上 下
6 / 27

第6話 ガーラの光

しおりを挟む
 “ガーラの光”

 それが、ボクのパーティーの名であり、冒険者見習いを卒業し、新しい始まりの第一歩となる。

 このパーティー名は、アージさんが付けてくれた。“ガーラ”は、ボクの両親が冒険者だった時のパーティー名から来ている。そして“光”は、恐らくアージさんのことだと思う。詳しくは教えてくれなかったが、ボクが初めて組むパーティーは、一瞬であっても“ボク”と“アージさん”の2人で、リーダーはボクであること。そこだけをアージさんは強く拘り、後のことは何も言わずに全てを了承した。

 リーダーに関しては拒否したかったが、ディードもそのつもりだったので、ボクが拒否することは出来なかった。リーダーといっても、ボクには多数決の結果をひっくり返せるだけの発言力はない。

 そして、日付けが変わると同時に、ボク達はイスイの村から旅立つ。ボク達といっても、ボクとディードの2人しかいないし、見送ってくれる人なんて誰も居ない。
 精霊の巫女となったアージさんは、世界樹の側から離れることを許されない。僅かな時間の空白さえもつくらない為に、日付けが変わる前にボクとアージさんは会えなくなってしまったが、それはアージさんは分かっていたみたいだ。

 それに、イスイのエルフ族にとって、今は過去最大の緊急事態。イスイの村の長はダーピアに変わり、ギルドマスターはダンドールが務め、ギルドマスターだったディードは一介の冒険者へと戻る。朝になれば、イスイの村からもギルドからも、緊急事態宣言が発動される。

 それよりも前に、ボク達は村を出る。新月の闇に紛れ、ディードとお揃いの黒いローブを纏えば、誰にも気付かれることはない。

「さあ行くか。アージのビスチェ姿が見たければ、さっさと仕事を済ませるんだな」

 ボクの緊張感を台無しにする、ディードの茶化した言葉に、思わずジト目になってしまう。

「生き甲斐があれば、人はしぶとくなるもの。生死を分かつとは、意外とそんなものだ」

「あまり説得力がないんだけど、そんなものがディードさんにもあるんだ?」

「一つ忠告しておく。次に、その呼び方をすれば、何があっても助けんと思え」

 アージさんに拘りがあったように、ディードにも拘りがある。それは、名前を呼び捨てにさせること。長きに渡り、イスイのギルドマスターとして頂点に立ってきたことでの反動なのか、それともアージさんへの対抗心なのか、もしかすると性癖なのか···。

「これから、どうすんるんだ?」

 目的はゴセキの山で起こった異変を調べることだが、村を出ることを優先して、どう行動するかは決めていない。もちろん、数時間前まで冒険者見習いだったボクが、元ギルドマスターのディードさんに指示を出せるわけがない。

「まずは、お互いを良く理解し、隅々まで知ることだ」

 そう言うと、ディードがボクの前に立つと、ゆっくりとボクの体に手を伸ばし、ローブをはだけさせる。新月でもあり、森の中にいれば星の光は全く届かない。しかし、ディードの顔がハッキリと見える。フードは被っておらず、唐紅の髪が微かに風に靡く。

 胸騒ぎは掻き消され、鼓動が高鳴る。

「えっ、なっ、なっ、何をする」

「さあ、全てを見せてもらうぞ」

 さらに鼓動が高鳴り、全身を激しく血が駆け巡るが、体は動かない。唯一出来たのは、目を閉じることだけ。

「ほう、なかなかの物じゃな。これ程までとは! これなら、相性も悪くないやもな」

 感嘆するディードの言葉とともに、光が射したように感じる。目を閉じていても感じる強い光に、何かが動く気配がする。ゆっくりと目を開けると、ボクの前には小さな光の玉が浮かんでいる。

「何だ、これっ?」

「光の精霊ウィスプ、アージの使い魔だ」

 ディードの言葉を肯定するように、ウィスプは激しく明滅する。

「お主の名は?」

 また、ウィスプが明滅する。

「ラドルか。あの小娘が付けた名にしては、良き名よな」

 またディードの言葉に反応し、ウィスプはボクの周りをグルグルと飛び回る。ディードとラドルの間では、会話は成立しているが、やはりボクには精霊の声は聞こえない。

「ウィスプなんて、いつの間に?」

「最初からだ。気付かぬはルクールだけよ!」

 グルグルと動き回っていたウィスプが、今度はボクの腰の辺りで消えると、また周囲は暗闇に包まれる。

「消えたっ」

 その場所にあるのは、母の形見である白柄の短刀。そっと抜けば、薄っすらと光る刃。そして、再びウィスプが飛び出してくるが、今度は球状から平たい円となってみせる。

「ほう、ラドルがルクールの盾となるのだな。それでは、妾はどうするかの?」

 ディードは目を閉じ、少しだけ考えている素振りをみせるが、最初から口許には笑みが浮かんでいる。胸騒ぎはしないが、あの笑みは怖い。思わず、一歩後退りしてしまう。

 するとディードの胸元が膨らみ出し、ローブが弾けると黒い影が飛び出してくる。それと同時にラドルが、ボクの周りを激しく動きまわり、幾度も短刀への出入りを繰り返す。

「ディード、何が起こってるんだ?」

「急くでない。せっかちはモテぬぞ」

 最初は何が起こったかが分からなかったが、次第に目が慣れてくると、ラドルを追いかける黒い塊の姿がハッキリと見えてくる。

「黒猫?」

「影の精霊ケットシーのクオンよ。妾の使い魔の中でも、気紛れで滅多に人前には出てこんのだが、ルクールは気に入られたようだな」

「ボクじゃなくて、ラドルを気に入っただけだろ」

 ひとしきりボクを中心にして、ラドルとの鬼ごっこが繰り返されるが、少しだけラドルの飛び方がふらつき始める。

「そこまでだ、クオン!」

 ディードの静止する声で、ボクの目の前でラドルとクオンの動きが止まる。

「ルクールに力を貸してやってくれるかの?」

 ケットシーがボクの周りをウロウロと歩きまわり、そして足下に寄ってくると身体を擦りつけ始める。

「これって大丈夫なのか?」

「ああ、妾の使い魔の中でも、とっておきの剣となろう」

 はだけたローブを直しながら、ディードが答える。ボクの目を惹くように、わざ胸元を一度だけ大きく開き、ローブの下がビスチェでは無いことを見せると、ディードはクツクツと笑う。

「お目付け役がおるからの、下手なことは出来んわ♪」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...