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【13】継母?王子と小さな殿下 その1

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 三百年前もそうだったが、普段はともかく寝台の中ではリシェリードはヴォルドワンに勝った試しなどない。

 だいたい、寝っ転がってあえいでいるだけなのだ。そもそもが二人が結ばれた期間も短い。あれは暴君と魔女を打ち倒したあとの褒美になにがいいか?と聞いたのがきっかけだった。
 他の者達は爵位に領地を望んだのに、ヴォルドワンはなにもいらないと言ったのだ。

「なにも欲しくない訳がないだろう?お前の望みはなんだ?私の与えられるものならば、なんでも与えよう」
「そのようなことを軽々と口にされていいのか?俺がこの国をと望んだら?」
「お前がそんなものを欲しがらないことはわかっている」

 それぐらい信頼してるとリシェリードは微笑し「それともヴォルドワン国王陛下となるか?お前なら、私より玉座の飾りとして相応しい、威風堂々たる王となりそうだ」と冗談めかした。
 そんな寝椅子に足を投げ出し腰掛け、魔道書をめくる手を止めてこちらを見るリシェリードの前に、ヴォルドワンはひざまずいて、その手を伸ばして頬に触れる。

「ならば、あなたが欲しい、リシェリ」

 それはずっと呼ばれていない名だった。二人がまだ幼い子供だった頃に呼ばれた名。長く別れて再会したとき、リシェリードは既に反乱軍の旗印であり、ヴォルドワンは魔女の執着の果てに一族を惨殺されて生き延び復讐に燃える若者であった。

「それがお前の望みか?ヴォー。いいだろう?おいで……」

 二人ともが“切っ掛け”を欲しがっていたのだ。幼き日に無邪気に手を繋ぎ合い、抱き合って頬を触れあわせていた、あの日から。
 そして、魔女の暗雲が国に差して、二人を引き離した。しばしの別れと大人になってからの再会と戦乱で、その気持ちを確認する暇もなかった。
 そして、やっとおとずれた平安に結ばれたというのに、リシェリードはまた一年もしないで、彼の手を離した。

 なんというか、我ながら酷いのは認める。だから、今世のヴォルドワンがあんな風に危ない男になってしまったのは、仕方ないと……。



 それはそれ!これはこれでないだろう!



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「あなたに私の気持ちを疑われていたなど。私は本気であなたを皇妃と求婚したのに」
「お前の気持ちを疑って……なんて…っ!」

 夜会にて、あのバルコニーでのリシェリードの「私は愛人で構わないんだぞ」発言から、ヴォルドワンに無言で腰を抱かれて、寝台へと。そのまま放り込まれた。正装をはぎとられて生まれた姿。男の腕の中のけぞる。
 服をはぎとる手は乱暴だったくせに、そこから先の愛撫は昔の記憶のとおり丁寧だった。肌を滑る男の手と唇にあえいで、はじけるとなったときに根元が押さえられて、いじわるだとその手に爪を立てれば「子猫のようだ」なんて、それも三百年前にささやかれたか。

 最奥を舌で解されて、そんなところに口なんて信じられない……とすすり泣いたのも、記憶にある。昼間は生真面目で堅物と評判の大将軍が、こんなことをするのか?と。ああ、今は皇帝だ。
 「俺もいい大人だ。経験がないわけではない」と記憶の中の彼が苦笑した。そして現在は、閨に同じ女性は二回しか呼ばないという、ある意味最低な男だった。

「他の……彼女達にも、こんな風にしたの……か?」
 香油をまとった指がなかで動くのに、あえぎながら訊く。口にして、これでは過去のこれの女に嫉妬しているようじゃないか?と気付く。それに嬉しそうにヴォルドワンが微笑む。

