上 下
10 / 25
魔王(オレ)を殺した勇者の息子に生まれ変わったんだが……ヤツが毎日靴下をはかせてくる

【7】片腕に魔王を抱いた、もうコイツ一人でいいんじゃないかな?の勇者様 その1

しおりを挟む
   



 シンシャールの森をぬけて、たどり着いたのは魔族の村だった。
 そこには人間もいて、ごくごく普通に露店を開いている魔族の村人と話している。

「ここが魔族の隠れ里か」
「知ってるのか?」

 マオがぼそりとつぶやけばユウマが訊く。「昔、許した」と短く言えばユウマが不可解といった顔をした。
 マオは続けて「奇妙だな」とつぶやく。それにユウマが「ああ」と頷く。同じ事を考えていたようだ。

「玉座の間であれだけ魔族に対して嫌悪を現したというのに、どうしてここでは人間と魔族が笑って話している?」

 人間が平気で出入りしているならば、もはやここは隠れ里でもなんでもない、真っ先に人間共に焼き払われていても当然だろうと、マオは顔をしかめるが。

「あの“約定”が守られているならば、いまもここが平和なのは理解できるけどね。だけど、たしかにここだけ人間と魔族が仲良く暮らしているように“装っている”のは不自然すぎる」

 そうたしかに魔族も人間達の笑顔もどこかわざとらしい。「約定?」とマオが訊ねたところで、「ユウマ様」と後ろから声がかかった。

 振り返れば身なりの良い魔族の女がいた。「お久しぶりですね」と彼女は声をかけ「立ち話もなんですから、私の家へ」とさりげなく招待する。ユウマも知り合いらしく「レイラ、久しぶりだね」と応え、マオをうながし彼女のあとをついていく。

 魔族の村人達と人間達は相変わらず笑顔で話していたが、二人が女の後を追い、背を向けたとたん突き刺さる幾つもの視線をマオは感じていた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



「今すぐにこの村から出て行ってください」

 レイラと名乗る女村長の家に案内されたとたん、彼女は言った。「どういうことだい?」とユウマが訊く。

「この村にもあなたがたの手配書が伝令晶で送られてきたのです」

 伝令晶とは魔族の使う遠く離れていても声や像を届けられる魔道具だ。魔王であるマオが倒されたあと、人間達もこれを使うようになったという。

 ただし、使えるのは王侯に各地の領主、町や村の長だけだと、あとでマオは知る。
 穢らわしい魔族と忌避しておいて、便利な道具だけを利用。さらにはそれを一般に流布することなく、特権階級のみが独占とは……と思ったが。

「今なら、伝令晶を私が見落としていたということにして、昔なじみのあなたは私と少し話をして、出て行ったということにできます」

 それにマオが「甘いな」と女村長の発言を断じる。レイラはユウマの隣に立つマオを怪訝に見る。

「人間達の魔族に対する侮蔑と偏見はすさまじい。それでどうしてこの村が無事なのか俺は不思議だが、貼り付けた笑顔の“平和ごっこ”も俺達を取り逃がしたお前の失態で、たやすく崩れるぞ。
 村を滅ぼす口実を人間どもに与えるつもりか?」

 「そんな……」とレイラはつぶやくが、彼女の青ざめ震える様は、それがあながち考えられないことではないと現していた。

「この隠れ里の魔族達は、魔王討伐の旅にも協力してくれた。だから勇者と復興した王国の王の名のもとに、この村は保護されているはずだ」

 そのユウマの言葉になるほど、それが“約定”かとマオは思うが「ハッ」と鼻で笑う。

「約定なんてものは破られる為にある。人界でも魔界でもどれほどの同盟や、けして違えない誓いなんてものが反故にされたと思うんだ?」

 「まして、百年も生きない人間共は十年ひと昔前のことなどとっくに忘れている。栄光の勇者と王との約束だって、効力などとっくに失っているだろうさ」とマオが言えば、レイラは「そのとおりです」と憂いの表情でうなずく。

