【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀

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【8】どうしてこんな(ヤンデレ)になるまで放っておいたんだ! その2

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 「母親か!」と叫んだ唇を、がっぷりとふさがれて口中をなめ回された。やっぱり息が出来ないと、とんとんと男の厚い胸板を叩いたら、ようやくはなされて「ぷはっ!」と色気もへったくれもない声が出た。
 しかし、次の瞬間「あ……」と声が出たのは、リシェリードの細い首筋にヴォルドワンの端正な唇が吸い付いたからだ。肌にちくりちくりと甘い痛みが走り「あ、あ、あ」と声をあげる。

 胸にまできた男の髪に指をからめて「あかり……」と言えば「消さない」と低い声。かかる吐息に肌がぞくりとふるえて、その頭を思わずぎゅっと抱きしめた。
 瞬間、胸のとがりをじゅっと吸われて、あられもない声があがる。
 自分の口からそんな声があがるのが嫌で、前世ではいつも声を殺していた。両手で口を塞ぎ、唇を噛みしめて、枕に顔を押しつけて。
 「声を殺さなくていい」と男はいつも苦笑して、それでも、声をこらえるリシェリードを許してくれたのに。

「んっ!」

 口の中に二本の指が入れられた。「噛みしめるならば、あなたの可愛い唇でなくて、この指にするがいい」なんて酷いことを耳元でささやく。胸から脇腹、肉が落ちて尖った腰骨をなぞった、もう片方の大きな手が、口づけと胸への愛撫に緩く立ち上がった、リシェリードのそれを包みこむ。
 直接的な刺激に腰がはねる。声がもれて、思わず唇を噛みしめようとするが、男の指に歯が当たって傷つけることに躊躇する。それを狙ったように、さらに刺激が与えられて、くぐもった嬌声が己の口から漏れる。

 そして、明るい中で抱かれるのはこれが初めてだった。「美しいな、あなたは……」なんて、自分のほうが凄絶に艶っぽい男の笑みを見せて、己を見つめている。快楽と恥辱に潤む視界のなか、この男はこんな目でいつも自分を見ていたのか?と思う。
 完全に獲物を狙う猛禽の目だ。自分を欲しいとギラギラと求めている。そのことに怖いと思うのも裏腹、自分もまたそこに感じていることに愕然とする。

「っ……あ!」

 追い上げられて男の手の中で、自身が震える。が、果てようとした瞬間根元を押さえられて、口中の男の指に思わず歯を立ててしまった。

「馬鹿ぁ!」

 指が口から抜かれたのに、声をあげる。身体の中を荒れ狂う熱を解き放つように、首をパタパタと振る。

「すぐに果てるとあなたが辛いだろう?夜は長いというのに」

 そうだった。前世でも武人と魔道士という二人の体力の差は圧倒的で、何度も果てればくたくたになってしまううえに感じやすいリシェリードを、この男はいつも焦らして……。
 って、結構前世でもこいつ結構に意地悪だったんじゃないか?と、そんなこと考えていたら、目の前の指が自分の歯形の形に血がにじんでいるのが見えた。思わず舌を差し出して舐め取る。同時に治癒の魔法を発動させる。
 攻撃魔法は一切通用しないくせに、こうやって接触しての治癒は、この男の身体は受け付けるのだ。それもリシェリードのみだったのだが。

「相変わらず優しいな、あなたは」
「だったら、私にも優しくし…ろ!あ……!」

 尻の狭間をなぞられて、指がくるりと周りをなぞったあとにつぷりと入りこんできた。香油をまとった指の動きはなめらかだ。「痛みは?」と聞かれて首を振る。違和感がひどいが、苦痛はない。
 どころか、指を動かされる度にむずむずとした熱があがっていくようだった。それに疑問を覚える前に、唇を塞がれた。とろりと甘い蜜のような酒を一口流しこまれる。こくりと呑み込んでしまって「なに?」と訊ねる。

「軽い媚薬だ」

 「な……」と声をあげれば「身体に害はない」と言われる。いや、そういう問題ではないだろう。

「今世では初めてだろうあなたに、苦痛を与えたくないからな。それに……」

 ニヤリと企みの微笑みを浮かべた男に、リシェリードは少し警戒する。反射的に身を引こうとしたところで、男の腕に囲まれたこの状態では、逃げられもしないのだが。

「前世ではなにもかも初めてだったあなただが、今世では他人の肌を知っている可能性もある」

 それは手も握りもしなかった白豚王子時代の恋人だった、ダントラ男爵令嬢デジーのことか?この男、まだこだわっているのか?

「だから、そんなものより、ずっと私のほうが良いとこの身体に最初からしっかりと教えて差し上げないとな」

 この男、生まれ変わってやっぱりかなりヤバくなってないか?とリシェリードは青くなった。
 軽い媚薬だと言っていたが、本当にこれ軽いのか?なんて考えられたのは始めのうちだけだった。

 指で弱い場所をひっかかれれば、声など耐えきれるものではない。あげく、はじけそうになる前の根元はまた押さえられて、発散出来ない快楽に情けなくもすすり啼いた。
 今世の身体はなにも知らなくとも、前世ではこの身体の熱を散らしてくれる方法を知っている。増える指に知らず腰を振り「初めてだから、ゆっくりと」と意地悪に焦らす男に「早く……っ、お前を寄こせっ!」とねだった。

 指を抜き取られて、与えられたとたんに前ははじけた。だけど達してもおりてこられない熱い身体は「もっと……」ともはや理性など飛んで、うわごとのように口にする。

「もちろん、これで終わるわけがない」

 ゆるゆると突き上げられてまた啼いて「夜は長いのだから……」とそんな言葉を遠くに聞いた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 一度、二度と付き合わせれば、前世と同じく体力のない身体は、気絶するようにぐったりと寝台に突っ伏して目を閉じてしまった。

 無理をさせたとしっとりと汗に濡れた、蜜色の長い前髪をかきあげてやる。露わになった白い小さな顔を、ヴォルドワンがじっと見つめる。
 その白い顔を赤く上気した頬をそっと撫でる。寝台に投げ出された手を取り、その細い指先に口づける。

「今度こそは、もう二度とこの手を離しはしない……」







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