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第7話 光と影
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暗い森の中を漂う光は、上手く木々を避けながら、森を奥へ奥へと進んでゆく。蛍ほどの大きさの光は、青くて冷たくさえ感じる。光の正体は、ウィスプのラドル。
止まることの無かった、光の動きが止まる。木々に止まっているのではなく宙で静止し、青かった光が次第に色を変えてゆく。青から緑、緑から黄色へと変わると同時に、輝きも増してゆく。
ボクには精霊の声は聞こえないが、ラドルにはボクの声が聞こえている。そして、ラドルは明滅したり光の色を変えることで、ボクに情報を伝えてくる。
青色は“異常なし”で、何か発見すれば色を変える。緑色なら“獣”、黄色は“バーゲスト”、赤色は“まだ見たことのない魔物”のように、ハッキリと分かる情報。
「まさか、こんな近くに魔物がいるなんて···」
まだ、イスイの村を出て2時間も歩いていない。ここまで村の近くに、魔物が来たことはないし、ここにはイスイの森の王者である虎の棲みか。魔物であっても、簡単に侵入出来ないはず。
「ルクールの言う通りに、ここに来たのだ。今さら、何を驚くことがある」
確かに、胸騒ぎがする方へと進んできた。いつものギルドの依頼と同じで、やることは何も変わらない。しかし、今までではあり得なかったことだけに、半信半疑でもあった。
「ディードは、ボクを信用するのか?」
「何を言うかと思ったら。妾の女の勘は、外れたことがない」
数時間前までは、ギルドの依頼実績だとか言ってたくせいに、今は女の勘だと言い切ってくる。
「勘···だったのか?」
「だから、妾に全てを見せてみろと言うておろうに。そんなことは、直ぐに答えが出る。まあ、拒んでも簡単には諦めんがな」
クツクツと笑うディードに、少しだけ心が和らぐ。ヒエラルキーの最下層で、能無しのエルフ。誰もボクの言うことも、ボクの存在さえも認めてくれない。だけど今、初めて認めてもらえた気がした。どんな理由であれ、それは嬉しかった。
「ありがとう、ディードさん」
「次に、“さん”付けしたら、一生消えない心のキズをくれてやる」
「アージさんにだって、出来てないのに」
「あんな小娘に、妾が負けるわけにはいかんのだ」
光の精霊と影の精霊は、ボクには対極にあると思えた。ラドルとクオンの鬼ごっこは、一方的にクオンが追いかけまわしていたし、それがアージさんとディードさんの力関係にも見えてしまった。互いの長所を活かすことなく、打ち消しあうような、そんな危うい関係性。
「本当に光の精霊と影の精霊は、共存出来るんだよな」
「問題ないと、何度も言うておろう。やってみれば分かる。ルクールに欠けているのは経験だ。まだまだ、やってみて、知ることも多かろう」
「ああ、そうかもしれないな。それじゃあ···行くぞ、ディード!」
ラドルの黄色く光る灯りは、暗闇の森の中で行動するには、まだ心もとない。しかし、まだここはイスイの村の近く。歩いて半日以内の距離ならボクの庭で、どこに何があるのかは全て把握している。森の植物や、僅かな地形の起伏、獣達の縄張りまで全てを知っている。
僅かな光でも問題なく走れるが、後に続くディードのことを考えて、多少加減してみる。しかし、ディードは問題なく後ろをついてきているだけでなく、聞こえてくる足音は、ボクよりも小さくて軽やか。ボクの方がディードよりも身長は低いし、ディードはずっとギルドに籠りっぱなしだった。少し自信があっただけに、得意分野で負けたことが悔しい。
でもそんな事で悲しんでる暇はない。黄色い光に辿り着くと黒柄の短剣を抜く。それと同時に、黄色のぼわっとした光から、白い光線が放たれる。
その光線の射す先にある2つの赤い点。
「見つけた、バーゲストだ」
ラドルを追い越し、バーゲーストを目指す。今までのように、逃げることはしない。ラドルがボクの盾となってくれるなら、クオンはボクの剣。それを信用して、最短距離で間を詰める。もちろん、バーゲストの赤い瞳もボクを捉えている。微かに唸り声が聞こえ、草むらの中で伏せていたバーゲストが立ち上がる。
