上 下
18 / 65
クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?

第9話 魔王のなりそこないの昔話 その2

しおりを挟む
   



 気がつけばグラムファフナー以外動く者はいなくなっていた。血と生き物の肉が焼かれる匂いと、呆然と立ち尽くす彼に「これぞ、我らが探し求めていた魔王様のお力」と声をかける者がいた。

「それが魔族の魔道士ゲバブだ。奴は俺こそが魔族が待ち望んでいた魔王だと言ったよ。
 地上にのさばる愚かな人間共を一掃し、魔界と地上のすべてに君臨すべき王だと。
 そのときの私は母と親しい者達を失った上に、怒りのままに人間達を皆殺しにした。茫然自失の状態だった。
 ただ奴の言うままに魔界に赴き、魔王として担ぎ上げられた」

 グラムファフナーは人間というものに見切りをつけていた。ただ魔族というだけで、ありもしない財宝に目がくらんで大切な者達を殺した。それを恨まずにいられようか。

 そして五年の月日が流れ、強欲な人間の王が亡くなり王位継承の争いで王不在の王国に、黒い鎧をまとい魔王となったグラムファフナーに率いられた魔物の軍が攻めこんだ。

「逃げ惑う人間達を放置しておけと、私は部下達に命じた。歯向かう者は殺せともな。ゲバブにはずいぶん甘いと散々言われたが」

 人間を心底軽蔑しきっていたグラムファフナーであったが、破壊を楽しむ趣味はなかった。
 魔界から人間の王国一つを魔王が侵略した。その王国こそが、現在の勇者王の王国であるグランドーラだ。

「現在の貴族達は魔族が占拠した王国から逃げ出した者の末裔だ。あとで勇者の仲間になったとはいえ、一度国を滅ぼした魔王の私に恨みを持っていて当たり前だ。それを宰相としていただくなどな……」

 苦笑するグラムファフナーの膝にぴょんとテティが飛び乗る。立ったままだと黒い瞳と緑葉の瞳がちょうどぴったり視線の高さがあう形だ。

「テティはグラムの味方だよ。ひどいことする奴は許さないんだから」
「これは心強い味方だな」

 グラムファフナーはテティをひょいと抱きあげて、自分の膝に後ろ向きに座らせて「さて、どこまで話したか」とつぶやく。

「勇者アルハイトの物語を語ると長くなる。地上に魔族の国を建てたあと、私は部下達の好きにさせていたからな。今、考えると統治者としてどうか? と思うが」

 魔王となったグラムファフナーの心は虚無だった。魔王となる子と予言されていたが、魔界には彼の他にも力ある者がいて、彼らと相争っているうちは余分なことは考えなかった。
 ただ力を欲し、征服し、部下を増やし、魔界を統一し魔王の称号を得て、そして母を殺した王の王国を蹂躙した。そこで彼は立ち止まってしまった。

「……とはいえ、ゲバブ以下の部下を野放しにして、地上の人々を苦しめたのは確かだ。魔王だった私にはたしかに責があるな。
 数々の冒険を経て、勇者達は銀の森にかつてあった魔王の城にたどり着いた。私の前にな」
「それでグラムは勇者達と戦ったの?」
「ああ、部下達を破って私の目前に来たのだ。挑戦を受けないはずもないだろう? 
 そして、私に完膚なきまでに打ちのめされた」

 「え?」と驚きの声をあげるテティにグラムファフナーはくすくすと笑った。

「私が負けると思ったか?」
「ううん、グラムは強いからそう思わないけど」

 まあ、たしかに普通のおとぎ話ならば、正義は勝つ。勇者が魔王を倒してめでたしというところだろう。

「単純に彼らには経験と実力が足りなかった。
 私はエルフと魔族の公爵家の血を受け継ぐもので、五年ものあいだ魔界にて、他の魔王を目指す強者達と戦ってきたのだ。
 いや、もう一つ要素があったな。私は魔王となることで闇のまゆを得ていた」

 「まゆ?」とテティが聞き返す、それにグラムファフナーはうなずく。

「魔王となった者はそれと繋がることが出来る、闇の根元ともいうべきか? 怒り憎しみ恨み、魔族のあらゆる負の感情を吸い込む深淵だ。
 魔王はそこから無尽蔵に力を得ることが出来る」

 「魔力が使い放題なんて、無敵じゃない。ずるい」とテティは唇をとがらせ、グラムファフナーはクスリと笑う。

 言葉は幼いが、テティは賢者ダンダルフの弟子で、同じく賢者と言うべき力の持ち主だ。魔法を自在に操るものの魔力が、無尽蔵であることの強大さを短い説明だけでわかったのだろう。
 実際、あらゆる攻撃を無効化する闇の衣をまとい、魔力など気にせず放たれる雷に嵐に炎、そしてエルフと魔族双方の膂力を生かした岩をも砕く長剣の物理攻撃に、勇者の仲間達は次々に倒れていった。

 最後に勇者アルハイトが床に膝をついた。それを見おろして魔王グラムファフナーは冷たく言い放った。

「私の部下を倒した程度でいい気になったか? 勇者よ」

 「待ちやがれ! アルハイトに手を出すな!」と大剣を杖にふらつく足取りで魔王と勇者の前に狼の獣人の剣士が立ちふさがる。当時のマクシだ。
 さらには神官が大魔法使いに肩を貸して、よろよろと彼らのそばに寄ろうとする。魔力も尽きて、まして戦士でもない彼らには立つ力もないだろうに。

「…………」

 勇者に突きつけていた長剣をグラムファフナーはおろし、背を向けた。「魔王様とどめを!」というゲバブの声を無視して。

 背後で「ええい、ならばこのゲバブめが魔王様に代わって、勇者達に引導を渡しますぞ!」とどこか忌々しげな声が聞こえたが、グラムにはもうどうでもいいことだった。

 だが、そこに「待て!」という、忘れもしない男の声に振り返った。そこに立つ、自分と似た容姿のエルフ。だが髪の色は神に祝福された白銀に蒼天の瞳の……その男にグラムファフナーは忌々しげに吐き捨てた。

「母を見捨てた男が、どの面をさげてやってきた!」

 それはグラムファフナーの父、シグルズだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】僕のえっちな狼さん

衣草 薫
BL
内気で太っちょの僕が転生したのは豚人だらけの世界。 こっちでは僕みたいなデブがモテて、すらりと背の高いイケメンのシャンはみんなから疎まれていた。 お互いを理想の美男子だと思った僕らは村はずれのシャンの小屋で一緒に暮らすことに。 優しくて純情な彼とのスローライフを満喫するのだが……豚人にしてはやけにハンサムなシャンには実は秘密があって、暗がりで満月を連想するものを見ると人がいや獣が変わったように乱暴になって僕を押し倒し……。 R-18には※をつけています。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

Wild Passion

一園木蓮
BL
ミッド・サマーナイト、運命の一目惚れ! その男は十年前に敵対していた番格だった。 財閥の御曹司に生まれ、悠々自適の人生を歩んできた雪吹冰は、或る日、相思相愛だったはずの恋人に信じ難いような突飛な言葉で別れ話を突きつけられた。 荒れる冰が偶然再会したのは、学生時代に番を張り合った隣校の男だった。 ※偶然の再会 / 御曹司 / バリタチ×タチ ※カップリング 氷川白夜×雪吹冰

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

処理中です...