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クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!
最終話 きっとなんでもないことが幸せ その2
しおりを挟むあれからお風呂でもう一度されて、くったりしたテティはグラムファフナーのなすがまま、寝台に運ばれた。
そのまま広い胸に身体を預けて、月色の髪を大きな手で撫でられて、すぐに寝てしまうテティだが「あのね……」とぽつりと声をだす。
「どうした?」
「あの人に捕まえられていたときね」
あの人とはシビルのことだ。
「心はほとんど真っ黒で魔力と永遠の命を求めていた。もっともっと……って、奪えば奪うほど飢えるのに」
「強欲が行きつく地獄だな」
短命な人間ほど、永遠の命というのものに憬れるらしいと、グラムファフナーも知っている。それを求めた愚かな権力者の末路も。
「ただね、そのなかで光輝いていた記憶があったんだよ。会ったことないけど、あれが勇者王アルハイトだったんだね」
そこには強い思慕の念があった。まだ若かった彼女が初めて勇者王に出会った喜び、魔法学園長となり、いよいよ栄光の円卓会議に参加出来る誇らしさ。
そして、最後の最後までその勇者王の仲間に選ばれることのなかった落胆。その仲間だったグラムファフナーとマクシに対する羨望からの怒り……。
「初めは純粋に勇者王に近づきたいという憧れだったんだと思う」
「その気持ちで魔法学園長までになったのは、シビルには本物の才があったのだろう。だが、そこから先、黒魔術に手を染めてなんの罪もない命をいくつも吸い取ったのは、己の我欲だ」
「罪は罪だ」というグラムファフナーにテティが「うん」とうなずく。
グラムファフナーもまた、テティを通じてシビルのアルハイトへの恋情を感じてはいた。
マクシとヘンリックの前で話さなかったのは、それは極めて個人的な感情だからだ。罪人だからといって暴いていいとは言えない。
だから、テティもグラムファフナーと二人きりの今、口にしたのだろう。
平和となった世に新たな仲間を増やす必要はない。
生前のアルハイトはグラムファフナーにそう話したことがある。私は玉座に縛り付けられ、もう冒険の旅に出ることはないのだから……と、争いのない王国を城のバルコニーから目を細めて眺めていた。
勇者王のその心をシビルは最後まで理解することはなかったのだろう。ただ自分は勇者の盟友となれなかった。そのことに固執した。
いやもっと以前からアルハイトが亡くなる十数年前より、すでに彼女は黒魔術に手を染めていたのだから、心はすでに狂っていたのかもしれない。
そして、アルハイトの死でそれは決定的になり暴走した。
その末路は骨の欠片一つも残さず灰となった。その魂も輪廻の輪からは外れて消え去った。
「好きって、ちょっと怖いね」
「怖いか?」
「僕もグラムに嫌われたと思ったら、胸が痛くて悲しくて……あのままだと」
「あのままだと?」
「もう一度、穴の中に落ちて閉じこもっちゃったかも」
「こら、また落ちるなんて許さないぞ。もっとも、世界の果てだろうが、天界だろうが追いかけていくがな」
「天界なの?」とテティが訊ねる。「元魔王の私は地獄の底にいくより、天界にいくほうが難しい」とグラムは返す。
「だいたい、そういう時は愛する私も殺して、一緒に穴に落っこちると言うんだ」
「そんな! グラムを傷つけられないよ! たとえ、どんなに酷いことされても! ……グラムがするわけないけど」
「だから、私はお前を手放せないんだ」
グラムファフナーは苦笑する。狂恋の末路を見たが、純愛のほうがよほどやっかいだ。
ただ相手のためを想い、そのためには自己さえ顧みない。
シビルの裏をかくためとはいえ、テティはあの枯れ木の元に残り、弱った娘の魂を差し出された私の気持ちがわかるか?と口にだしかけてグラムファフナーはやめた。
きっと何回説教したって、この最愛は同じ選択をするとわかっているからだ。
「そんなあり得ないことは考えなくていい。お前こそ、私から逃げようとしたら、本当に氷の城に閉じこめるぞ」
「……いつでも春のお庭を作ってくれるんでしょ?」
「お前のためなら、銀の森もあの家だって、北の城にそのまま移すさ」
「素敵」とテティはきゃらきゃら笑う。「でも……」と。
「僕がグラムを嫌いになることなんてないから、閉じこめる必要なんてないよ」
「そうだな」
「でも、いつか氷のお城にも連れて行ってね。そこにもグラムの家族がいるんでしょ?」
「ああ」
そして、元魔王と闇の竜から生まれた緑葉の少年は寄り添い合って寝た。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
翌朝、ちょっと朝寝坊してしまったテティは、そっと自分の部屋に戻ったが。
待ち構えていたイルゼに「お帰りなさいませ」とにっこり微笑まれ。
「もう悪いクマさんとはいいません。旦那様と仲良くされるのは当然のことです」
そう言われて、もこもこのお手々を熱くなったほっぺにあてて「きゃあ」と盛大にはずかしがった。
END
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