その瞬間、ボクの後ろのラドルが大きく輝きを放つ。ぼわっとした灯りでなく、目が眩むほどの閃光は、ボクの影を大きく長く伸ばす。その長く伸びた影の中から、クオンが飛び出したのは見えたが、何をしたかはハッキリと見えない。
「クオンの仕事は終わったぞ。後は、ルクールの番よ」
いつもならば、バーゲストは威嚇の咆哮をあげ、襲いかかってくるはずなのに、今は固まったままでいる。それどころか、クオンが頭の上に飛び乗っても、微動だにしない。
「ほれ、クオンも待ちくたびれておる」
「うおぉぉぉぉーーっ!」
バーゲストが上げれなかった咆哮を、代わりにボクが上げる。相手を萎縮させる為でなく、ボクの体を動かせる為の雄叫び。後先は考えず、ボクの持つ力を全てを出しきるつもりで、全速力で駆ける。いつもなら、避けて通る花だって気にしない。
舞い上がった花弁が落ち始める前に、ボクの短剣がバーゲストの首筋に突き立てられる。
心拍数が上がり、鼓動も強く感じる。流れ落ちる汗が止まらない。今までは、確実に勝てる方法でしか勝負したことがない。何度も倒したことがある相手でも、初めての真向勝負に、興奮と恐怖の入り混ざった感情が複雑に絡み合う。
「初めてにしては、まずまずだな。後は実戦を繰り返すのみだな」
固まっていたボクの手に、ディードの手が触れると、突き刺さっていた短剣を引き抜く。それと同時に、バーゲストは崩れ落ちる。クオンの能力が解かれたのか、それともバーゲストが力尽きたのか、ボクには分からない。
「どうだ、クオン。ルクールの影の中の居心地は?」
ディードがクオンに話しかけるが、やはりボクにはクオンの声は聞こえない。
「そうか、それなら好都合。クオンの好きにして構わんぞ」
クオンがボクの足下に近づいてくるので、ディードとの会話は終わったみたいだ。ボクの力になってくれた初めての精霊を、ぞんざいにすることなんて出来ないが、声も聞くことが出来ないネコ姿の精霊に、どう対応したら良いかも分からない。
「ディード、どうしたイイんだ?」
「まあ、心配するな。見ておれ!」
さらにクオンが近寄ってくると、足の周りをグルグルと周り始め、体を擦り付けてくる。
「えっ、消えた?」
「喜べ、新しい棲みかとして認められたぞ」
止まることの無かった、光の動きが止まる。木々に止まっているのではなく宙で静止し、青かった光が次第に色を変えてゆく。青から緑、緑から黄色へと変わると同時に、輝きも増してゆく。
ボクには精霊の声は聞こえないが、ラドルにはボクの声が聞こえている。そして、ラドルは明滅したり光の色を変えることで、ボクに情報を伝えてくる。
青色は“異常なし”で、何か発見すれば色を変える。緑色なら“獣”、黄色は“バーゲスト”、赤色は“まだ見たことのない魔物”のように、ハッキリと分かる情報。
「まさか、こんな近くに魔物がいるなんて···」
まだ、イスイの村を出て2時間も歩いていない。ここまで村の近くに、魔物が来たことはないし、ここにはイスイの森の王者である虎の棲みか。魔物であっても、簡単に侵入出来ないはず。
「ルクールの言う通りに、ここに来たのだ。今さら、何を驚くことがある」
確かに、胸騒ぎがする方へと進んできた。いつものギルドの依頼と同じで、やることは何も変わらない。しかし、今までではあり得なかったことだけに、半信半疑でもあった。
「ディードは、ボクを信用するのか?」
「何を言うかと思ったら。妾の女の勘は、外れたことがない」
数時間前までは、ギルドの依頼実績だとか言ってたくせいに、今は女の勘だと言い切ってくる。
「勘···だったのか?」
「だから、妾に全てを見せてみろと言うておろうに。そんなことは、直ぐに答えが出る。まあ、拒んでも簡単には諦めんがな」
クツクツと笑うディードに、少しだけ心が和らぐ。ヒエラルキーの最下層で、能無しのエルフ。誰もボクの言うことも、ボクの存在さえも認めてくれない。だけど今、初めて認めてもらえた気がした。どんな理由であれ、それは嬉しかった。
「ありがとう、ディードさん」
「次に、“さん”付けしたら、一生消えない心のキズをくれてやる」
「アージさんにだって、出来てないのに」
