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第20話 予知
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「ほう、見つけたか。確かに、こちらに来るやもしれん」
この周辺の森には、幾つかのトレントが生息している。大地に深く根を張り動くことは出来ないが、枝葉を揺らして情報共有している。だから、トレント達の棲む森に入れば、隠れることは出来ない。
「かなり距離はある。まだまだ時間はかかるな」
「えっ、そんな。でもボクには確かに感じる」
ボクの胸騒ぎスキルで感じる不確かなものと、トレント達の視覚で見つけたものであれば、どちらが信用に値するかは一目瞭然。
もう一度、胸騒ぎを意識する。知ろうとすれば知るほど、異形のバーゲストがこちらに向かってきている。
「双頭じゃない。6本足のバーゲストだ」
「違うぞ、ルクール。異形とはいえ、バーゲストごときが見つけれるわけがなかろう」
「ご主人様、私もバーゲストの音は聞こえませんわ」
そこで、初めて気付かされる。バーゲストが、ボク達を見つけて近寄ってくるなんてありえない。それなのに、ボクにはバーゲストが襲いかかってくる光景が見える。
「それがルクールの覚醒した力なのだろう」
「えっ、何が?ボクの見えているものと、現実は違ってるのに」
「これから起こる、未来の話かもしれん」
「そんなの馬鹿げてる。ボクの妄想かもしれないんだぞ」
「簡単なことよ。確かめたければ、ここで待てばイイ。自ずと答えが出る」
何度繰り返してもボクの胸騒ぎスキルは、こちらに向かってくる異形のバーゲストの姿をハッキリと捉える。今までと少しだけ違うのは、命の危険を感じる程の驚異とは思えない。
ただ、生死を掛けた戦いを経験し、感覚が狂ってしまったのかもしれない。一歩間違えれば命がけの検証に、ディードとリオンをも巻き込んでイイのだろうか。
「たかが異形のバーゲストごときで、何を悩む。ゴセキの地下には、異形を造り出す化物がおるのだ。ここで躓くようならば先はない」
「そうですわ。ご主人様の覚醒した力を見極める良い機会と思いましょう」
樹洞の中で待つと、森の中をウロウロとさ迷いながらも、バーゲストは少しずつ近付いてきている。それでも、ボクの胸騒ぎの大きさは変わらない。
「このままなら、ボク達の目の前までバーゲストが来る。樹洞から出よう」
「どうするんだ、ルクール」
「ああ、ボクが1人で戦う。神通力を確かめるんだ」
「そうか、覚悟を決めた男を応援するとしよう」
それ以上はディードは何も喋らない。軽く樹洞の壁に触れると隠されていた入り口が現れ、深い森の中ではあるが再び陽の光が射し込んでくる。
鬱蒼とした森の中では、まだバーゲストの姿は見えないが、間違いなくバーゲストが襲いかかってくる。
「来ますわ、ご主人様」
「ああ、分かってる」
リオンの聴覚がバーゲストの存在を感じとるが、身構えることはしない。ボクの意思を尊重し、必要な情報だけを伝えてくれる。
「来たな」
ボクの耳でも、草木の揺れ動く音が聞こえる。そして姿を現したのは、ボクの見えていた6本足のバーゲスト。
胸騒ぎの感覚が、より鮮明になって伝わってくる。バーゲストの鋭い牙と爪、凶悪な尾。どれをとっても、掠りでもすればボクの命はない。中でも厄介なのは強化された2本の前足で、軽く振っただけでも斬撃が飛ぶ。幾つもの悪い結果が脳裏をよぎり、そして記憶として積み重なってゆく。
ああ、ボクが右に動けば頭が吹き飛ばされる。左に動けば上半身と下半身はバラバラになる。一瞬で、ボクは何回死ぬのだろう。無限に繰り返される光景に、普通ならば精神が崩壊するのかもしれない。
それでも生き返れば、大切な人を守れる。繰り返される死が、ボクに経験を与えてくれる。何が良くて、何がダメなのか。一度じゃ分からなくても、繰り返されることで見えてくるものもある。そう思えば、ボクには恐怖も不安も感じない。
そして最後に残ったのは、ボクの短剣がバーゲストの魔石を砕く光景。胸騒ぎは、嘘のように消えてなくなる。
「大丈夫だ。信じろ!」
ボクの声で6本足のバーゲストが、こちらに気付く。そして短剣を抜けば、それに呼応して姿勢を低くし戦闘態勢をとる。
「ボクの勝ちだ」
ボクが一歩前に踏み出せば、バーゲストはそれ以上の速さで跳躍し、距離を詰めてくる。目の前のバーゲストが何を考えて、どう行動するのか。ボクには見える!
「ラドル、全力だ!」
ラドルの加護を最大限に受けて、全力でバーゲストに向かい駆ける。バーゲストが初撃で放つ斬撃は、躱すしかない。幾らクオンの影縛りで動きを止めても、放たれてしまった斬撃は止まらない。
ただ、バーゲストが軽く振るう右前足は、ボクを舐めきっている。魔力も感じないエルフの小僧なんて、バーゲストにキズ一つ付けれない。
それは、間違いじゃない。ボクの後ろには、元ギルドマスターのディードと精霊の巫女のリオンがいる。どう考えてもボクが驚異にならないことは、ボク自身が一番知っている。
その舐めきった攻撃だからこそ、ボクにも勝機が生まれる。ラドルの最大の加護を受けて斬撃を躱すと、頭からバーゲストの下へと滑り込む。バーゲストはボクの上を通過し、無防備な後ろ姿が見える。
「クオン、出番だ!」
ボクの影が伸びると、クオンの影縛りがバーゲストの動きを止める。ボクとクオンの関係性が深まれば、もっと影縛りの効果は強くなるが、異形種相手にはまだ完全に動きを止めることが出来ず、動きを止めたのは下半身だけ。
それでも、ボクにはバーゲストの凶暴な尻尾の根本に魔石があるのが分かる。そしてボクの短剣は、針金のような体毛を掻き分け魔石を貫く為に、細く長く変化している。
後は何も考える必要はなく、ボクの全力の刺突を放つ。
パリンッと硝子が砕ける感触が伝わってくると、クオンの影縛りの効果がなくなり、バーゲストの体は崩れ落ちる。すでに紅い瞳の輝きは失われているが、少しだけ恨めしい目をしたように見えた。
「一思いでやっただろ。そんな顔するなよ」
この周辺の森には、幾つかのトレントが生息している。大地に深く根を張り動くことは出来ないが、枝葉を揺らして情報共有している。だから、トレント達の棲む森に入れば、隠れることは出来ない。
「かなり距離はある。まだまだ時間はかかるな」
「えっ、そんな。でもボクには確かに感じる」
ボクの胸騒ぎスキルで感じる不確かなものと、トレント達の視覚で見つけたものであれば、どちらが信用に値するかは一目瞭然。
もう一度、胸騒ぎを意識する。知ろうとすれば知るほど、異形のバーゲストがこちらに向かってきている。
「双頭じゃない。6本足のバーゲストだ」
「違うぞ、ルクール。異形とはいえ、バーゲストごときが見つけれるわけがなかろう」
「ご主人様、私もバーゲストの音は聞こえませんわ」
そこで、初めて気付かされる。バーゲストが、ボク達を見つけて近寄ってくるなんてありえない。それなのに、ボクにはバーゲストが襲いかかってくる光景が見える。
「それがルクールの覚醒した力なのだろう」
「えっ、何が?ボクの見えているものと、現実は違ってるのに」
「これから起こる、未来の話かもしれん」
「そんなの馬鹿げてる。ボクの妄想かもしれないんだぞ」
「簡単なことよ。確かめたければ、ここで待てばイイ。自ずと答えが出る」
何度繰り返してもボクの胸騒ぎスキルは、こちらに向かってくる異形のバーゲストの姿をハッキリと捉える。今までと少しだけ違うのは、命の危険を感じる程の驚異とは思えない。
ただ、生死を掛けた戦いを経験し、感覚が狂ってしまったのかもしれない。一歩間違えれば命がけの検証に、ディードとリオンをも巻き込んでイイのだろうか。
「たかが異形のバーゲストごときで、何を悩む。ゴセキの地下には、異形を造り出す化物がおるのだ。ここで躓くようならば先はない」
「そうですわ。ご主人様の覚醒した力を見極める良い機会と思いましょう」
樹洞の中で待つと、森の中をウロウロとさ迷いながらも、バーゲストは少しずつ近付いてきている。それでも、ボクの胸騒ぎの大きさは変わらない。
「このままなら、ボク達の目の前までバーゲストが来る。樹洞から出よう」
