【完結】クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
45 / 65
クロクマ少年2~恋と陰謀の物語~中身は魔女?でも男の子!

第2話 お屋敷の人々 その2

しおりを挟む
   



 グラムファフナーの屋敷は、王宮ほど大きくないが、立派なものだった。大きな門を通り過ぎると石畳の広場に正面に噴水がある大きな車寄せ。

 テティが噴水とその泉を見て「水浴びしたら気持ち良さそう」と思わす漏らしたら、グラムファフナーがお膝のクマちゃんを向かい合わせに抱き直して、その緑葉の瞳をじっと見つめて口を開く。

「さすがに屋敷の正面玄関の噴水で水浴びはしないように。お前の裸を屋敷の者に見せる趣味はないからな」
「うん」

 言い聞かせる様に言われて、たしかにグラムファフナー以外に、毛皮を脱いだ裸を見られるのはなんかヤダ……とテティは納得してこくりとうなずく。

 そのまま彼の片手に抱きあげられて、馬車を降りた。本日のテティはグラムファフナーの御屋敷を訪ねるということで、白いレースのケープをまとっていた。テティとしてはちょっとしたおめかしだ。

 屋敷に入ると、半円の大階段が左右に見える大きなホールに、ずらりと並んだ使用人達が「お帰りなさいませ、旦那様」と一斉に声をあげて礼をする。
 その彼らをテティはまじまじと見た。ちょっと見、人間に見えるけど、彼らはいずれも魔族だ。グラムファフナーが北の氷の領主で、元魔王なのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。

 白い髪に白い立派な髭のおじいさんを紹介された。彼のこの屋敷の執事バトラーだという。その名前もバトラーというから、わかりやすくていいと思った。
 一見人間に見えるおじいさんの頭には、普通の人には見えない角がテティの目にはしっかり見えていたけど。

 それから次に紹介されたのは、メイド服を着ていない、ドレス姿の外見はグラムファフナーと同じぐらいの年齢の美人だ。名はランダという。
 彼女もまた人間の女の人となんら変わりはないけれど、ひと目でテティにはわかった。

「魔女だ」
「さすが、大賢者ダンダルフのお弟子さんだけありますわね。一目でわたくしの正体を見抜くなんて」

 彼女は紫がかった赤い紅の唇をつり上げてクスリと笑った。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 場所は二階の居間に場所を移して、大きな暖炉の前には大きなソファに大きなテーブル。テティを抱いたままのグラムファフナーは、そのままいつものようにお膝に小さなクマをのせた。

「それで三日後の舞踏会までに、テティ様の仕度をしたいと」
「ああ、その世話をお前に頼みたい」
「はあ……」

 ランダはいぶかしげな顔だ。彼女も月色の君の噂は知っているし、今回の舞踏会に招かれたのが、その自分達でさえ知らない、主人の正体不明の“恋人”で目の前の小さなクマではないわけだから、戸惑って当然だ。

「テティ、見せてあげなさい」
「いいの?」
「ああ、この屋敷の者は私の信頼している者達ばかりだ。外に漏らすことはない」
「わかった」

 テティがグラムの膝からぴょんと飛び降りて、背中のチャックに手をかければ、たちまち滝のように流れる月色の髪に、若木のような白い身体……が見えたのは一瞬だった。
 すかさずグラムファフナーが脇においていた己の外出用の黒いマントで、テティの身体を包みこんだからだ。

「こういう訳だ」
「うん、よろしくね」

 月色の君の姿でテティがニコリと微笑めば、さすがの魔界の魔女も「はぁああ!」と声をあげた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 翌日、グラムファフナーは王宮へと執務に向かった。そう遅くならないように帰ってくると、テティに言い残して。

 テティはクロクマの姿ではなく、若草色のドレスを着ていた。テティの突貫の針仕事ではなくて、ランダが用意したものだ。
 月色の豊かな髪も、横の髪が編み込まれて後ろに深緑色の光沢あるリボンが揺れる。
 どこからどう見ても、清楚な貴族のお嬢様だ。

 舞踏会の日までは「ドレスを着て、人の姿で過ごしてもらいます」と彼女は言った。テティは「えーっ!」と声をあげてグラムファフナーを見た。

「毛皮を着ちゃダメなの?」
「少なくとも舞踏会が終わるまでは、ランダのいうことは聞きなさい。先生だと思って」
「はい、先生」

 と、テティは素直にうなずいた。



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 そして、舞踏会の日まではあまり日がない。まずはランダとどんなドレスにするのか相談した。

「赤いドレスはよくないの?」

 魔法鞄マギバッグからテティが取り出すと「とても素敵なドレスですわ。魔界が華やかなりし頃の社交界ならば、さぞ流行ったでしょうけど」とランダは断りを入れる。

「人間の貴族社会では受け入れられない色ですわね。このような派手な色は夜の女達が身につける色だとされています」
「夜の女? 夜に女の人が出歩いたら危ないよ?」

 ランダはコホンと「それはともかく」と咳払いして。

「未婚のお嬢様ならば淡い色がよろしいとされます。お歳をめされるほどに重厚な色がいいと」
「グラムは黒い服ばっかだけど」
「あの方はなにを着てもお似合いでしょうけど、黒以上にしっくりくるお色はございますか?」

 言われてテティはぶんぶんと首を振る。たしかにグラムには黒だと思う。黒が一番似合う。

「じゃあ、白はどうかな?」
「たしかに旦那様の黒に白は映えますわね。でも差し色がないと白一色では華やかさがないかもしれませんわね」
「白だけどいろんな色がある白もあるよ。この布とか」

 テティがマギバッグからドンと出した一巻きの布に、ランダが目をむいた。

「こ、これは伝説の月光虹の布ではないですか! こ、こんなものどこで?」
「ダンダルフに習って僕が織ったんだけど」
「材料の白雪天蚕の野生の繭を集めるだけでも大変なのに」
「銀の森にはたくさんいたし、テティが頼むとみんな繭玉を分けてくれたよ」
「……材料が揃ったとしても、月の光で十年に一度現れるか現れ無いかの虹の下、常に魔法で編まなければこの布は完成しないはず。それもいままで見たどんな月光虹の布よりも美しい……」
「ありがと、一晩で織ったよ」
「…………」

 「さっそくドレス作っちゃうおうか~今回は時間あるからお花も作ってレースもたくさん使おう~」ととんでもない高速で動き出した、テティの針仕事に、ランダはいまだ呆然とした顔で「一晩で月光虹の布……」とつぶやいたのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...