54 / 65
クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!
第6話 大げさな恋人達とかわいい間男 その2
しおりを挟む「宰相!」
ヘンリックが向かったのはグラムファフナーの執務室。バン! と扉をあけて泣くテティのもこもこお手々をひっぱってきたヘンリックが、机の向こうに座るグラムファフナーを挑むようににらみつけて口を開いた。
「テティを泣かせるというなら、僕がテティをもらうからね!」
「僕なら絶対テティをいじめたりしない!」と言うヘンリックに慌てたのはテティだ。
「ヘンリック! グラムは悪くないの! 悪いのはテティなんだから!」
「違う! テティが悪いことなんてするはずない! ……ちょっとイタズラして女官長を毎日驚かせているけど……でも、本当に悪いことなんてしていない」
「ううん! 僕が本当に悪いことしたから、グラムが怒ってるんだよ!」
「テティは騙されているんだよ!」
「どこの旦那と間男の愁嘆場だよ」とちょうど執務室にいたマクシがぼそりという。「いや、これだと陛下が間男みたいじゃないか? とんだ不敬だ……」と続いた彼の声は誰も聞いていない。
「グラムはテティを騙していないよ。ヘンリックでもグラムにひどいこと言わないで」
「テティ……」
グラムファフナーを怒ったはずなのに、テティがまた緑葉の瞳からぽろぽろ涙を流して、もこもこのお手々で顔をおおうのに、ヘンリックが困惑に眉をへにょりとさせる。
「あ~あ~今度は暴力夫をかばう妻みたいな図になってやがる」とマクシがぼそぼそ言っているが、やはり誰も(以下略)。
「テティ」
グラムがそんなテティをふわりと抱きあげる。テティは泣き濡れた瞳を見開いて「グラム」とぎゅっとその首に抱きついた。たった二日触れあってなかったのに、それが百億年もの長い間に感じて。
「グラム、グラム、テティのこと嫌いにならないで」
「私がお前を嫌いになることなど、世界が終わろうともあり得ない。お前が私以外の誰かを選んだとしても、縛り付けて氷の城の塔のてっぺんに閉じこめてしまいたいほど、愛おしい」
「僕がグラム以外の人となんてあり得ないよ。閉じこめたいなら、閉じこめていいけど、時々お散歩させてね」
「そうなったらお前の為に、冬でも花が咲き乱れる花園を作ろう。二人で手を繋いで歩こうか?」
「すてき」
「なんで、この世の終わりみたいな話になっているんだよ! お前達の考え危ないからな!」
「そんな話してるのに、絵面は超絶美形エルフがクマのぬ……じゃねぇ、抱っこしてるんだぞ!」とマクシがツッコむがやはり誰も聞いてなかった。
「陛下」とグラムファフナーがいまだ自分をにらみつけているヘンリックを見て。
「テティとゆっくり話したいと思います。ここ二日ほど政務が忙しくて、誤解させてしまったようです」
これは事実だった。グラムファフナーはマクシとともに、二日前の騒動の後処理に追われていたのだ。
「二人で話したいので」とテティを抱いて執務室を出て行くグラムファフナーの背に、ヘンリックが「テティをこれ以上泣かせたらダメだからね!」と声をかける。グラムファフナーは振り返り「もちろん」とうなずき、扉が閉まった。
それを見送りヘンリックが「馬鹿みたいだ」とつぶやくと、後ろからマクシがぽんとその肩に両手を置く。
「陛下はよくやられました。たとえ報われない片恋の相手でも守ろうとされるそのお姿は、立派な騎士の鑑です」
「騎士団長、ちょっと身を屈めてくれる?」
「はい?」
マクシがその長身を折ってヘンリックの前に頭を差し出す形となる。ヘンリックは手を伸ばして、マクシの頭の上の狼の耳に触れて。
「うーん、テティより固いなあ。テティのはもっともこもこでもふもふしていて、障り心地がいいし」
「ひどいですな。王都の美女達に騒がれる、自慢の耳と尻尾だというのに」
「黒いもこもこのクマの毛皮も素敵だけどね。月色の髪はさらさらしてキラキラ輝いているんだ。踊るたびにふわりと揺れて、僕を見つめる緑葉の瞳もクマの姿のテティと同じ色なのは当然なんだけどさ、もっと宝石みたいに輝いて見える」
それはこのあいだの舞踏会でヘンリックとテティが踊ったときのことだ。
「あのときも陛下は、月色の姫を守る立派な役目を果たされました」
「また、月色の姫と踊れるかな?」
「それは陛下がダンスを申し込めば、いくら旦那だってゆずらねばならないでしょう?」
「あのときの宰相の微妙な顔といったら」とクククと笑うマクシに、ヘンリックもくすりと笑う。
「ですが、陛下だっていつかは王妃様の御手をとって最初のダンスをなさることでしょう」
「そんな人見つかるかなあ」とつぶやくヘンリックにマクシが「まあ中身は凶暴なクマでも、外見はあれですからね」とつぶやけば「違うよ」とヘンリックは首をふる。
「そりゃ最初は本当に天空の月が降りてきたみたいな姫君を好きになっちゃったけどさ。今はそれがテティだっていうのがわかって、もっと好きになっ
ちゃったんだよ。
だから僕の王妃となる人は、テティみたいに元気で明るくて優しくて、なんでもお話が出来る人がいいな……って」
「それもなかなか難しい注文ですね」
この小さな王様の結婚は前途多難だぞと、マクシが腕を組んでうなった。
53
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる