5 / 65
クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?
第3話 勇者のひいひいひい孫 その1
しおりを挟む「なんだ? このぬいぐるみ」
あちこち壊れた玉座の間にて、カウフマン大公がひったてられたあと、狼の獣人の騎士団長の不用意なひと言にテティは当然ブチ切れた。
「ぬいぐるみじゃない!」
「どわっ!」
星のロッドを伸ばしての一撃を、騎士団長は緋色の大剣で辛うじて受けとめた。「腕がびりびりしやがる」とつぶやいたあと。
「いきなり攻撃する奴がいるか!」
「僕はテティ・デデ・ティティティア。ぬいぐるみじゃない!」
「おう、俺はマクシ・ヴィルケ・ニーマンだ」
図らずも名乗りあう形となった。なおも上目づかいにマクシをにらみつけるテティにグラムファフナーが「テティ」と呼びかける。
「マクシは私の友人だ。許してやってくれないか?」
「グラムのお友達なら仕方ないね。頭をぺっこりへこませるのは許す」
「おい、それじゃ死んじまうだろうが!」
「すぐにエリクサーふりかければ大丈夫だよ」
「そんな理由でバカ高い霊薬を使えるか!」
テティはむうっとマクシを見上げた。ちょっと首が痛い。獣人だけあって馬鹿デカいこの男、七ペース弱(二メートル)ありそうだ。その隣のグラムだって六ペース(約百八十センチ)より、もうちょっとありそうだから十分に背高のっぽだけど。
比べて、テティは三ペース(九十センチ)より、もうちょっと大きいぐらいだ。となりの小さな王様はテティより、さらに少し大きい四ペース(百二十センチ)ぐらいか。
背の高さなんて、とびあがれば十分その頭に届くからどうでもいい。今はぶっ叩かないけどと心の中でつぶやいて、テティはぴしりと赤毛の狼男を指さした。もこもこのお手々から、ぴっと小さな指らしきものが出る。
「あなた、マクシとかいったね?」
「それがどうした? テティ」
「…………」
うーんとテティは悩んだ。顔は悪くない。むしろいい。グラムにはちょっと負けるけど。
燃えるような赤毛に、琥珀の金目、彫りの深い顔立ちに、ニッと笑った大きな口。なめし革みたいな光沢の褐色の肌。粗野すぎることはないが、野性味にあふれている。
ひと言でいうなら。
「がさつ、無神経」
グラムファフナーが口許を隠すように片手で押さえて、背後にいる部下の騎士達も、口許をひくひくとひくつかせたり、下を向いている者がいる。「なんだよ」とマクシが声をあげる。
テティは言いたいこと言ってスッキリしたと、ふんと鼻を鳴らして。
「じゃあ、僕、銀の森に帰るね」
と言った。とてとてと玉座の階段を降りるテティに「今、すぐに帰るのか?」と慌てたのはグラムファフナーだ。
「うん、だって元々は森の外まで送っていく約束だったでしょ?」
もう少しグラムと一緒に居たかったけれど、それも満足した。「また、会いに来てもいい?」と言ったらうなずいてくれたので、嬉しいとテティはにっこりする。
グラムファフナーにマクシが「おい、これを野放しにしていいのか?」と小声で聞いていて「テティが帰ると言っているのに、阻めるのか?」「赤狼団全員投入しても無理そうだな」なんて会話をしてるけれどテティは気にしないで「じゃあね」ともこもこの片手をあげて立ち去ろうとしたが、そこに「ダメっ!」と声をあげたは小さな王様だ。
「テティ、行かないで! 僕のそばにいて!」
「うん、いいよ」
水色の瞳をうるませて正面から抱きつかれて、テティとしては「しかたないなぁ」とうなずくしかない。
一晩、このお城に泊まってもいいな~という感覚だったのだ。
しかし、そこに「ああぁ!」とマクシの声が重なる。さらにグラムファフナーもなぜか険しい表情だ。
「あ…れ……?」
そして、テティは自分のふわふわの身体になにか、ぱちんと巻き付いたような気がした。ここに縛り付けられるような。
テティが訊ねる前にグラムファフナーが「勇者の仲間の強制力だ」と言う。
「勇者? って魔王を倒した?」
だけどそれは昔の話だとダンダルフは教えてくれた。およそ百年前ぐらい。
テティが生まれるちょっと前のお話だ。
「陛下はその勇者のひいひいひい孫にあたられる」とのグラムファフナーの言葉に「つまり勇者の子孫?」とテティが言えば、小さな王様はこくりとうなずく。
「僕がグランパからいただいた力はこれだけ。仲間になってってお願い出来るの。心の底からそう思わないと、本当の仲間にはなれないってお爺さまが言ってた」
「そう思ったのはテティが初めて」と笑う小さな王様の笑顔はとてもかわいらしかった。「僕の仲間なんだから、テティはずっとこのお城にいるよね」と。
「……僕は銀の森に帰れないってこと?」
テティはぱふりと腕組みしてうーんとちょっとだけ考えて「ま、いいか」と言った。「いいのかよ!」とマクシ。
「でも僕、午後はかならずお茶にケーキ食べたいんだけど」
「もちろん、王宮の料理人に毎日用意させる」とグラムファフナーがすかさず言ったので、テティはうなずいた。
テティは小さな王様の顧問ということになった。顧問ってなに? と思ったが、お城で自由に過ごしていいと言われたので、自由にすることにした。お部屋ももらって、メイドも付けられた。
「イルゼと申します。よろしくお願いします」
「うん、イルゼ、よろしくね」
挨拶がわりにぎゅっと手を握れば、その手を赤くなった両頬にあてて「もこもこでらっしゃいます。うわ~うわ~」なんて言っていた。
そして、夕ご飯の時間になって、小さな王様を囲んで、グラムファフナーにマクシと夕餉をとった。
テティがナイフとフォークを綺麗に使ってご飯を食べていると、マクシが「あのくまの手で食べられるのか? いや、そもそもスープとかどこに入るんだ?」とかつぶやいていたから、その眉間にフォークを投げてやろうかと思ったけど、あきらかにマナー違反なのでやめた。
59
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる