ボクは胸騒ぎスキルで、この世界を駆け抜ける!

さんが

文字の大きさ
上 下
26 / 27

第26話 宿りし者

しおりを挟む
「妾も舐められたもんだな。脳筋と小娘ごときと一緒にされては困る。格の違いを見せてやろうぞ」

「ふっ、笑止な。この世界の理を想像した我の前では、どれも皆等しく下等でしかない」

「地下で惰眠を貪っている間に、この世界も進化しておるのだ。アホが創った理は、もうこの世界には通用せん」

 魔王シータの前でも、ディードは人を食った態度を取ってみせる。ただ、白くなった髪色とボロボロになったローブ姿は満身創痍で、強がりにしか見えない。

「それならば我の力を、存分に味わわわせてやる。貴様だけは、絶対に死なせん。永遠に我の体の一部として酷使してやる」

「ならば、やってみせろ。口だけでは、何とでも言える」

 突然、ディードの体が炎に包まれる。魔力を使いきったはずなのに、身を包む炎は白く輝き、神々しさすら感じさせる。

「貴様、死ぬつもりか」

 退屈そうに眺めていたシータの目付きが変わる。

「残念だが、妾に甚振られる趣向はない。甚振る方が性に合う」

「何をほざくか。魔力の代わりにエルフの命を削ったとて、我に勝てるわけがなかろう」

「それならば、一つ教えてやる。妾の“女の勘”は、外れたことがない」

 ディードがチラッとボクの方を振り返る。初めてみるディードの真剣な眼差し。覚悟を決めた顔だが、決して諦めてはいない。ディードの“女の勘”は、まだボクのことを信じている。

 それに対して、ボクは簡単に諦めてしまっていた。今のボクは、どれだけ意識しても、何を想像しても胸騒ぎを感じない。決してなくなることの無かった胸騒ぎスキルの力をボクは失っている。

 ボクの焦りは増すが、事態は無情にも進んでゆく。ディードを包む白い炎が翼を形取る。それは不死鳥の翼で、その炎に少しでも触れた者は消滅するしかない。勿論、炎を纏うディードも例外ではない。新しい再生の始まりでもあるが、存在自体は完全に消えてしまう。

「ディード、ダメだ。ボクはディードが居ない世界なんて望んでいない」

 しかし、ボクの声は空気を震わせることが出来ず、もう一度ディードを振り向かせることも出来ない。
 そして、不死鳥の翼がディードをシータの元へと運ぶ。今まで反応しなかったシータも初めて両手を前に翳し、迎え撃つ体勢を取っている。

 不死鳥の炎の白い灯りと、滅びの紫紺の光が混ざり合う。お互いを消滅させようと激しくぶつかり合い、炎の猛る音と紫紺の光が発する雷鳴の音が、地下の広大な空間を支配する。

 最初こそ拮抗していた力のぶつかり合いは、徐々に紫紺の光が強さを増してゆく。

 ボクはここで何も出来ずに見ているだけなのか?ただただ、力が欲しいと願う。ボクの大切な人達を護る。ボクの大切な人を傷つける者を打ち砕く。どうすれば、ボクの未来は続くのだろうか?

「邪神だって悪魔だって何だってイイ。ボクの全てをくれてやる。だから、ボクに力を貸しやがれっ!」

 空気が震えた。魂となり彷徨っていたボクの叫び声が、この地下の空間に広がると、炎が猛る音も雷鳴の音も掻き消してしまう。
 次第に不死鳥の炎も、滅びの紫紺の光も明るさを失ってゆく。代わりにドクンッドクンッと鼓動の音が空間を支配する。

 気が付けば横たわっていたボクが立ち上がり、呆然とした表情で立ち尽くすシータと、力なく崩れ落ちるディードの姿が見える。

「貴様、何奴」

 シータは立ち上がっているボクに質問を投げ掛けるが、その言葉とは裏腹に紫紺の光を放ってくる。簡単にボクの胸を貫いた滅びの魔法だが、今度はボクの体に届かずに消え去る。
 それを防いだのは、クオンが操るボクの影。しかし、影はボクの姿を映していない。ボクの体の周りでとぐろを巻き、鎌首をもたげる龍の姿。

 この空間を支配する鼓動の音がさらに大きく、そして激しくなる。その音に、魂の存在だったボクは引き寄せられる。短い間でしかなかったが、ボクの体は全く別物に変わってしまっている。

(クオン、ボクに髪に宿っていたのは黒龍だったんだな)

(うん、ボクが見れた未来はここまで)

(こんな奴がボクの中に居たら、精霊の声なんて掻き消されるな。クオンは大丈夫なのか?)

(あたしは、影の中だから大丈夫。でも他の精霊は、きっと無理ね)

 ボクが聞ける精霊の声は、影の中に居るクオンだけ。ここで知ることになる残酷な現実だが、感傷に浸る余裕はない。

(アイツは絶対に許さない! あたしに任せて)

 そしてクオンが反撃に出る。ディードがシータにやられたことで、クオンは気が立っている。影の黒龍が牙を剥き出しシータに襲いかかるが、再びシータの周りには紫紺の障壁が現れている。
 牙と障壁がぶつかり合い、火花を散らす。障壁の一枚は食い破ったが、幾重にも張られた障壁に動きが止まる。食い破れない苛立ちか、黒龍の長い胴体をくねらせ、地面へと激しく叩き付ける。しかし、障壁を加え込む黒龍の口は、次第に開かれ障壁が大きさを増してゆく。

(クオン、もう大丈夫だ。それ以上はクオンが黒龍に飲み込まれて暴走してしまう)

 黒龍が口を開くと同時に、障壁がさらに輝きを増す。上半身だけだったはずのシータには、3頭の獣の下半身がある。3頭の獣は、消えてしまったアージさんとディード、リオンの3人で間違いない。

「じゃじゃ馬ばかり故、もう少し調教したかったが、なかなか乗り心地は悪くない」

 その言葉で、さらにクオンは殺気立つ。しかし、完全体となったシータの力は比べ物にならないくらいに強くなり、クオンも迂闊に動けずにいる。もう少しクオンが障壁に食いついていれば、黒龍の頭部は消滅していたかもしれない。

「黒龍よ、ボクに力を貸してくれるんだろ」

「小僧、何を望む。破壊、殺戮、破滅、禁忌、望む力をくれてやる」

「随分と物騒な力ばかりなんだな。慈愛とかはないのかよ」

「そんなものを望む者はおらん」

「確かにな。ボクに必要なのは破壊の力だ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...