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第24話 違う未来
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壁から放たれた一筋の紫紺の光。滅びの魔法が、ボクの胸を貫いた。それでも、ボクの最悪を回避出来ればイイ。だけど、これはボクの思い描いた未来とは、少し変わっている。
ボクがスキュラの魔石がある場所を見つけて、全力で駆け出しそうとした時に、どこからか声が聞こえた。
(聞こえてる? あたしを忘れてるよ)
周りを見ても、どこにも姿は見当たらない。もちろん、ここにいるのはディードとリオンだけで、他に知り合いがいるような場所じゃない。
(ねえ、伝わってるでしょ。あたしの“声”じゃなくて“思い”が。あたしも手伝ってあげる)
「クオンなのか?」
思わず、ボクの影を見てしまう。姿は見えず、ボクを知っている存在はクオンしかいない。それに、声が聞こえてくるのではなく、頭の中に直接伝わってくる不思議な感覚がする。
(あたしはルクールの影、一心同体よ。声が聞こえなくても、気持ちは通じるのよ)
「何を手伝ってくれるんだ」
(声に出さなくても伝わるわ。あたしには、あなたの思考だって未来だって見えてるのよ。覚悟があるなら、あたしが未来を変えてあげる)
クオンはボクの見ている、最悪を回避する未来を知っている。それが少しでもマシになるなら、何をしたって構わない。
(どうすればイイ?)
(あたしと契約するの。そうすれば、あたしはもっと力を発揮出来る)
(でも、ボクは精霊との契約の仕方なんて知らないぞ)
(大丈夫、簡単。あたしと契約すると願うだけよ)
「ああ、分かった。行くぞっ!」
それはクオンへの返事だけでなく、ボクの気持ちを奮い立たせる為の言葉で、自然と声となり出てしまう。
ボクは最悪の未来を回避する為に全力で駆け出すと、壁の中に隠れている魔石に向けて短剣を突き出す。何が変わるかは分からないが、ここまではボクが見た未来の光景と一緒だった。
しかし、短剣突き出そうした瞬間、ボクの体に異変が起こった。全力疾走から一転して、ボクの体は急停止すると、指1本すら動かせない。体には何の衝撃もなく、時が止まったようにも感じる。
こんな芸当が出きるのは、クオンの影縛りしかない。その証拠に、ボクの視界の隅には影から出てきたクオンの姿がある。異形のバーゲストの動きを完全に封じることは出来なかったが、ボクと契約したことでクオンの力は増している。いやエルフといっても、ヒエラルキーの最下層のボクなら簡単なことかもしれない。
僅かな時間でクオンの力を感じたが、時が止まったわけじゃない。一瞬遅れてボクの胸を紫紺の光りが貫いた。ボクの思い描いた未来は、スキュラの魔石との相討ち。スキュラの魔石を砕くが、紫紺の光に貫かれたボクは即死するはずだった。
ボクの体の動きが急に止まったことで、紫紺の光は僅かに急所を外れ、即死が致命傷へと変わった。
胸が焼けるような痛みが襲いかかってくるが、動きの止められたボクは、呻き声を上げることも悶え苦しむことも出来ない。焼けるような痛みに耐え続ければ、今度は呼吸が出来なくなる。さらに目に映るもの全てが赤く染まり、視界もなくなってくる。瞼すら閉じることが出来ないのに、世界は暗転してしまう。
これが、少しマシになった未来ならば、次は間違いなく即死の未来を選ぶ。そんなことを考えていたら、急に視界が鮮明になる。目の前には胸を貫かれて血を流すボクがいる。それをボクは下から眺めている不思議な光景。ボクの体は影縛りで動かないのに、大量の血が流れ出る光景が理不尽に思える。
(大丈夫、死なないよ)
再びクオンの声が頭の中に響き、これがクオンの見ている光景なんだと気付く。
最悪の1歩手前は、即死ではなく瀕死なのか?それに、まだ壁の中のスキュラの魔石を壊していない。今動けるようになったとしても、瀕死の状態のボクでは止めはさせそうにない。
(どうするんだ、クオン)
(何もしなくてイイ。見ていて、未来が変わるから)
心の中でクオンに話しかければ、それにクオンが返事をしてくれる。この状況は、間違いなくクオンの思い描いた未来。
するとボクの持つ短剣が、剣身を伸ばし始める。その先にあるのは、スキュラの魔石。切先が壁へと突き刺さっても、さらに剣身は長く伸び続ける。完全に壁の中に切先は隠れて見えなくなるが、まだまだ剣身は伸びる。
ボクの手には、短剣が壁に突き刺さる感触が伝わってくる。これが未来の姿ではなく、現実に起こっている光景だと感じさせてくれる。
そして、パキンッと魔石が砕ける感触が伝わってくる。下位種のバーゲストでも、不完全な魔王であっても、魔石が砕ける感触は同じで、繊細なガラス細工が粉々に砕け散ったような軽い手応え。
(終わったのか?)
