53 / 65
クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!
第6話 大げさな恋人達とかわいい間男 その1
しおりを挟む「テティ、どうしたの?」
「あ、うん。ヘンリック。なんでもない」
ヘンリックの私室にて、午後のお茶の時間。テティの前にはケーキもスコーンもあるのに、まったく手つかずだ。
「アイスクリームとけちゃうよ」と言われて、テティはあわてて目の前の銀の器から、ひとさじすくって口に含んだ。いつもならばとびきりおいしいアイスクリームなのに、半分ぐらいのおいしさしか感じないのはなぜだろう?
今日は朝食も大半残してしまって、世話係のメイドのイルゼに心配されてしまった。「朝から蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキを十枚もお食べになるテティ様が、一枚も食べきれないなんて」とこの世の終わりみたいな顔をされた。
「宰相も騎士団長もすごく忙しいみたいだ。このところの王都で若い女達が襲われる事件が続いていて、二日前にはその犯人を赤狼騎士団が見つけたみたいだけど、見失ったって」
「この国一番の騎士団から逃げるなんて、そうとうやっかいな相手なんだろうね」というヘンリックの言葉をテティはどこか上の空できく。
そして、二日前からグラムファフナーに会えていない。
花売り娘の姿のテティをグラムファフナーはものすごく不機嫌な顔で見ていた。用意された馬車に乗り込んで王宮に戻るその間も。
テティが見た魂狩りの犯人の話にも「そうか、調査する」のひと言だけだった。
それから「私は今夜戻らないから、風呂に入ってゆっくり温まって寝なさい」とだけ。
そして、その翌日もグラムファフナーは部屋に戻らなかった。
テティは広いベッドで一人夜明けまで眠れない夜をすごした。
────グラム怒っているのかな?
勝手に夜、外に出たことはテティだって悪いと思っている。それに、意識を取りもどした娘に姿を見られたことも。
それよりなにより、グラムファフナーが自分の姿を見たときの顔が忘れられない。いつもならテティの新しい服を見ると、その口許に微笑が浮かぶのに、すっごく不機嫌なのはわかった。
そして、テティの待つ部屋に戻ってこない。
────僕のこと嫌いになっちゃったのかな?
そう思うだけでテティの胸はズキリと痛んだ。グラムファフナーが自分の顔を見たくないほど、大嫌いになるなんて……。
そんな、そんな……。
「て、テティ!?」
緑葉の瞳から涙があふれて、ぽろぽろともこもこの頬にころころこぼれるのを見て、慌てたのはヘンリックだ。
「テティ、ど、どうしたの!? どこか痛いの!?」
「む、胸のところがズキズキして……」
「え? 心臓が!? 大変だ!? さ、宰相に!!」
「ダメ、グラムには言わないで、これ以上グラムに嫌われたくないよ……」
その言葉を聞いたヘンリックは猛然と椅子から立ち上がり、テティの手をつかんで「行こう!」と駆け出した。
ぐすぐす泣くテティは引っぱられるままについていく。
52
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる