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第26話 宿りし者
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「妾も舐められたもんだな。脳筋と小娘ごときと一緒にされては困る。格の違いを見せてやろうぞ」
「ふっ、笑止な。この世界の理を想像した我の前では、どれも皆等しく下等でしかない」
「地下で惰眠を貪っている間に、この世界も進化しておるのだ。アホが創った理は、もうこの世界には通用せん」
魔王シータの前でも、ディードは人を食った態度を取ってみせる。ただ、白くなった髪色とボロボロになったローブ姿は満身創痍で、強がりにしか見えない。
「それならば我の力を、存分に味わわわせてやる。貴様だけは、絶対に死なせん。永遠に我の体の一部として酷使してやる」
「ならば、やってみせろ。口だけでは、何とでも言える」
突然、ディードの体が炎に包まれる。魔力を使いきったはずなのに、身を包む炎は白く輝き、神々しさすら感じさせる。
「貴様、死ぬつもりか」
退屈そうに眺めていたシータの目付きが変わる。
「残念だが、妾に甚振られる趣向はない。甚振る方が性に合う」
「何をほざくか。魔力の代わりにエルフの命を削ったとて、我に勝てるわけがなかろう」
「それならば、一つ教えてやる。妾の“女の勘”は、外れたことがない」
ディードがチラッとボクの方を振り返る。初めてみるディードの真剣な眼差し。覚悟を決めた顔だが、決して諦めてはいない。ディードの“女の勘”は、まだボクのことを信じている。
それに対して、ボクは簡単に諦めてしまっていた。今のボクは、どれだけ意識しても、何を想像しても胸騒ぎを感じない。決してなくなることの無かった胸騒ぎスキルの力をボクは失っている。
ボクの焦りは増すが、事態は無情にも進んでゆく。ディードを包む白い炎が翼を形取る。それは不死鳥の翼で、その炎に少しでも触れた者は消滅するしかない。勿論、炎を纏うディードも例外ではない。新しい再生の始まりでもあるが、存在自体は完全に消えてしまう。
「ディード、ダメだ。ボクはディードが居ない世界なんて望んでいない」
しかし、ボクの声は空気を震わせることが出来ず、もう一度ディードを振り向かせることも出来ない。
そして、不死鳥の翼がディードをシータの元へと運ぶ。今まで反応しなかったシータも初めて両手を前に翳し、迎え撃つ体勢を取っている。
不死鳥の炎の白い灯りと、滅びの紫紺の光が混ざり合う。お互いを消滅させようと激しくぶつかり合い、炎の猛る音と紫紺の光が発する雷鳴の音が、地下の広大な空間を支配する。
最初こそ拮抗していた力のぶつかり合いは、徐々に紫紺の光が強さを増してゆく。
ボクはここで何も出来ずに見ているだけなのか?ただただ、力が欲しいと願う。ボクの大切な人達を護る。ボクの大切な人を傷つける者を打ち砕く。どうすれば、ボクの未来は続くのだろうか?
「邪神だって悪魔だって何だってイイ。ボクの全てをくれてやる。だから、ボクに力を貸しやがれっ!」
空気が震えた。魂となり彷徨っていたボクの叫び声が、この地下の空間に広がると、炎が猛る音も雷鳴の音も掻き消してしまう。
次第に不死鳥の炎も、滅びの紫紺の光も明るさを失ってゆく。代わりにドクンッドクンッと鼓動の音が空間を支配する。
気が付けば横たわっていたボクが立ち上がり、呆然とした表情で立ち尽くすシータと、力なく崩れ落ちるディードの姿が見える。
「貴様、何奴」
シータは立ち上がっているボクに質問を投げ掛けるが、その言葉とは裏腹に紫紺の光を放ってくる。簡単にボクの胸を貫いた滅びの魔法だが、今度はボクの体に届かずに消え去る。
それを防いだのは、クオンが操るボクの影。しかし、影はボクの姿を映していない。ボクの体の周りでとぐろを巻き、鎌首をもたげる龍の姿。
この空間を支配する鼓動の音がさらに大きく、そして激しくなる。その音に、魂の存在だったボクは引き寄せられる。短い間でしかなかったが、ボクの体は全く別物に変わってしまっている。
(クオン、ボクに髪に宿っていたのは黒龍だったんだな)
(うん、ボクが見れた未来はここまで)
(こんな奴がボクの中に居たら、精霊の声なんて掻き消されるな。クオンは大丈夫なのか?)
(あたしは、影の中だから大丈夫。でも他の精霊は、きっと無理ね)
ボクが聞ける精霊の声は、影の中に居るクオンだけ。ここで知ることになる残酷な現実だが、感傷に浸る余裕はない。
(アイツは絶対に許さない! あたしに任せて)
そしてクオンが反撃に出る。ディードがシータにやられたことで、クオンは気が立っている。影の黒龍が牙を剥き出しシータに襲いかかるが、再びシータの周りには紫紺の障壁が現れている。
牙と障壁がぶつかり合い、火花を散らす。障壁の一枚は食い破ったが、幾重にも張られた障壁に動きが止まる。食い破れない苛立ちか、黒龍の長い胴体をくねらせ、地面へと激しく叩き付ける。しかし、障壁を加え込む黒龍の口は、次第に開かれ障壁が大きさを増してゆく。
(クオン、もう大丈夫だ。それ以上はクオンが黒龍に飲み込まれて暴走してしまう)
黒龍が口を開くと同時に、障壁がさらに輝きを増す。上半身だけだったはずのシータには、3頭の獣の下半身がある。3頭の獣は、消えてしまったアージさんとディード、リオンの3人で間違いない。
「じゃじゃ馬ばかり故、もう少し調教したかったが、なかなか乗り心地は悪くない」
その言葉で、さらにクオンは殺気立つ。しかし、完全体となったシータの力は比べ物にならないくらいに強くなり、クオンも迂闊に動けずにいる。もう少しクオンが障壁に食いついていれば、黒龍の頭部は消滅していたかもしれない。
「黒龍よ、ボクに力を貸してくれるんだろ」
「小僧、何を望む。破壊、殺戮、破滅、禁忌、望む力をくれてやる」
「随分と物騒な力ばかりなんだな。慈愛とかはないのかよ」
「そんなものを望む者はおらん」
「確かにな。ボクに必要なのは破壊の力だ!」
「ふっ、笑止な。この世界の理を想像した我の前では、どれも皆等しく下等でしかない」
「地下で惰眠を貪っている間に、この世界も進化しておるのだ。アホが創った理は、もうこの世界には通用せん」
魔王シータの前でも、ディードは人を食った態度を取ってみせる。ただ、白くなった髪色とボロボロになったローブ姿は満身創痍で、強がりにしか見えない。
「それならば我の力を、存分に味わわわせてやる。貴様だけは、絶対に死なせん。永遠に我の体の一部として酷使してやる」
「ならば、やってみせろ。口だけでは、何とでも言える」
突然、ディードの体が炎に包まれる。魔力を使いきったはずなのに、身を包む炎は白く輝き、神々しさすら感じさせる。
「貴様、死ぬつもりか」
退屈そうに眺めていたシータの目付きが変わる。
「残念だが、妾に甚振られる趣向はない。甚振る方が性に合う」
「何をほざくか。魔力の代わりにエルフの命を削ったとて、我に勝てるわけがなかろう」
「それならば、一つ教えてやる。妾の“女の勘”は、外れたことがない」
ディードがチラッとボクの方を振り返る。初めてみるディードの真剣な眼差し。覚悟を決めた顔だが、決して諦めてはいない。ディードの“女の勘”は、まだボクのことを信じている。
それに対して、ボクは簡単に諦めてしまっていた。今のボクは、どれだけ意識しても、何を想像しても胸騒ぎを感じない。決してなくなることの無かった胸騒ぎスキルの力をボクは失っている。
ボクの焦りは増すが、事態は無情にも進んでゆく。ディードを包む白い炎が翼を形取る。それは不死鳥の翼で、その炎に少しでも触れた者は消滅するしかない。勿論、炎を纏うディードも例外ではない。新しい再生の始まりでもあるが、存在自体は完全に消えてしまう。
「ディード、ダメだ。ボクはディードが居ない世界なんて望んでいない」
しかし、ボクの声は空気を震わせることが出来ず、もう一度ディードを振り向かせることも出来ない。
そして、不死鳥の翼がディードをシータの元へと運ぶ。今まで反応しなかったシータも初めて両手を前に翳し、迎え撃つ体勢を取っている。
不死鳥の炎の白い灯りと、滅びの紫紺の光が混ざり合う。お互いを消滅させようと激しくぶつかり合い、炎の猛る音と紫紺の光が発する雷鳴の音が、地下の広大な空間を支配する。
最初こそ拮抗していた力のぶつかり合いは、徐々に紫紺の光が強さを増してゆく。
ボクはここで何も出来ずに見ているだけなのか?ただただ、力が欲しいと願う。ボクの大切な人達を護る。ボクの大切な人を傷つける者を打ち砕く。どうすれば、ボクの未来は続くのだろうか?
「邪神だって悪魔だって何だってイイ。ボクの全てをくれてやる。だから、ボクに力を貸しやがれっ!」
空気が震えた。魂となり彷徨っていたボクの叫び声が、この地下の空間に広がると、炎が猛る音も雷鳴の音も掻き消してしまう。
次第に不死鳥の炎も、滅びの紫紺の光も明るさを失ってゆく。代わりにドクンッドクンッと鼓動の音が空間を支配する。
気が付けば横たわっていたボクが立ち上がり、呆然とした表情で立ち尽くすシータと、力なく崩れ落ちるディードの姿が見える。
「貴様、何奴」
シータは立ち上がっているボクに質問を投げ掛けるが、その言葉とは裏腹に紫紺の光を放ってくる。簡単にボクの胸を貫いた滅びの魔法だが、今度はボクの体に届かずに消え去る。
それを防いだのは、クオンが操るボクの影。しかし、影はボクの姿を映していない。ボクの体の周りでとぐろを巻き、鎌首をもたげる龍の姿。
この空間を支配する鼓動の音がさらに大きく、そして激しくなる。その音に、魂の存在だったボクは引き寄せられる。短い間でしかなかったが、ボクの体は全く別物に変わってしまっている。
(クオン、ボクに髪に宿っていたのは黒龍だったんだな)
(うん、ボクが見れた未来はここまで)
(こんな奴がボクの中に居たら、精霊の声なんて掻き消されるな。クオンは大丈夫なのか?)
(あたしは、影の中だから大丈夫。でも他の精霊は、きっと無理ね)
ボクが聞ける精霊の声は、影の中に居るクオンだけ。ここで知ることになる残酷な現実だが、感傷に浸る余裕はない。
(アイツは絶対に許さない! あたしに任せて)
そしてクオンが反撃に出る。ディードがシータにやられたことで、クオンは気が立っている。影の黒龍が牙を剥き出しシータに襲いかかるが、再びシータの周りには紫紺の障壁が現れている。
牙と障壁がぶつかり合い、火花を散らす。障壁の一枚は食い破ったが、幾重にも張られた障壁に動きが止まる。食い破れない苛立ちか、黒龍の長い胴体をくねらせ、地面へと激しく叩き付ける。しかし、障壁を加え込む黒龍の口は、次第に開かれ障壁が大きさを増してゆく。
(クオン、もう大丈夫だ。それ以上はクオンが黒龍に飲み込まれて暴走してしまう)
黒龍が口を開くと同時に、障壁がさらに輝きを増す。上半身だけだったはずのシータには、3頭の獣の下半身がある。3頭の獣は、消えてしまったアージさんとディード、リオンの3人で間違いない。
「じゃじゃ馬ばかり故、もう少し調教したかったが、なかなか乗り心地は悪くない」
その言葉で、さらにクオンは殺気立つ。しかし、完全体となったシータの力は比べ物にならないくらいに強くなり、クオンも迂闊に動けずにいる。もう少しクオンが障壁に食いついていれば、黒龍の頭部は消滅していたかもしれない。
「黒龍よ、ボクに力を貸してくれるんだろ」
「小僧、何を望む。破壊、殺戮、破滅、禁忌、望む力をくれてやる」
「随分と物騒な力ばかりなんだな。慈愛とかはないのかよ」
「そんなものを望む者はおらん」
「確かにな。ボクに必要なのは破壊の力だ!」
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