クオンが見せていた光景が見えなくなり、真っ暗に暗転した世界に戻る。ボクには何も見えないが、それでも安心して体の力は抜ける。
体が崩れ落ちる。
クオンが影縛りを解いたのか、それともボクの死によって影縛りの効果が無くなったのか?
(違うよ。ここが崩壊しているんだ。地面も壁も天井も、全てが無に変える。全てが砂粒に戻るんだ)
(ボクが魔石を壊したから?)
(うん、この洞穴全体が魔王の姿なんだよ)
ボクの見える未来は、死んだ瞬間に終わり、その先の未来は見えない。だが、その後も未来は続く。
(ディードは?リオンは?逃げたのか?)
ボクはどうなっても構わない。ただ、最後の最後で大きな見落としをしていた。ボクはアージさんだけじゃなくて、ディードとリオンも助けたいんだ。
(皆飲み込まれるけど、心配しないで。まだ未来は終わらないよ。ゴセキの地下に行くんだ)
(えっ、終わりじゃないのか?でも、ボクは……)
ボクの意識は次第に薄れてゆく。そして、体がだけでなく思考も完全に止まってしまい、砂の中へと飲み込まれてゆく。
ボクがスキュラの魔石がある場所を見つけて、全力で駆け出しそうとした時に、どこからか声が聞こえた。
(聞こえてる? あたしを忘れてるよ)
周りを見ても、どこにも姿は見当たらない。もちろん、ここにいるのはディードとリオンだけで、他に知り合いがいるような場所じゃない。
(ねえ、伝わってるでしょ。あたしの“声”じゃなくて“思い”が。あたしも手伝ってあげる)
「クオンなのか?」
思わず、ボクの影を見てしまう。姿は見えず、ボクを知っている存在はクオンしかいない。それに、声が聞こえてくるのではなく、頭の中に直接伝わってくる不思議な感覚がする。
(あたしはルクールの影、一心同体よ。声が聞こえなくても、気持ちは通じるのよ)
「何を手伝ってくれるんだ」
(声に出さなくても伝わるわ。あたしには、あなたの思考だって未来だって見えてるのよ。覚悟があるなら、あたしが未来を変えてあげる)
クオンはボクの見ている、最悪を回避する未来を知っている。それが少しでもマシになるなら、何をしたって構わない。
(どうすればイイ?)