「はじめは確かにジグムント王は、この隠れ里を保護する約束をしてくださいました。
 ですが、勇者ユウマがこの世界を去り、一年後に聖女マリア様がお腹の御子様共々、亡くなられてからは……」

 「ちょっと待て」とマオはレイラの話を止めた。

「聖女とその子供は死んだということになっているのか?」
「ええ、王が王妃様と結婚なされて一年もたたずに。もうすぐ御子が産まれるというときの不幸に、国中が悲しみに包まれましたわ」
「…………」

 なるほどジグムント王が玉座で「自分を殺せ」と叫んだはずだと納得する。
 聖女に“逃げられた”醜聞を隠すために、彼女もお腹の子も亡くなったということにしたのだ。そこで魔族の紅い瞳を持つ我が子の存在など、ただちに抹殺せねばと思って当然だろう。

 少し気になってレイラにさらに聞けば、ジグムントの浮気相手である領主の娘は、しっかり第二王妃の座に納まって、翌年生まれた子供が今の皇太子だという。
 その皇太子の出来があまりよくないと評判だと、レイラはちらりと口にしたが、それはどうでもいいことだ。

 そして、聖女の“死後”から王国の“監視”が徐々に厳しくなった……とレイラは暗い顔で語る。

「出入りの人間の商人はすべて王国の息がかかった監視者です。たまに関係のない旅人が訪れますが、それも私達は王国の人間と魔族の融和の象徴として笑顔で歓待してきました。
 ですが、この村の外へ村人が出ることは許されてはいません」

 禁止されてはいないが“隠れ里の住人の安全のため”と近くにある王国の役場も兼ねた軍の駐屯地への届け出が必要なのだという。
 そして、いままで一度も許可など出たことはないと。
 「ひとつ聞きたいんだが」とユウマが訊ねた。

「再びの勇者召喚に心当たりはあるかい?」
「この隠れ里は外界との接触は制限されていますから。それでも星のささやきで噂程度は……」

 星のささやきとは魔族の能力だ。夜になると風にのって大地で繋がっている草花たちが、見聞きした世のことが流れてくる。
 魔族でもそれなりの力があるもののみが持つが、この隠れ里の村長ならば、ある程度の“読み解き”は出来るだろう。

「まったく不確かな話なのですが、ドラドラル鉱山の奥底から魔竜が現れたと」

 そこから採れる鉱石の供給が途切れて、この村の特産の魔道具の生産も止まっているのだという。通ってきている監視役の人間の商人の話でも、鉱山で事故が起こり一時的に供給が止まっているというから確かだろう。

 魔族しか作れない魔道具はこの村の特産だが、それも王国に定められた物品と交換なのだという。きっと外では高価な値段で取引されているのだろうが、生活に不足はない品はもらっていると、女村長はどこか諦めたようなため息を一つついた。

「ドラドラルの山は魔界にあったはずだが」
「今は人界の領地だよ。王国を再建して、ジグムントが一番に着手したのは、あの鉱山を魔族から“奪還”することだった」

 魔王が死んだ混乱のただ中だ。まだこの世界にいたユウマも作戦に参加したが、あっさりと手にいれることが出来たらしい。

 ジグムント曰く、あの鉱山は元々王国のものだったが、魔族に奪われたと言われたそうだ。
 よくもまあしらじらと嘘をつくとマオは思う。あの鉱山が人間の手にあったことなど一度もない。

 鉱山はもともと人界と魔界を隔てる山地のただ中にある。魔石の鉱山だったが「そうか“野望”がかなって、国一つ滅ぼした鉱脈を手に入れたか」とマオはつぶやく。
 ユウマが聞きたそうな顔をしたが「その話は長くなるのであとでな」とマオは手をひらひらさせた。

「悠長に話している時間なんてないぞ。監視役の人間達に俺達の姿は見られた」

 ユウマが「ああ、そうだね」とうなずく。彼も村の中で自分達の背に突き刺さった視線に気づいていたようだ。
  そして、レイラを見た二人は同じことを口にした。

「俺(僕)たちを役人に引き渡せ」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

七彩 陽
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

処理中です...