【完結】クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?

志麻友紀

文字の大きさ
上 下
2 / 65
クロクマ少年~あいとゆうきの物語~中身は美少年!?

第1話 ぬいぐるみじゃない! その2

しおりを挟む



「ええい! このぬいぐるみと反逆者も捕らえよ!」
「だから、ぬいぐるみじゃないって!」
「ふぎゃあ!」

 とたん、グン! と伸びて振り下ろされたロッドがバコンと兵士長のかぶとに食い込む。昏倒した鎧に包まれた丸い身体を、四人の兵士が受けとめて慌てて後ろに下がる。

「お前ばかりに戦わせないぞ。せっかく傷を治してもらったのだからな」

 グラムファフナーが傷ついた腕で握りしめていた長剣を持ち上げれば、それだけで兵士達が怯えたように後ずさり逃げて行く。
 それにくるりとテティは振り返り訊ねた。

「グラムは強いの?」
「エルフだからな。人間の兵など普段ならば束になってかかってこられても歯牙にもかけぬが」

 テティはそれにうなずいた。エルフは人間よりも遥かに力も魔力も強い。だけど。

「でも、怪我して囲まれていたけど?」
「油断した。暗晶水の毒を盛られてな」
「よく即死しなかったね」

 すべての人型の種族の頂天に立ち、あらゆる毒が効かないエルフであるが暗晶水だけは彼らにとって猛毒だ。もっとも、あれはものすごく貴重で手に入れるのが困難だが。

「私は半分混ざりものだからな。死なずにここまで逃げてこられた」

 グラムの言葉になるほどとうなずいて、テティは空を見上げた。太陽の位置からして、ちょうどお茶の時間だ。

「お茶をいかが? キューカンバーのサンドウィッチに木の実のタルトにスミレの砂糖漬けもあるよ!」

 テティがぽふっとその黒いもこもこの毛皮におおわれた小さな手をたたくと、ぱあっと光がさして兵士達に踏み荒らされた広場が、たちまち綺麗に浄化される。回収し忘れた兵士達の指やら血糊も綺麗になって、元のお花が咲き乱れる花園に。

 空中から自分用の小さな椅子と普通の大きさの椅子を出す。丸く低いテーブルも出して、そこにほかほかと湯気の立つポットに新鮮なミルクに蜂蜜入りピッチャーを乗せた。それからキュウリを透けるぐらい薄く切りシンプルなバターだけのサンドウィッチ、木の実のタルトに、紫の星くずのようなスミレの砂糖漬けの瓶もとんと置く。

「これはこれは、豪華な森のお茶会へのご招待、このグラムファフナー・アロイジウス・ヴォルフ・シェーレンベルク。栄誉の極み」

 グラムファフナーが、テティの前に片膝をつき、右手を胸の前にあてて、ナイトとして最上級の礼をとる。それにテティははにかむようにもこもこの両手を、これまたもこもこのほっぺに当ててから「ごゆっくり楽しんでくださいませ」と淑女(レディ)? ってこんなときこう返すんだっけ? と考える。

 そして、空中からふわりとひらひらレースとお花の飾りがたくさんついた、ドレスみたいなエプロンを取り出して身につけた。
 それを「愛らしい……」とまじまじと見て、グラムファフナーは口を開く。

「テティはテティ嬢なのかな? それともテティ氏なのか?」

 その言葉の意味をテティは首をかしげて「ん」と考える。そして口を開いた。

「僕は男の子だけど、テティでいいよ」

 そのあとは二人で楽しくお茶会をした。誰かとお茶を飲むなんて久々でテティははしゃいだ。

「そうかテティはダンダルフと二人で森に暮らしていたのか?」
「うん、でもダンダルフももうテティに教えることはなくなったって、虹の海の向こうに行ったよ」
「……そうか」

 「賢者ダンダルフ、長らく消息は聞かなかったが……」というグラムファフナーの小さなつぶやきに、テティは首をかしげる。
 彼はミルクのたっぷりはいったお茶を二杯、ゆっくりと飲んで立ち上がった。

「本当に世話になった、この礼はのちほどする」
「お礼なんていいよ。グラムは困っていたんでしょ? 助けるのは当たり前」

 テティの言葉にグラムは軽く目を見開いて、ふわりと微笑む。「そうか。その心はとてもうれしい。だからこそ、必ず感謝の印はすべてが終わったあとに」との言葉にこくりとうなずく。

「では、さらばは言わない。また会うからな」
「うん」

 長い足で歩き出した彼のあとを、テティがちょこちょこついていくのに、グラムが不思議そうな顔をして振り返る。

「森のはずれまで送ってく」
「そうか、重ね重ねすまない」

 本当は少しでもお別れを先に延ばしたかったのだ。

 しかし、あと少しで森の外というところで、またもやあの兵隊達が待ち構えていた。
 今度はさっきの三倍の数で、よくも集めたものだ。

 しかし、テティとグラムファフナーの前には、彼らはまったく歯が立たなかった。星のロッドが兵士達のかぶとをへこませ、長剣のひとふりで兵士達が数人吹っ飛ぶ。
 直接攻撃は無理だと、今度は雨のように矢を射かけられたが、テティの風の魔法で矢の向きをくるりと変えられたうえに、グラムの闇の魔法の炎に包まれたそれが兵士達に降り注いで、彼らは「撤退! 撤退!」と伝令があがる前に、蜘蛛の子を散らすみたいに逃げ出した。

「僕、グラムについていくよ」
「いいのか?」
「放っておけないもの」

 あの兵士達がまた襲ってくるかもしれない。グラムファフナーはふわりと微笑み「力強い味方だな、ありがとう」と言う。
 そして、兵士達の残していた馬の手綱をとる。ひょいとテティを抱きあげて、鞍の前に乗せると自分はその後ろにひらりと乗る。

「行くぞ。とばすからしっかり掴まっていろ」
「うん」

 馬は真っ直ぐに王都を目指して駆けた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

処理中です...