(あたしと契約するの。そうすれば、あたしはもっと力を発揮出来る)
(でも、ボクは精霊との契約の仕方なんて知らないぞ)
(大丈夫、簡単。あたしと契約すると願うだけよ)
「ああ、分かった。行くぞっ!」
それはクオンへの返事だけでなく、ボクの気持ちを奮い立たせる為の言葉で、自然と声となり出てしまう。
ボクは最悪の未来を回避する為に全力で駆け出すと、壁の中に隠れている魔石に向けて短剣を突き出す。何が変わるかは分からないが、ここまではボクが見た未来の光景と一緒だった。
しかし、短剣突き出そうした瞬間、ボクの体に異変が起こった。全力疾走から一転して、ボクの体は急停止すると、指1本すら動かせない。体には何の衝撃もなく、時が止まったようにも感じる。
こんな芸当が出きるのは、クオンの影縛りしかない。その証拠に、ボクの視界の隅には影から出てきたクオンの姿がある。異形のバーゲストの動きを完全に封じることは出来なかったが、ボクと契約したことでクオンの力は増している。いやエルフといっても、ヒエラルキーの最下層のボクなら簡単なことかもしれない。
僅かな時間でクオンの力を感じたが、時が止まったわけじゃない。一瞬遅れてボクの胸を紫紺の光りが貫いた。ボクの思い描いた未来は、スキュラの魔石との相討ち。スキュラの魔石を砕くが、紫紺の光に貫かれたボクは即死するはずだった。
ボクの体の動きが急に止まったことで、紫紺の光は僅かに急所を外れ、即死が致命傷へと変わった。
胸が焼けるような痛みが襲いかかってくるが、動きの止められたボクは、呻き声を上げることも悶え苦しむことも出来ない。焼けるような痛みに耐え続ければ、今度は呼吸が出来なくなる。さらに目に映るもの全てが赤く染まり、視界もなくなってくる。瞼すら閉じることが出来ないのに、世界は暗転してしまう。
これが、少しマシになった未来ならば、次は間違いなく即死の未来を選ぶ。そんなことを考えていたら、急に視界が鮮明になる。目の前には胸を貫かれて血を流すボクがいる。それをボクは下から眺めている不思議な光景。ボクの体は影縛りで動かないのに、大量の血が流れ出る光景が理不尽に思える。
(大丈夫、死なないよ)
再びクオンの声が頭の中に響き、これがクオンの見ている光景なんだと気付く。
最悪の1歩手前は、即死ではなく瀕死なのか?それに、まだ壁の中のスキュラの魔石を壊していない。今動けるようになったとしても、瀕死の状態のボクでは止めはさせそうにない。
(どうするんだ、クオン)
(何もしなくてイイ。見ていて、未来が変わるから)
心の中でクオンに話しかければ、それにクオンが返事をしてくれる。この状況は、間違いなくクオンの思い描いた未来。
するとボクの持つ短剣が、剣身を伸ばし始める。その先にあるのは、スキュラの魔石。切先が壁へと突き刺さっても、さらに剣身は長く伸び続ける。完全に壁の中に切先は隠れて見えなくなるが、まだまだ剣身は伸びる。
ボクの手には、短剣が壁に突き刺さる感触が伝わってくる。これが未来の姿ではなく、現実に起こっている光景だと感じさせてくれる。
そして、パキンッと魔石が砕ける感触が伝わってくる。下位種のバーゲストでも、不完全な魔王であっても、魔石が砕ける感触は同じで、繊細なガラス細工が粉々に砕け散ったような軽い手応え。
(終わったのか?)
クオンが見せていた光景が見えなくなり、真っ暗に暗転した世界に戻る。ボクには何も見えないが、それでも安心して体の力は抜ける。
体が崩れ落ちる。
クオンが影縛りを解いたのか、それともボクの死によって影縛りの効果が無くなったのか?
(違うよ。ここが崩壊しているんだ。地面も壁も天井も、全てが無に変える。全てが砂粒に戻るんだ)
(ボクが魔石を壊したから?)
(うん、この洞穴全体が魔王の姿なんだよ)
ボクの見える未来は、死んだ瞬間に終わり、その先の未来は見えない。だが、その後も未来は続く。
(ディードは?リオンは?逃げたのか?)
ボクはどうなっても構わない。ただ、最後の最後で大きな見落としをしていた。ボクはアージさんだけじゃなくて、ディードとリオンも助けたいんだ。
(皆飲み込まれるけど、心配しないで。まだ未来は終わらないよ。ゴセキの地下に行くんだ)
(えっ、終わりじゃないのか?でも、ボクは……)
ボクの意識は次第に薄れてゆく。そして、体がだけでなく思考も完全に止まってしまい、砂の中へと飲み込まれてゆく。
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