ボクは胸騒ぎスキルで、この世界を駆け抜ける!

さんが

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第17話 舞うエプロン

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「リオン、先ずはこれを上に着ろ」

 そう言って、ディードが何かをリオンに手渡している。三角ビキニが大地の精霊の巫女の正装であっても、それだけでは戦いには向かない。それに、ボクには三角ビキニ姿のリオンは刺激が強すぎる。
 もうボクの頭の中は、アージさんの怒る顔と言い訳で一杯で、自然と耳が痛くなる。

「獣人族は、何も着ない方が動きが良くなりますのよ」

「そうじゃない。ルクールの戦闘能力を上げる為のマジックアイテムだ」

「あら、そんな便利なマジックアイテムがあるのですね」

「まあ、そんなものだ。イイから見てみろ」

 しかし、ボクが思っているものとは少し違う。幾ら小さく折り畳まれているとはいえ、ディードが取り出した物は明らかに小さい。

「ご主人様の戦闘能力向上ですか?それならば、仕方ありませんわね」

 そう言いながら、リオンはディードから受け取ったものを広げてみせる。

「えっ、何でエプロンなんだ!」

 出てきたのはネコ柄の首掛けエプロンで、突っ込まずにはいられない。しかし、リオンは何の疑問も抱かずに、素直に身に付けて見せる。

「似合っていますかしら?」

 着心地を確かめるためか、くるりと一回転すると首を傾げてくる。三角ビキニにエプロン。初めて見る着こなしだが、何とも言えない背徳感に鼓動が高鳴ってしまう。
 本当ならば、ここで何か言わなければマズいことが起こる。アージさんなら、しばらく機嫌が悪い。だが、ボクの思考能力の限界を超えている。

「ええ、ご主人様が満足して頂けたみたいで安心いたしましたわ。淡いピンク色は、着たことがありませんのよ」

 しかし、ボクは何も言っていないのに、リオンは勝手に満足してしまう。思わず顔に手を当てて確認してしまうが、何とか平静を保てている。

「バカ者が。狐人の聴覚は、獣人族の中でもずば抜けて優れておる。ルクールの鼓動の変化は、手に取るように分かる」

「……何で、それがボクの強化になるんだよ」

「皆まで言わねば分からんか?知りたいなら、聞かせてやるぞ」

「いや、今は止めておくよ。それよりも、先を急ごう」

 形勢不利の状況から逃げるわけじゃなく、単純に今は先を急ぐ必要がある。異形種のバーゲストを倒し、少し胸騒ぎは収まっている。鼓動は高まっているが、どちらも一時のことでしかない。
 当然これからゴセキの山に向かえば、もっと魔物は増える。ゴセキの山を意識しただけで胸騒ぎは大きくなるし、今より困難な未来しか待っていない。かといって、イスイの村には戻る選択肢もない。村に戻ることを意識すれば、もっと大きな胸騒ぎがするのだから。

 結局は、大地の盟約に従って先へと進むしかない。それならば、魔物の気配が消えた今こそ、少しでも先へと進む機会。時間が経てば、再び魔物が集まってくる。

「そうだな、お楽しみは後に取っておこう」




 いざリオンと共に行動してみると、ボク達の相性は案外良いと思える。ずっと、ぼっちだったボクの意見でしかないが……。

 ボクの胸騒ぎスキルは、魔物がどの方向に居て、どれくらいの驚異度かが分かる。魔物に近付けば、リオンの聴覚がより詳しい場所を探知してくれる。その探知は、バーゲスト達よりも遥かに上で、ボク達には魔物の動きが手に取るように分かってしまう。常に有利な状況で戦えるのだから、敢えて魔物を避けて通る必要はない。

 ただ、リオンが大失態を犯しそうになったのは、超がつく程の脳筋体質であること。目についたものから襲いかかり、そこには戦略や戦術の欠片もない。

「リオン、待て!もう少し近付いてからだ。それに、先ず狙うのは右の上位種からだぞ」

 今も、衝動的に襲いかかりそうになったリオンが、ディードに止められている。

「ええ、分かってますわ。さあ、全力でかかってきなさい」

 興奮気味に、バーゲストの中に突っ込んで行くリオン。エプロンをヒラヒラさせながら、徒手空拳で次々とバーゲストを倒してゆく姿は異様で、数で勝るバーゲスト達は連携した動きを見せることすら出来ずに、次々と倒されてゆく。

「これって、オーバーキルだよな」

「リオンは加減が出来んのだから仕方あるまい。武器も破壊してしまうから使わんのだぞ」

 女性を矢面に立たせるのは男として情けない気がしたが、実際にリオンの戦っている姿を見れば納得させられるだけの、実力と埋めがたい差がある。
 それどころか次々と頭を弾き飛ばされるバーゲストには、同情を覚えずにはいられない。それ程までに、リオンの戦闘能力の高さはずば抜けている。

 残念だけどボクの戦闘能力は、3人の中でも間違いなく低い。1対1の戦いで、クオンの影縛りのアシストがあってこそ上位種とも戦える程度。
 ディードは、力の全てを見せてはいないが、ボクよりも身体能力は高い。それでも近接戦闘タイプじゃなく、あくまでも精霊魔法使いだ。それに、呪いのかかった黒龍の鞭を必要以上に使わせたくない。

 しかし、リオンに欠けているものは、ボク達が埋めてやることが出来る。いや、ボクも埋めてやれるようになろうと誓う。



 そして、徐々に露になるゴセキの山々の姿。大きく崩れ流れ出した土砂は、森の地形を大きく変えてしまっている。それだけでなく、黒い靄に隠された山肌の奥にポッカリと空いた大穴。そこから感じる、無数の魔物の気配。

「こんなにも姿が変わってしまうなんて、ありえませんわ」

 リオンがゴセキの山を出た時には無かった変化で、獣人族の気配は全く感じられない。リオンの口からは牙が覗き、無意識の内に殺気を放っている。

「慌てるでない。まだ、ミュラー様の加護は変わらず続いておろう。それに、そんな柔な種族でもあるまいに」

「ええ、そうですわよ。エルフ族とは違い、優秀な種族ですわ」

 リオンは口を引き結び、覗かせた牙とともに不安を押し隠す。

「心配しなくても、後はルクールが何とかしてくれる」

「はい、ご主人様にお任せしますわ」
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