「こんな風に“優しく”?あなたにだけだ。女達にはする必要を感じたことはないな」

 「口づけもあなただけだ」と唇を重ねられる。口内を柔らかくまさぐる舌。絡まり吸われ、その甘さに酔う。





「これ……っ!はず…せ……っ!」

 初めは舌、次は香油をまとった指で、散々にいじられほぐされ、やっぱり「よこせ」とねだらされ、ようやく与えられたと思ったら。
 ゆっくり入りこんできたヴォルドワン自身に、ずんと奥まで突かれて、のけぞり“はじける”と思ったら、出来なかった。

 後ろ向きに抱きかかえられた男の膝の上、愕然と下を見れば切なく立ち上がった自身の根元に、なにかが結びつけられていた。
 それが夜会の正装でクラバットを飾るブローチとともに結ばれていた飾りのリボンだった。リシェリードの瞳の色に合わせた青いリボンは、その蜜でぐっしょりと濡れて、濃紺の色となっていた。

 快感で震える指を伸ばしはずそうとすれば、その手を捕らえられる。「はずせ……!」ともう一度言えば。

「あなたが、俺の妃となることを承知してくださるならば」
「な、なに……馬鹿なことをこんな時に……っ!」

 耳元でささやくその声の響きは睦言のように甘いが、リシェリードはその蒼天の瞳を見開いて、後ろの男の顔を見ようとする。が、ぐいと突き上げられて喉から嬌声があがる。震える身体に、せき止められた熱が身体中で暴れまわる。
 「はずせ!」と言えば「あなたがひと言『はい』と言ってくれるなら」とそのささやきも言葉使いもあくまで優しい。優しいが、やっていることは甘い拷問も同然だ。

「こ、この卑怯も…の!」
「今度こそ、あなたの愛を繋ぎ止めておくためならば、手段は選ばないと決めた」

 劇場で美男子の役者が叫んだなら、さぞご婦人がたの胸を打つだろうセリフだ……なんて考える暇などなかった。この皇帝陛下に言われたい女達もさぞ多いだろう……とも。
 その過ぎた熱情を受けているのはリシェリードで、何度もゆさぶられて「返事は?」と訊かれるたびに首をふって拒絶した。たぶんその繰り返しのあいだに、解放せずともなかだけでガクガクと震えること二回。
 「っ……すごいな。なかがうねってる」なんて、後ろから自分を抱きしめる男もまた、解放もせずに延々こちらを責め立ててくれた。

 理性もなにもふっとんだ閨でのことだ。「はい」と答えてうなずいて、朝になれば「あんなもの無しだ」でいいことなのかもしれない。
 しかし、リシェリードとて男?の意地がある。なにがなんでも、答えるものか……と歯を食いしばっていたが、そこから先の記憶なんてない。

 朝の光の中、自分の髪を愛おしそうになでるヴォルドワンに「まったくあなたは昔から意地っ張りだった」なんて言われたから、結局はうなずいてはいないのだろう。
 昨夜の残滓でけだるい腕を叱咤して手近なクッションをつかんで、その顔にぶん投げてやったが。

 そのヴォルドワンは執務へと向かい。リシェリードは二度寝を決め込んで、ようよう、さきほど起きたところだ。
 朝食は飲み物だけでいいと世話係の若い侍女に断れば「お庭で軽いものをご用意いたしましょう」と言われてうなずいた。庭というのは、外の空気で食がすすめばという心遣いだろう。

 「少し肌寒いのでこれを」と肩にマントをかけられて、小さな薔薇の生け垣も美しい庭へと出る。
 朝食はそば粉を薄く焼いたものに、軽いクリームと、木イチゴの形が残るジャムが添えられていた。ジャムはそのまま舐めて、お茶を飲まれてもおいしいですよと、侍女に言われた。

 たしかにお茶によくあうし、そば粉の焼いたものも、あまり食べたくはないと思っていた食欲を刺激した。
 結局、完食してお茶を楽しんで庭を眺めていると、リシェリードはふと気付いて立ち上がる。風の精霊が知らせてくれたのだが。薔薇の低い生け垣に近寄り、その向こうをのぞく。

「これは、可愛らしいお客様ですね」

 その生け垣にうずくまるように、小さな男の子がいた。




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