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魔王(オレ)を殺した勇者の息子に生まれ変わったんだが……ヤツが毎日靴下をはかせてくる
【12】 勇者と魔王の家族ごっこは、ひと夜明ければ……※ その1
しおりを挟む「帰らないよ。マオがここにいるなら、僕も一緒にいる」
「なにを言っている?」
予想外の返答にマオは顔をしかめて、ユウマを見る。
当然、彼は帰ると思っていた。
いつものようにマオの言葉に「そうだね」と笑って、それから「さようなら」とでも言うのだろうと。
「さらばだ」と別れの言葉ぐらい告げてやろうと思っていた。
かすかに胸の奥に感じる痛みを無視して。
「“魔王”が倒れ“恩恵”は受けたんだ。お前がここに残る必要がどこにある?」
「マオがここにいるから」
「俺とお前は本当の親子じゃない。さらにいうなら、お前は俺を殺した勇者だ」
そう勇者と魔王だ。元々相容れない。
「お前はお前の世界に帰れ。親子ごっこもおしまいだ。もう俺とお前にはなんの関係もない」
「じゃあ、親子じゃない関係をつくればいいんだね?」
「は?」
マオとしては最後通牒を突きつけたつもりだった。あたたかな家族などという幻想を壊し、思いっきり冷酷な笑顔を作ってやったつもりだった。
なのに会話が噛み合わない。いっそ生真面目な顔のユウマの目の色が怖いと、感じてマオは一歩後ずさった。この自分が誰かを怖いと思うだと!?
「恩恵を行使する」
ユウマの宣言にマオはホッと息をついた。やっぱり今の自分の言葉に、こいつは帰る決心をしたのかと。
だが。
「明日の朝まで君の自由を奪う。僕のすることには逆らえない」
「はあ!?」
マオは声をあげた。
神の与える恩恵はかなりのもので、そのひと言でマオの一生だって縛り付けられたはずだ。
それが明日の朝までなんて、もったいない使い方と考えている間にも、ユウマはマオをひょいと縦抱きにしてすたすたと歩き出す。
彼が入ったのは大通りでもひときわ目立つ、豪華な館だ。
いわゆる娼館。それも高級というやつだが、そんなものが目立つ大通りにあるという時点で、この街がどんな街かお察しというものだ。
みんな慌てて逃げ出した気配が濃厚に残る、あちこちで物がひっくり返ったり、誰かの落とし物だろう、やたらに派手でかかとの高い靴の片方が転がる一階を抜けて、二階への大階段をユウマは迷いなく進む。
「なにを考えている!? うわっ!」
マオの身体は天蓋付きの大きなベッドに転がされた。こんな風に乱暴にされたのは初めてだ。さすが高級娼館のベッド。ふわりと優しく受けとめてくれて、おそらくそれも計算にいれてのユウマの行動だとわかる。……のがなんとなくくやしい。
十八年、ただ一緒にいたわけではないのだ。
「よせっ!」
マントをはぎ取られて、着ていた簡素なチュニックの裾から入りこんでくる手に、ユウマがなにをしようとしているのか、マオはようやくわかって声をあげる。手で押しのけようとするが、自分にのしかかる厚い胸板はびくともしない。
それに。
「ダメだよ、マオ。僕のいうことを聞いて」
「っ……」
言われた途端、身体から力がぬける。チュニックが首から抜けれて、自分にのしかかる男もまた勢いよく服を脱いだ。
抱きしめられて裸の胸が重なる。
こんな接触はよくあることだった。なにしろ、ずっと一緒に風呂にはいって、同じベッドで寝て、靴下まではかせてもらっていたのだ。
それでも、それにマオがなんとなく抵抗感を覚えずここまで来てしまったのは、この男が一度たりともそんな雰囲気を出したことがなかったからだ。いつも穏やかな父親の顔でマオの世話が楽しいとばかり動いていた。
それがいま、蒼天の瞳にどう猛な獣のような色を宿して自分を見ている。
嫌悪すべきだろうか?
だけど高鳴る胸の鼓動は嫌悪でも恐怖でもなく、別のものだとマオ自身が一番よくわかっている。
「ドキドキしてるね」
「当たり前だ。初めて……」
「初めて?」
「っ!」
この身体ではたしかに初めてだ。その相手がこいつってどうなんだ!? と思う。
しかし、生来の負けん気の強さで、「この身体ではな」と不敵に口の片端をあげる。
「俺は魔王だぞ。望めば誰だって俺の前に身体を投げ出し……イテッ!」
声をあげたのは、首筋を噛まれたからだ。結構痛い。きっとあとが残る。
「噛むな馬鹿!」
「ベッドのなかでは他の者の名前は出さないって、教わらなかったかい?」
「知るか!知ってても俺は魔王……うんっ!」
「なにをしたっていいんだ」という言葉は、ユウマの口の中に吸い込まれた。いきなり絡まる舌に驚いて引こうとしたけれど、その前にキツく吸われてじん……と背筋にしびれが走る。脳髄が重くなる。
ぼんやりする頭でそう言えば……と思う。魔王のとき抱いたどの女とも、唇を重ねたことはなかったな……と。欲を解放するのにその必要などなかったからだ。
これが本当に初めての口付けだ。
ちなみに男とも初めてだ。マオにそのような嗜好はない。魔王であった昔も、そして今も。
なのにどうしてこいつの唇と舌はこんなに甘くて気持ち悪くないのだろう?重なる胸の鼓動がおさまらないのも。
「っ…あ!」
乳首を吸われてあがった声に唇をかみしめれば「ダメ、声を出して」と言われる。
今のマオはユウマに逆らえない。吸われて、甘く噛まれ、もう片方も指先で転がされるたびにあがる声が嫌だ。
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