50 / 65
クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!
第4話 噂の影 その2
しおりを挟む赤狼騎士団が夜警に加わっても、事件は起き続けた。
貴族やブルジョアの女性達は夜の外出を控えるようになったが、そうは出来ない女達もいる。
夜に働く女達だ。酒場の女給に歓楽街の花売り娘、流しの歌い手に、舞台あがりの帰宅途中の踊り子。そして、夜の薄暗い街路こそが商売の場所の街娼達。
「……今あげたのが、すべての被害者だ」
宰相の執務室。マクシが娼婦イベルダと最後の名を読み上げて告げる。
「彼女は街の街路で冷たい骸になって横たわっているのが発見された」
「最初の死亡者がとうとう出たか」とのグラムファフナーの言葉にマクシか「ああ」とさすがに深刻な顔でうなずく。
他の被害者の女性達も眠ったまま目覚める気配もないという。
「次の死人が出ないことを祈るばかりだ」というマクシの言葉にグラムファフナーはうなずく。
しかし、楽観は出来ないことはわかっていた。今まで犯人は死人が出ないよう“手加減”していた。だが、一人殺してしまえば、あとは大差がないとばかり命を奪い続ける可能性がある。
テティは今、この執務室にはいない。午後のこの時間はヘンリックの剣術の稽古の相手をしている。それをわかっていてマクシも報告に来たのだろう。
「死人が出たことで、街の噂が一気に広まった。酒場じゃ昼間っからこの話で持ちきりだそうだ」
苦々しい顔でマクシが言う。
「それも月の魔女か?」
「ああ、その正体までまことしやかに語られているらしい」
マクシにしては珍しく話をぼやかしたが、その中身など訊かなくても、グラムファフナーには察しがついた。
月の魔女の正体は、宰相の婚約者である噂の月色の姫君だと。
「噂の出所を探るか?」そう訊ねるマクシにグラムファフナーは静かに首を振った。
「風聞などとがめたところで抑えようもない。放置しておけば勝手に消える。
酒場では王侯の面白おかしい醜聞のひとつやふたつや百は語られるものだ」
「百は出過ぎだと思うがな」とマクシは苦笑するが「だがわかる」とうなずく。
「騎士団の屯所で若い者の部屋の前を通り過ぎて、自分の名前が聞こえても、聞こえないふりをするのが上官ってもんだろ」
「おや、赤狼騎士団の団員は一騎士まですべて、団長に心酔していると思っていたが」
「訓練がキツくて鬼だなんて聞いた日には、倍にしてやってるよ」
「それは言われるはずだ」とグラムファフナーはマクシと顔を見合わせて笑いあう。
「しかし、今回の噂はただ消えるのを待つだけじゃすまされないだろう?」
ひとしきり笑ったあと訊ねたマクシに、グラムファフナーはうなずく。たしかに今回の噂には明かなこちらへの悪意を感じると、先日言ったのはグラムファフナーだ。
目的もはっきりしている。宰相であるグラムファフナーの評判を落とし、あわよくば失脚まで狙っているかわからないが。
しかし。
「いまだ相手の姿がわからないのでは手のうちようもない」
夜警の数を増やして、歓楽街を重点的に回っているというのに、相手の影も形も見えないのだ。
魔女というのも噂に過ぎない。相手の性別さえわかっていない。
「だいたい、うちの団員の耳と鼻をもってしても気配さえ掴ませないってのがな」
獣人達は当然耳も鼻もいい。そのうえに国一番の精鋭騎士団がいつも被害者が襲われたあとに駆けつけるというのは。
「魔道の匂いがするな」
「俺もそれは思った。俺も騎士団員も剣や腕っ節はともかく、そっちに関しては全くの門外漢だ」
結界を張ってしまえば、獣人の鋭敏な耳や鼻をもってしてもそれを遮断出来る。
「それで考えていることがある」
グラムファフナーは口を開いた。
42
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
狼は腹のなか〜銀狼の獣人将軍は、囚われの辺境伯を溺愛する〜
花房いちご
BL
ルフランゼ王国の辺境伯ラズワートは冤罪によって失脚し、和平のための人質としてゴルハバル帝国に差し出された。彼の保護を名乗り出たのは、銀狼の獣人将軍ファルロだった。
かつて殺し合った二人だが、ファルロはラズワートに恋をしている。己の屋敷で丁重にあつかい、好意を隠さなかった。ラズワートは最初だけ当惑していたが、すぐに馴染んでいく。また、憎からず想っている様子だった。穏やかに語り合い、手合わせをし、美味い食事と酒を共にする日々。
二人の恋は育ってゆくが、やがて大きな時代のうねりに身を投じることになる。
ムーンライトノベルズに掲載した作品「狼は腹のなか」を改題し加筆修正しています。大筋は変わっていません。
帝国の獣人将軍(四十五歳。スパダリ風戦闘狂)×王国の辺境伯(二十八歳。くっ殺風戦闘狂)です。異種族間による両片想いからの両想い、イチャイチャエッチ、戦争、グルメ、ざまあ、陰謀などが詰まっています。エッチな回は*が付いてます。
初日は三回更新、以降は一日一回更新予定です。
【R-18】僕のえっちな狼さん
衣草 薫
BL
内気で太っちょの僕が転生したのは豚人だらけの世界。
こっちでは僕みたいなデブがモテて、すらりと背の高いイケメンのシャンはみんなから疎まれていた。
お互いを理想の美男子だと思った僕らは村はずれのシャンの小屋で一緒に暮らすことに。
優しくて純情な彼とのスローライフを満喫するのだが……豚人にしてはやけにハンサムなシャンには実は秘密があって、暗がりで満月を連想するものを見ると人がいや獣が変わったように乱暴になって僕を押し倒し……。
R-18には※をつけています。
おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される
月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる