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クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!

第4話 噂の影 その2

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 赤狼騎士団が夜警に加わっても、事件は起き続けた。
 貴族やブルジョアの女性達は夜の外出を控えるようになったが、そうは出来ない女達もいる。

 夜に働く女達だ。酒場の女給に歓楽街の花売り娘、流しの歌い手に、舞台あがりの帰宅途中の踊り子。そして、夜の薄暗い街路こそが商売の場所の街娼達。

「……今あげたのが、すべての被害者だ」

 宰相の執務室。マクシが娼婦イベルダと最後の名を読み上げて告げる。

「彼女は街の街路で冷たい骸になって横たわっているのが発見された」

 「最初の死亡者がとうとう出たか」とのグラムファフナーの言葉にマクシか「ああ」とさすがに深刻な顔でうなずく。
 他の被害者の女性達も眠ったまま目覚める気配もないという。

 「次の死人が出ないことを祈るばかりだ」というマクシの言葉にグラムファフナーはうなずく。
 しかし、楽観は出来ないことはわかっていた。今まで犯人は死人が出ないよう“手加減”していた。だが、一人殺してしまえば、あとは大差がないとばかり命を奪い続ける可能性がある。

 テティは今、この執務室にはいない。午後のこの時間はヘンリックの剣術の稽古の相手をしている。それをわかっていてマクシも報告に来たのだろう。

「死人が出たことで、街の噂が一気に広まった。酒場じゃ昼間っからこの話で持ちきりだそうだ」

 苦々しい顔でマクシが言う。

「それも月の魔女か?」
「ああ、その正体までまことしやかに語られているらしい」

 マクシにしては珍しく話をぼやかしたが、その中身など訊かなくても、グラムファフナーには察しがついた。
 月の魔女の正体は、宰相の婚約者である噂の月色の姫君だと。
 「噂の出所を探るか?」そう訊ねるマクシにグラムファフナーは静かに首を振った。

「風聞などとがめたところで抑えようもない。放置しておけば勝手に消える。
 酒場では王侯の面白おかしい醜聞のひとつやふたつや百は語られるものだ」

 「百は出過ぎだと思うがな」とマクシは苦笑するが「だがわかる」とうなずく。

「騎士団の屯所で若い者の部屋の前を通り過ぎて、自分の名前が聞こえても、聞こえないふりをするのが上官ってもんだろ」
「おや、赤狼騎士団の団員は一騎士まですべて、団長に心酔していると思っていたが」
「訓練がキツくて鬼だなんて聞いた日には、倍にしてやってるよ」

 「それは言われるはずだ」とグラムファフナーはマクシと顔を見合わせて笑いあう。

「しかし、今回の噂はただ消えるのを待つだけじゃすまされないだろう?」

 ひとしきり笑ったあと訊ねたマクシに、グラムファフナーはうなずく。たしかに今回の噂には明かなこちらへの悪意を感じると、先日言ったのはグラムファフナーだ。
 目的もはっきりしている。宰相であるグラムファフナーの評判を落とし、あわよくば失脚まで狙っているかわからないが。

 しかし。

「いまだ相手の姿がわからないのでは手のうちようもない」

 夜警の数を増やして、歓楽街を重点的に回っているというのに、相手の影も形も見えないのだ。
 魔女というのも噂に過ぎない。相手の性別さえわかっていない。

「だいたい、うち赤狼騎士団の団員の耳と鼻をもってしても気配さえ掴ませないってのがな」

 獣人達は当然耳も鼻もいい。そのうえに国一番の精鋭騎士団がいつも被害者が襲われたあとに駆けつけるというのは。

「魔道の匂いがするな」
「俺もそれは思った。俺も騎士団員も剣や腕っ節はともかく、そっちに関しては全くの門外漢だ」

 結界を張ってしまえば、獣人の鋭敏な耳や鼻をもってしてもそれを遮断出来る。

「それで考えていることがある」

 グラムファフナーは口を開いた。






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