元の床に頭を擦りつけた。
 所詮、THE・土下座という奴だ。

「この私は王の運命の花嫁にして救世主様を見誤っておりました! 王は奴隷だった私を解放し、共に学ぶ機会を与えてくださり、さらには竜騎兵団長にまで引き上げてくださった方!」
「ノワルは俺の子供の頃から仕えてくれた幼なじみのようなものだ。共に学び剣も交えたな」

 微笑むシャルムダーンに『へえ、良いところあるんだな』とリョウはこの強引に自分を拉致した王様を見直した。
 チョットだけどね。

「そして、奴隷解放を目指される、そのお心も同じ!」

 え? 奴隷解放なんて、僕はそんな大仰なこと言ってないけど!? とリョウはキラキラと輝く三白眼で土下座の姿勢のまま、自分を見上げるノワルに狼狽える。

「王よ! お許しよ! たしかにまこと、王の花嫁にして救世主様こそ、奴隷解放という王の大望。その苦難であろう道のりを共に手を携えて歩むのに相応しいお方!」

 今度はシャルムダーンに向き直って、土下座から片膝をつく体勢となって、声を張り上げるノワル。

「うむ、ようやく俺の運命の花嫁たるリョウを認めてくれたか、ノワルよ」

 シャルムダーンは重々しくうなずいているけど、リョウは「運命の花嫁は御免被りたいです」と小さくつぶやく。
 が、それは後ろの兵士達の「救世主様があらわれた!」「あの見事なお力を見たか!」「しかも王の運命の花嫁だ!」という歓声にかき消された。

「ここにいる皆がリョウを我が運命の花嫁と認めたのだ。たった今、ハレムを解散……」
「それ、今すぐやるのは僕は反対です」

 勢いこんで宣言したシャルムダーンに、リョウは片手を真っ直ぐあげて告げた。

「なぜだ! そなただけだと愛を誓った。この俺の想いを愛しいそなたが否定するのか! リョウよ!」

 愛しいお前って陳腐なセリフも、こんな美形が口にするとすごいパワーワードだな~と頬を赤らめつつ、リョウは口を開く。

「ハレムにいる方々は、あなたのお手付きなんでしょう?」
「幾人かはそうだ。大半は乙女であるが」
「処女であるかどうかは関係ありません。ハレムにいるってだけで全ての女性はあなたのお手付きだと思われてるってことです」

 言いながら、なんか胸のあたりがムカムカしてきた。いまさら竜酔いか? ほんと今さらだけど。

「馬鹿な! 後宮にいる百人あまりは小間使いの子供から掃除係の老婆までいるのだぞ! その全てが俺のお手付きなどと、そんなに俺を破廉恥な男だと思っているのか!」
「百人も!?」

 江戸城大奥はあまた美女が二千だっけ、三千だっけ? それより規模は小さいけど。

「だから俺は百人も相手にするような種馬ではない!」
「そういう意味で言っているんじゃありません。今すぐハレムを解散したら、その子供も老婆も職を失って路頭に迷ってことじゃないですか?」
「それはしばらく暮らせる手当を……だな」

 シャルムダーンの目が泳ぐ。こいつ王様のクセになにも考えてなかったな。手当と言い出すだけマシだけど。

「しばらく? 何ヶ月ですか? 少なくとも三ヶ月は暮らせる保証は出すべきです」
「三ヶ月とは……ずいぶんと手厚いな」

 百人もとなるとそれなりの額にはたしかになるだろう。
 とはいえ雇用主の都合で一方的に解雇というなら保証するのは王宮側である。

「これでも最低保証ですよ」

 リョウが言ったのは失業手当の一番短い期間だ。本当は十年、二十年以上務めた者には、さらに手厚い保証が必要だし、それに老婆というなら年金の支給だって考えないといけないが、それはともかく。

「それに次の職の斡旋だって、しなければなりません。しっかりと安定した就職先を」
「お前の言うことは最もだな。三ヶ月後にはまた女達は路頭に迷うところだった」
「そうです。一つの制度、一つの組織を無くすってのは大変なことなんですよ。あなたの気紛れひとつで、少女と老婆が餓死するところでした」

 リョウは大げさに言ってやった。シャルムダーンはその男らしい眉をひそめたけれど。
 まったく若さと権力がある男が、己が正義と突っ走ると色々と恐ろしい。
 その若さだけが売りの知事が残した財政改革とやらの負の遺産が、我らが町にも残っているのだ。
 凍った学校給食が。
 え? 給食がなんで凍ってるって? 
 そりゃ、市をまたいだ一番近くの給食センターが、うちの町の担当でもあるからですよ。
 ほどよい距離の学校なら冷たいけど凍ってない給食が届くけど。
 うちの町の学校にはカチコチのおかずが届くんです。
 子供達は唯一すぐに食べられるご飯に、家から持参したふりかけかけて食べてますがなにか? 
 無駄を無くす、無駄を無くすと呪文みたいに唱えていた数字ばかり見ていた知事のおかけで、一局集中のまずい給食センターが爆誕し、各学校にいたおいしい給食をつくるおばちゃん達は失業した。
 ちなみにリョウはおばちゃん達の笑顔と熱々のカレーが大好きだった。……のに翌年からカチコチのレトルトカレーを見ることになった悲劇の世代である。
 当然、次の知事選で知事は落選した。
 食い物のうらみは大きい。




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