「どうするんだ、ルクール」
「ああ、ボクが1人で戦う。神通力を確かめるんだ」
「そうか、覚悟を決めた男を応援するとしよう」
それ以上はディードは何も喋らない。軽く樹洞の壁に触れると隠されていた入り口が現れ、深い森の中ではあるが再び陽の光が射し込んでくる。
鬱蒼とした森の中では、まだバーゲストの姿は見えないが、間違いなくバーゲストが襲いかかってくる。
「来ますわ、ご主人様」
「ああ、分かってる」
リオンの聴覚がバーゲストの存在を感じとるが、身構えることはしない。ボクの意思を尊重し、必要な情報だけを伝えてくれる。
「来たな」
ボクの耳でも、草木の揺れ動く音が聞こえる。そして姿を現したのは、ボクの見えていた6本足のバーゲスト。
胸騒ぎの感覚が、より鮮明になって伝わってくる。バーゲストの鋭い牙と爪、凶悪な尾。どれをとっても、掠りでもすればボクの命はない。中でも厄介なのは強化された2本の前足で、軽く振っただけでも斬撃が飛ぶ。幾つもの悪い結果が脳裏をよぎり、そして記憶として積み重なってゆく。
ああ、ボクが右に動けば頭が吹き飛ばされる。左に動けば上半身と下半身はバラバラになる。一瞬で、ボクは何回死ぬのだろう。無限に繰り返される光景に、普通ならば精神が崩壊するのかもしれない。
それでも生き返れば、大切な人を守れる。繰り返される死が、ボクに経験を与えてくれる。何が良くて、何がダメなのか。一度じゃ分からなくても、繰り返されることで見えてくるものもある。そう思えば、ボクには恐怖も不安も感じない。
そして最後に残ったのは、ボクの短剣がバーゲストの魔石を砕く光景。胸騒ぎは、嘘のように消えてなくなる。
「大丈夫だ。信じろ!」
ボクの声で6本足のバーゲストが、こちらに気付く。そして短剣を抜けば、それに呼応して姿勢を低くし戦闘態勢をとる。
「ボクの勝ちだ」
ボクが一歩前に踏み出せば、バーゲストはそれ以上の速さで跳躍し、距離を詰めてくる。目の前のバーゲストが何を考えて、どう行動するのか。ボクには見える!
「ラドル、全力だ!」
ラドルの加護を最大限に受けて、全力でバーゲストに向かい駆ける。バーゲストが初撃で放つ斬撃は、躱すしかない。幾らクオンの影縛りで動きを止めても、放たれてしまった斬撃は止まらない。
ただ、バーゲストが軽く振るう右前足は、ボクを舐めきっている。魔力も感じないエルフの小僧なんて、バーゲストにキズ一つ付けれない。
それは、間違いじゃない。ボクの後ろには、元ギルドマスターのディードと精霊の巫女のリオンがいる。どう考えてもボクが驚異にならないことは、ボク自身が一番知っている。
その舐めきった攻撃だからこそ、ボクにも勝機が生まれる。ラドルの最大の加護を受けて斬撃を躱すと、頭からバーゲストの下へと滑り込む。バーゲストはボクの上を通過し、無防備な後ろ姿が見える。
「クオン、出番だ!」
ボクの影が伸びると、クオンの影縛りがバーゲストの動きを止める。ボクとクオンの関係性が深まれば、もっと影縛りの効果は強くなるが、異形種相手にはまだ完全に動きを止めることが出来ず、動きを止めたのは下半身だけ。
それでも、ボクにはバーゲストの凶暴な尻尾の根本に魔石があるのが分かる。そしてボクの短剣は、針金のような体毛を掻き分け魔石を貫く為に、細く長く変化している。
後は何も考える必要はなく、ボクの全力の刺突を放つ。
パリンッと硝子が砕ける感触が伝わってくると、クオンの影縛りの効果がなくなり、バーゲストの体は崩れ落ちる。すでに紅い瞳の輝きは失われているが、少しだけ恨めしい目をしたように見えた。
「一思いでやっただろ。そんな顔するなよ」
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