「あんな小娘に、妾が負けるわけにはいかんのだ」
光の精霊と影の精霊は、ボクには対極にあると思えた。ラドルとクオンの鬼ごっこは、一方的にクオンが追いかけまわしていたし、それがアージさんとディードさんの力関係にも見えてしまった。互いの長所を活かすことなく、打ち消しあうような、そんな危うい関係性。
「本当に光の精霊と影の精霊は、共存出来るんだよな」
「問題ないと、何度も言うておろう。やってみれば分かる。ルクールに欠けているのは経験だ。まだまだ、やってみて、知ることも多かろう」
「ああ、そうかもしれないな。それじゃあ···行くぞ、ディード!」
ラドルの黄色く光る灯りは、暗闇の森の中で行動するには、まだ心もとない。しかし、まだここはイスイの村の近く。歩いて半日以内の距離ならボクの庭で、どこに何があるのかは全て把握している。森の植物や、僅かな地形の起伏、獣達の縄張りまで全てを知っている。
僅かな光でも問題なく走れるが、後に続くディードのことを考えて、多少加減してみる。しかし、ディードは問題なく後ろをついてきているだけでなく、聞こえてくる足音は、ボクよりも小さくて軽やか。ボクの方がディードよりも身長は低いし、ディードはずっとギルドに籠りっぱなしだった。少し自信があっただけに、得意分野で負けたことが悔しい。
でもそんな事で悲しんでる暇はない。黄色い光に辿り着くと黒柄の短剣を抜く。それと同時に、黄色のぼわっとした光から、白い光線が放たれる。
その光線の射す先にある2つの赤い点。
「見つけた、バーゲストだ」
ラドルを追い越し、バーゲーストを目指す。今までのように、逃げることはしない。ラドルがボクの盾となってくれるなら、クオンはボクの剣。それを信用して、最短距離で間を詰める。もちろん、バーゲストの赤い瞳もボクを捉えている。微かに唸り声が聞こえ、草むらの中で伏せていたバーゲストが立ち上がる。
その瞬間、ボクの後ろのラドルが大きく輝きを放つ。ぼわっとした灯りでなく、目が眩むほどの閃光は、ボクの影を大きく長く伸ばす。その長く伸びた影の中から、クオンが飛び出したのは見えたが、何をしたかはハッキリと見えない。
「クオンの仕事は終わったぞ。後は、ルクールの番よ」
いつもならば、バーゲストは威嚇の咆哮をあげ、襲いかかってくるはずなのに、今は固まったままでいる。それどころか、クオンが頭の上に飛び乗っても、微動だにしない。
「ほれ、クオンも待ちくたびれておる」
「うおぉぉぉぉーーっ!」
バーゲストが上げれなかった咆哮を、代わりにボクが上げる。相手を萎縮させる為でなく、ボクの体を動かせる為の雄叫び。後先は考えず、ボクの持つ力を全てを出しきるつもりで、全速力で駆ける。いつもなら、避けて通る花だって気にしない。
舞い上がった花弁が落ち始める前に、ボクの短剣がバーゲストの首筋に突き立てられる。
心拍数が上がり、鼓動も強く感じる。流れ落ちる汗が止まらない。今までは、確実に勝てる方法でしか勝負したことがない。何度も倒したことがある相手でも、初めての真向勝負に、興奮と恐怖の入り混ざった感情が複雑に絡み合う。
「初めてにしては、まずまずだな。後は実戦を繰り返すのみだな」
固まっていたボクの手に、ディードの手が触れると、突き刺さっていた短剣を引き抜く。それと同時に、バーゲストは崩れ落ちる。クオンの能力が解かれたのか、それともバーゲストが力尽きたのか、ボクには分からない。
「どうだ、クオン。ルクールの影の中の居心地は?」
ディードがクオンに話しかけるが、やはりボクにはクオンの声は聞こえない。
「そうか、それなら好都合。クオンの好きにして構わんぞ」
クオンがボクの足下に近づいてくるので、ディードとの会話は終わったみたいだ。ボクの力になってくれた初めての精霊を、ぞんざいにすることなんて出来ないが、声も聞くことが出来ないネコ姿の精霊に、どう対応したら良いかも分からない。
「ディード、どうしたイイんだ?」
「まあ、心配するな。見ておれ!」
さらにクオンが近寄ってくると、足の周りをグルグルと周り始め、体を擦り付けてくる。
「えっ、消えた?」
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