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クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?
第8話 勇者の仲間とその子孫達 その1
しおりを挟む夜。
小さなノックの音にグラムファフナーは読んでいた本から顔をあげた。「どうぞ」と言えば、扉が薄く開いて、黒い小さなクマがその身を滑らせるように入ってきた。
正直グラムファフナーはもう来ないだろうと思っていた。
昼間、自分とあんなことになったテティは魔力を補給して、小さなクマの姿に戻ることが出来たが、ヘンリックにマクシを交えての夕餉の席でも、態度は始終おかしかった。
グラムファフナーのほうを見ずに、視線が合うとさっとその緑葉の目をそらしてしまう。いつものように快活に話すこともなく、大人しいテティに「やっぱりまだ具合が悪いんじゃ」と心配したヘンリックにテティはブンブンと首をふって「大丈夫」と答えていたけれど。
だから、今夜からは“お風呂を借り”には来ないと思っていたのだ。寂しいが。
「お風呂いい?」
「もちろんだ」
「お風呂!」とはしゃいだ声をあげたテティが、とたんクロクマの毛皮を脱いで、白く細くしなやかな少年の裸になるところだ。しかし、今日のテティは小さなクロクマの姿のままで、ちらりと椅子に腰掛けて本を読むグラムファフナーを見る。
「いってきます」
そして、クマの姿のままとことことお風呂に向かって行った。ようやく脱衣所で脱ぐことを覚えたか。
「成長したのか?」
ぽつりとつぶやいた己の言葉の響きが、やけに寂しいというか残念そうで、グラムファフナーは己でくくく……と笑った。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
お風呂から出たテティは、いつものようにクロクマの毛皮を脱いで“裸”にガウンを羽織っただけで、グラムファフナーの寝台に潜り込んだ。
いつものとおりグラムファフナーがあとからはいって一緒に寝るのも同じだ。
だけど……。
眠れない。
いつもならベッドに入ったらすぐに寝てしまうテティなのに。そして、お日様が昇ると同時に目が覚めて、グラムファフナーの寝台から抜け出して、自分の部屋へと戻って寝台に潜り込んで二度寝を決め込むのに。
「眠れないのか?」
開き直って、背を向けていた姿勢からころりと寝返りをうって、グラムファフナーの顔を見ていたら、目の前の目が開いて黒い瞳がじっとテティを見る。
「昼間、あんなことするんだもん」
「治療だ。もうしない」
長い腕がのびて抱きしめられる。月色の髪を長い指がすくようになでてくれるのが好きだ……と思う。
「もう来ないかと思った」と苦笑交じりに耳元でささやかれて、その低い声にふるりと細い肩を震わせる。
「来るよ、お風呂好きだもん」
「風呂だけか?」
「グラムと一緒に寝られないなんていやだ」
すりと抱き寄せられた肩口になつくと「成長したんだか、してないんだか」と言われて、テティは首を傾げる。
「子守歌を歌ってやろうか?」
「グラムが歌うの?」
「竪琴は用意できないが、これでもエルフだ」
エルフは歌をよくするとテティはダンダルフに教えられた。彼らの歌声自体が魔力を帯びていると。
「聞かせて」とねだれば、低く優しい夜の風みたいな歌声が天蓋が降ろされた寝台に静かに響く。
その歌声とグラムの身体に包みこまれて、テティはゆるゆるとした眠りに身を委ねた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
エルフの歌声の魔法は本当で、テティはその日、お日様が昇っても、グラムファフナーの腕のなか、ぐっすり寝ていた。
それもグラムファフナーも一緒で、二人ともメイドが「おはようござ…ます?」と声をかけても、それまで目を覚まさなかったぐらいだ。
テティは驚いてグラムファフナーの首に腕を回しぎゅっと抱きつく。グラムファフナーはそんなテティの背を片腕で抱きながらメイドに「すまないが、部屋を一度出てくれ」と命じる。
「し、失礼しました」とメイドは寝室を出て行き、テティは扉がパタンと閉まる音と同時に、グラムファフナーの寝台から飛び降りた。
「寝坊しちゃった! きっとイルゼが僕がいないって騒いでる!」
小卓にいつものように畳まれておかれているくるくるクマの巻き毛の毛皮をひっつかんで「また、朝食でね~」とテティはガウンを素早く脱いで、そして。
窓から飛び出した。
「テティ!」
これにはさすがのグラムファフナーも慌てて、窓によって下を見れば、飛び出たときは白い素っ裸だったテティは空中で着替えたのか、黒いクマの姿で着地して「じゃーん!」と両手をあげてポーズをとっていた。
そのまま、だだだ……と駆けていく姿は元気そのものだ。グラムファフナーの部屋は三階にあるのだが。それに城の天井も普通の民家よりもかなり高い。
もっとも、あの小さなクマにはこれぐらいの高さなど、へっちゃらなのだろう。
さて、朝食の席でグラムファフナーはマクシに散々「月色の髪の美女ってなんだ? どこから連れ込んだ?」と質問されたが無言で通した。
テティは“美女”が自分とは思っていないのか。蜂蜜とミルクをたっぷりかけたポリッジをもきゅもきゅ無心で食べていた。よく噛むことはよいことだ。
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