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クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?
第7話 ないしょのないしょのないしょだよ その1
しおりを挟むそれに気づかずテティは「でも、テティが生まれたら、お釜が爆発して使えなくなっちゃったんだって」と続ける。
「お釜はずいぶん前に作ったから、作り方忘れたってダンダルフがぼやいていたな。それで出来たのが魔法のオーブンなんだよね。
でも、オーブンは本当にオーブンでお料理しか出来なくて」
「あのオーブンは錬金釜の副産物かよ」とマクシが呆然とつぶやく。グラムファフナーはじっと考えこんだままだ。
テティは賢者の錬金釜で生まれたということは、魔道具の一種だろうか? しかし生きて自分の意思で動く魔道具など聞いたことがない。魔石で動く自動人形はあるが、あれもやはり決められた作業しか出来ないものだ。
そもそも、もこもこのクマのぬいぐるみの姿から、美しい少年の姿に変わるなど聞いたこともない。それもあの少年はどこからどう見たって、機械仕掛けなどではない生身の人間だった。
いや、人間なのか? たしかに耳は魔族やエルフのようにとがっておらず、獣人のように獣の耳ではない。人間のまるい耳だった。
そこまで考えても、グラムファフナーにはテティに対する嫌悪など微塵もなかった。むしろ、ダンダルフがどんな戯れで、この可愛い生き物を“創った”のか。それも途中で自分は退場して、銀の森に放置した。その無責任さに腹がたったぐらいだ。
「つまりあのオーブンは錬金釜の出来損ないなのか?」
「出来損ないなんて失礼な。魔法のオーブンは料理に関しては万能だよ。クッキーは一瞬。ケーキとかシチューとかの煮込み料理は、ちょっと時間かけたほうが美味しいけどね。
七面鳥の丸焼きとか絶品なんだから」
「肉かぁ、うまそうだな。また食わせてくれよ」
「気がむいたらね」
マクシとテティがそんな会話をしあっている。が、テティが「あ…れ?」とぐらりと小さな身体が、椅子から転がり落ちそうになったのに、グラムファフナーが長い手を伸ばしてすくい上げるように抱きあげた。
「どうした?」
「テティ大丈夫!?」とヘンリックも心配そうに、グラムファフナーの膝のテティを覗きこむ。いつもは生気に満ちて輝いている緑葉の瞳は、明らかに元気なくぼんやりしている。
「あれ? なんか力が……すごくだるい……」
そうつぶやいて、まぶたを閉じてしまう。グラムファフナーの膝に横たわりぐったりした小さな身体。意識を完全に失ったのか、もこもこの腕がたらりと落ちる。
「テティ! 侍医を!」と泣きそうな声をあげるヘンリックに、無言で医者を呼ぶためにたちあがるマクシを「待て」とグラムは止めた。
「医者を呼んでも無駄だ」
「たしかに人間しか診たことのない医者は駄目か? しかし、そいつを創ったダンダルフだってどこにいるんだか」
ダンダルフがいるならば、彼に訊くのが一番だろう。しかし、その賢者は行方不明だとマクシが苦渋に顔をゆがませる。
「いや、私に心当たりがある」とグラムファフナーが答えれば「本当か?」とマクシが声をあげる。すでに瞳をうるませていたヘンリックも涙を引っ込めて「宰相、テティはどうしちゃったの?」と訊ねる。
「家を呼ぶ“大魔術”。さらには魔力を大量に消費する魔法のオーブンでクッキーを一瞬で焼き上げた」
言いながらグラムは自分の上着の前を開いて、テティの黒いもこもこの小さな身体を抱き込んでやる。肌を密着させることで少しでも俺の魔力を分け与えられるといいのだが。
そうテティは。
「これは魔力切れだ」
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
賢者の錬金釜で創られたテティは、魔法生物といえる生き物なのだろう。もこもこの小さな身体からは信じられない身体能力も、短い呪文一つで繰り出す強力な魔法も、すべて膨大な魔力でまかなっているに違いない。
この生き物にとって、魔力とは命そのものだ。
それが今、枯渇しかかっているということは、その存在自体が消えかねない命の危機だ。
自分の部屋に小さな身体を抱きしめて運んで“治療”をするからとグラムファフナーは人払いをした。
抱えたまま、ベッドに腰掛けてグラムファフナーは、さてどうしたものか? と今は、本当のぬいぐるみのようにぐったりした、テティを見おろす。
あの“中身”の美少年が本体ならば、この小さなクマの“偽装”にも魔力を常に使っているはずだ。本人はどちらの姿もテティだと言っていたが、あちらが“本体”だろうことはグラムファフナーにはわかっていた。
それに魔力供給するならば、素肌で触れあったほうがいい。
しかし、この着ぐるみ? の脱がし方がわからない。テティは背中から脱いでいたが、ボタンや紐も見当たらないような。
「…………」
小さな身体をそっとひっくり返して、背中に見えたものが、幻覚か? とグラムファフナーはしわのよった眉間をもみほぐした。
しかし、もう一度見れば、首というか熊の大きな頭に胴体がくっついているのだから、首もないのだが……背中の頭の下あたりにそれがはっきりと見えた。
チャック……だ。
ダンダルフの生み出した“くだらない発明”の一つ。本人は「これでボタンをいちいち外したり、紐を解いたりする手間がなくなった!」と豪語していたが、旅の仲間の服にこれが普及しなかったのは、どうにも無粋だったからだ。
野獣の乱杭歯を噛み合わせたような、むき出しの表面は、ボタンや紐の編みこみ模様のように美しくない。
それにあの下げるときのチーッという音もだ。不快ではないが、仲間達には不評で彼らは服にそれを使うことはなかった。
そもそもダンダルフ本人さえ、自分の服には使わなかったのだから、賢者の長衣にはそれは似合わないとわかっていたのだろう。
そのクセ、自分の手持ちの小袋につけて、毎夜のごとくチーッチーッと上げ下げしていて、野営でたき火を囲む仲間達を辟易とさせた。
とはいえ、飽きっぽい賢者のこと、次のガラクタの開発に夢中になれば、すぐにそれを忘れてしまったのだが。
ここでこれを使うか! とどこにいるかわからない賢者に毒づきながら、チーッとチャックを降ろした。無粋だと思った金属音は妙に胸が高鳴った。
背中が開けば現れたのは月色の豊かな髪。黒い毛皮を引き抜けば、この小さな中にどうやって入っていた? という細いけれど、しなやかな若木のように伸びた少年の身体が露わになる。
ミルク色の肌が今は青ざめて見えてグラムファフナーは顔をしかめた。まぶたは閉じられあの美しい緑葉の瞳が見られないのも残念だ。その代わりに長いまつげが青ざめた頬に落とす陰が、儚げな美貌を強調する。
青ざめた頬に口づける。いつもよりひんやりとした頬に、頬をすりつけるようにする。ベッドに白い身体を横たえて、グラムファフナーは自分の肩からシャツを落とした。
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